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とまり木 常盤木 ごゆるりと

ひねもすのたのた

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疲労はチョコでやわらげる


せっかくの月食だというのに、あいにくのお天気。
せっかくの桜だというのに、やっぱりあいにくのお天気。


もったいないですね。滅多にないことですのに。しかも紳士のお誕生日に!
けれどお天気ばかりは、どうしようもありませんし。
桜が散ってしまいます。
まだ山桜があるので、むしろ山桜のほうが好きなので、問題なしです。
山桜と八重があればそれで。

何だか半月ぶりくらいに顔を合わせた姉から。
「どうしたのやせたよ!? 顔変わったよ!?」
「だいじょうぶなの、ねえだいじょうぶなの!?」
と、物凄い勢いで心配されて、ちょっと笑ってしまいました。
ええだいじょうぶ、きっとだいじょうぶ……。
だってまだ食欲がありますもの!
本当にあかん時は食欲さえなくなりますからね。
ただし夜の八時以降は調子に乗って食べてはいけないと思いました。
アイスわーいとかって食べたら寝る時に胃もたれして胃もたれして。
でもアイスなら仕方ないとも思いました。だめですね。

そんな色々とどうしようもないまま、四十一個目。
これもそこそこ苦戦したのですが、乗り越えました。
ただし、この幾つか後にきたもので、現在詰まっています。
もうそろそろ、書き溜めストックも尽きます……。









『パレットナイフに光を乗せて』

 豆電球が一つきり灯る部屋で、寝床から抜け出した幼子は窓辺に佇む。硝子を覆う日除けへそろそろと指を伸ばし、薄く細い板状の部分へ二本差しこんでから開くと、外界と室内を隔てているブラインドに隙間がこしらえられた。窓に現れた更に小さなもう一つの窓に、小藤は妙に訳知り顔で頷いた。
 いつの間にか桟の側に現れていた円い影を気配だけで察したか、特に驚いた様子もなく、相手へ視線も向けないまま小藤は低く囁きかける。
「みて、ぶーちゃんII。あそこのお店、こんな遅いじかんでも開いてるのよ」
 誰かに聞かれてはいけない世界の秘密を明かすように、耳打ちじみて声をひそめる。他者がどう思おうとも、少なくとも小藤にとってこの事実は、目を見張るほどの重大事だった。
 探究心を刺激されるあまり、ついつい前のめりに見入っていたものの、ふと傍らのこぶたが、円い体で必死に背伸びしていることに少女は気がついた。ろくに返事もせず、「んー、んー!」と必死の掛け声を漏らしながら窓の外を見ようと試みているのを見て、慌てて小藤は床へ膝をつく。
 いくら感想を求めようとも、ブラインドは小藤の指が少女の目線近くへ作っている小窓以外の場所では、外への見晴らしをしっかり遮っている。よって、桟に腰を据えているこぶたの位置からは、どう頑張ろうと何も見えない。小藤は急いで顔の高さをぶーちゃんIIへ近づけると、彼の前に指を伸ばして新たな隙間を作った。
 手製の小窓から夜が覗き、ようやく人心地ついたのか、申し訳程度の短い足で爪先立つのをやめて、こぶたはふにゃりとその場にへたりこむ。ふう、と息を一つ吐いてから、ぶーちゃんIIは顔を上げ、ようやく少女と同じものを眺めた。
「ああ。本当だ」
「ね。ね? 凄いでしょう!」
 賛同を得られて、小藤はうきうきとはしゃいだ声を上げる。
「もう十時半なのに、まだ開いてるの!」
 一人と一匹の前に広がる光景は、暗がりの部屋とは対照的な、満ち溢れる圧倒的な輝きを手ですくえそうなほどで。海と山に挟まれた街を、とりどりの明かりが無数に灯っては光の回廊として豪奢に飾りつける、百万ドルと称される夜景が少女とこぶたを待ち受けていた。


 普段、小藤が何気なく暮らしている自宅は、コンクリートで覆われた街を眼下に眺めることのできる高層階へ位置している。窓の外が賑やかなのは、洗練された装いの人々が行きかう大通りや、たっぷりと視界を埋め尽くす品物と程よい喧騒に溢れた地下街などを日常的に見ていれば、分かりきっていることだった。
 けれど小藤の知る街の姿は、昼間だけのものに過ぎない。いつもならば、とっくに夢の国へ旅立っている時間に、見慣れた街が趣も衣装も劇的に異なった姿でいるのを見るのは、実に新鮮な経験だった。だからこそ少女は物珍しい光景へ非常に興味をそそられ、こぶたへ対し饒舌になる。
「ほんと凄いと思うの! 小藤はね、いつも九時には寝ちゃうのよ。だから、そんな遅くまで起きてられるだなんて、考えられないことだわ!」
「おや。それじゃあ今夜は、随分と夜更かしなんだね」
 ずっと指で隙間を作り続けることに疲れたのか、少女は傍らの紐を引っ張ると少しだけブラインドを巻き上げて、窓の下方へひっそりと観覧席を設けた。そんな特等席の桟へ肘から手首までをぺたりとつけて、重ねた掌の上へ顎を乗せた小藤を、ぶーちゃんIIは見やる。驚いた調子を声に含ませたこぶたへ、少女はちろりと舌を出してから「おひるねしすぎちゃった」と笑う。
「九時までには寝なさいね、ってママに言われてるせいもあるけれど……ずっとそうしてきたから、じかんがきたら眠くなっちゃう」
「規則正しく過ごしているからだよ」
「でも、たまには悪いことも、楽しいことね! そうでなきゃ、小藤、夜が暗くて明るくなるだなんて、知らないままだったもの」
 予期せず発生してしまった眠れぬ夜を、少女は全力で堪能していた。そして何か大切なことを思い出したのか、急に音量を控えると、こぶたの小さな耳へ片手を立てて、ひそひそと話しかける。
「ぶーちゃんII、あそこのお店はね、うわさによると、十一時まで開いているそうよ」
「へええ。ところで、その噂の出所は?」
「前を通りかかる時、看板に書いてあったの」
「へえー」
「凄いことねえ……!」
 街路を縁取る照明や、港にそびえる塔を演出する電飾にも負けないほど、小藤は瞳をきらきらと輝かせる。ささやかながらに華やかな、その輝きの供給源は、少女の内側からこみあげる尊敬という熱量だった。

 いくら眺めても見飽きないのか、うっとりとした眼差しを夜景へ送っていた小藤は、ふとあることに気づく。長い時間に渡って多くの明かりを見つめることで、あちらこちらに散らばる微小な差異を見定められたらしい。
 軽く目を見開いてから、瞳をきょときょと上下左右に動かして、その発見が勘違いではないか裏づけを取ろうとする。やがて確信を得ると、こぶたへ向きなおった。
「ねえ、ぶーちゃんII。いっぱい明かりがあるけれど、みんな同じ色ではないのね」
 たった今捕まえたばかりの発見を分かりやすい形で示そうと、小藤は自宅からやや離れた位置にある、別の高層住宅を指差す。その建物は、一見しただけでは幾つの窓がつけられているのか、すぐに数えきることができないほど、たっぷりとした部屋数を有している。そして、その数々の窓は小藤の言うとおり、部屋ごとに彩りを僅かずつ異ならせていた。
 桟に伏せられた小藤の肘近くに腰を落ち着けているぶーちゃんIIは、示されたものをしげしげと見上げる。ビーズの瞳に映りこむ明かりは確かに、どれもが生活の息吹を宿しながら、どれもが微妙に違っていた。あらゆる彩りを黒い双眸に呑みこんでから、ぶーちゃんIIはゆっくりと頷く。
「うん。明かり、と一口に言っても、違いが窓ごとによく出ているね」
「小藤、知らなかったわ。明かりにも色のしゅるいがあるものなのね、考えたこともなかったわ。だって、明かりは明かりだもの!」
「別の部屋と並べてみなきゃ、分かりにくいものだよ」
「ほら、見て! 」
 人差し指を伸ばすだけでは気持ちが追いつかなくなったのか、小藤は新たな事実へ少しでも近づこうと、窓へ鼻を押しつけそうな勢いで迫る。
「赤っぽい明かりのお家に、白っぽい明かりのお家。黄色もあれば、青だってあるのね! ほんとたくさん、絵の具みたいだわ」
 窓の一つ一つがパレットの小部屋なのよ、とはしゃぎながら小藤は笑う。好奇心に背を押されて身を乗り出しながらも、危ういところでこぶたとお揃いの鼻になることは避けつつ、それでもややのめりすぎの体勢で目を輝かせる。
 そんな少女に、こぶたはするりと告げる。
「きみも、その一つなんだよ」
「え?」
 きょとんと目を見開き、小藤は思わず視線を傍らのぶーちゃんIIへ向ける。すると彼は相手を見つめながら薄く微笑む。
「向こうの窓から見れば、きみも数ある、明かりの一つだ」
「小藤も? 小藤のお部屋、ブラインド下りちゃってるのに?」
「いくら上手に閉ざしても、光は漏れてしまうものさ」
「そういえば…あっちのお部屋も、カーテンは閉めてあるのに、うっすらほんのり明るく見えてるものね……」
「うん」
 改めてしげしげと、どこか鋭さを含んだ眼差しで、小藤は向かいの建物を見つめる。相手の本質を見極めようする、少女の観察を後押しするように、ぶーちゃんIIは寄り添いながら自身も前方を見やる。
「明かりの一つ一つが、きみと同じで、誰かが日々を暮らしている証だ。そして暮らしの明かりは、どの時間でも常に灯っている。十一時でも、十二時でも、一時でも三時でも四時でも」
 ふっと、世界を見つめる黒いビーズの瞳に電灯ではない色がさす。
「誰かの眠りを支えるために、常に明かりを灯している部屋があるんだよ」
「だから、小藤は安心して眠れるのね」
 まるで実際にその場を見てきたように、ぽつりと呟いたこぶたの隣で、納得しきった明瞭な口調で小藤が言いきる。次にきょとんとするのは、ぶーちゃんIIの番だった。少女の言葉はこぶたにとって思わぬものだったのか、虚を衝かれた様子で相手を見上げるも、小藤は窓の向こうを見やったまま泰然と微笑む。
「でんきとか、お水とか……あとはここの管理人さんとか? 小藤がすよすよ寝てる間もだれかが、頑張ってくれているから、小藤はのんびり夢を見ていられるのでしょう? なら」
 自身の観察と友人の助言を混ぜあわせ、練りこんだ果てにみつけた答えを、一歩ずつ踏み出すように言葉へまとめてゆく。何やら考えこむように顎へ当てていた人差し指を、ふいに握り締めて拳へすると、小藤は急にこぶたへ顔を向ける。
「今度、会ったら。ありがとう、って言わなくちゃ」
 何でもないことのようにさらりと、けれど同時に揺るぎない覚悟もこめたさまに、ぶーちゃんIIは少し間を置いてから、尻尾を小さく動かした。
「きっと、喜ぶよ」
「じゃあ、最初はぶーちゃんIIね」
 円い体の底から、重く吐き出すように短い感慨を漏らしたぶーちゃんIIに対し、小藤はどこまでも軽やかだった。いそいそと膝を動かすとぶーちゃんIIのほうへにじり寄り、正面にこぶたの姿を捉える。悪戯っぽい、けれど疑いようもない満面の笑みを灯して、肺を満たす空気の音が夜の最中へよく通るほど力いっぱい、すう、と小藤は大きく息を吸いこんだ。
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