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とまり木 常盤木 ごゆるりと

ひねもすのたのた

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そして明日からは花冷えという


雨降りざあざあまではいきませんが、それでも雨降りしとしと。
続いてばかりで、せっかくの桜も。


もったいないですね。
どうせ散るなら雨よりも、風のほうがきれいですのに。
いやまあ、お花見する予定も気力も現在はないのですけれど。
電車の窓から山桜やらを眺めて楽しむことにします。

あああそれにしても四月ですよ四月なのですよ。
もうモノリスさんの蹂躙戦は始まっているのですよ。
ほんま月末わたし一体どうなっていることやら。
ふと発売日までの日にちを思うと、そのたび取り乱しそうで。
平常心になるためにさにわろうとする日々です。
その落ち着きの取り戻し方はおかしいと我ながら思います。
けれど、ここ数ヶ月はほんと刀のお陰でどうにかなっています……。
みんなありがとう、だいすきよ。

平静を手元へ引き戻すのに精一杯で、新規のお話が、なかなか。
さあ。書き溜めストックも、もう片手で足りるほどになりました。
そんな四十二個目。
最後らへんが蛇足のようにも思えて、いまだに切るかどうか悩み中。









『柔し難しの攻城戦は今日もゆく』

 亀か、ヤドカリか、といったところだった。つまりは、寝床を背負った生き物に限りなく近い形態に、青年はなっていた。むしろ陥っていた、と呼んでも良い。なのになぜか、そんな現実へ、おおっぴらに逆らう様子は見せていなかった。
 青児は、半ば愕然としながらも、そこへ仰向けのまま完全に納まる。広いとは到底言えない、非常に限られた空間へ、体をやや斜めにして落ち着く。成人男性として標準的な体格ながらも手足はしなやかに長い青年にとって、過ごしやすいわけがない場所へ、わざわざ四肢を器用に折り曲げてまで入りこむ。もうそこに永住を誓う構えなのでは、と現れたこぶたに思わせるそのさまは最早、執念と言ってさしつかえのないものだった。
 いつもとは逆で、高い位置から自身を見下ろしてくる友人の姿に、青児は気づいた。
「だめだ。ぶーちゃんII、これはだめだ」
 ちっとも緊迫感のない、ふやけきった調子で青年は危機を訴える。とはいえ一応、ままならない事態へ対する焦燥は抱いているらしく、悶えるように頭を左右に振ってから弱々しく悩みを絞り出す。
「ここから抜け出せる未来が、全く見えない」
「こんばんは、こたつむりさん」
 深刻に告白する青児へ、ひとまずこぶたは挨拶を返した。普段と変わりなく聞こえる円い声音に、一滴ばかりおかしみを落として。けれど身も心も捉えてしまう魔性の存在、こたつによる退廃的な温もりにすっかり骨抜きの青児が、その僅かな違いに気づけたかどうかは定かではなかった。


 人生で初の、こたつ体験なのだと、布団から顔だけが出た状態で青児は語る。
 よろよろとした、おぼつかない口調で、こたつの天板から身を乗り出しているこぶたへ経緯や現在の状態を伝えようとする。普段から青年は感情の揺れ幅が控えめで、凪のような心構えでいるため、ひとたび思わぬ小石が投げこまれると、余人よりも大きく長く細波だってしまうようだった。とろりと目元は熱を帯びて緩み、頬に差した赤みは寒風の中を駆け回ってきた子供のように濃い。
 それもこれも、全てはこたつの所為だった。
「実家には和室がなくってさ…そりゃ床に座ることは、あったよ……でも、部屋の構造的にも、こたつを置くことはなかったんだ……」
「確かに、きみは自分の部屋も板張りだったし、上に小さなじゅうたんを敷くくらいだったね」
「うん…だから、こたつについては、話に聞くくらいで……。で、せっかく一人暮らしを始めるんだから、と、思って…軽い気持ちで……」
「うん」
「……調子に乗って、みかんも置いてみたらさ……」
「うん」
 こたつから腕が一本、這うようにしてにじり出てくる。そうして力なく掲げられると、ぶーちゃんIIが腰を下ろしている天板の中央部分を指差す。わざわざ気分を盛り上げるために、どこからか調達してきたらしい飴色の菓子盆には崩れたみかんの山があり、傍らには食い散らかされた皮が複数見受けられた。しかし天板に広げられているのはそれだけではなく、テレビや音楽の再生機器用といった各種リモコンに、中身が半端に入ったマグカップ、また読みかけの本まで様々に取り揃えられていた。
 生活に必要なものが全て手の届く範囲に撒かれ、こたつは既に暖を取るための器具というより、いっそ巣と化していた。その事実を改めて認識し、こんなはずでは、と青児は嘆く。
「これは、きっと、人類の生み出した最高にして、最悪の、発明だ」
 全身を余すところなく悪甘い睡魔の誘惑に浸しながら、ちっとも不幸でない面持ちは、語るにつれ更にとろけてゆく。
「ひとを堕落させるために、叡智をけっしゅうさせたものとしか、思えない」
「こたつは慣れた人でも、逆らうのが難しい強敵だからねえ」
 耐性がないと余計にだよ、と付け足し、今まで似たような幸福のかたつむりを数多く見てきたらしいこぶたは盛んに頷いた。

 全くもって、青児にとってこたつは悪魔的な魅力を宿すものだった。ここまで恐ろしくも妖しく惑わせてくる存在だと知っていれば、警戒態勢を整えることもできたろうに、青年は清らかな無知さのため身を守ることなど一切考えていなかった。防御もせず、受身すら取れず、渾身の一撃をまともに食らってしまった。
 悔恨に苛まれながら、青児は満ち足りきった吐息を漏らす。
「こんなぬくぬくが、世の中にあったなんて……」
「先人が寒さと戦うために生み出したものだよ。まあ結果として、別のものと戦う羽目になっているけれども」
「有史以来、人類はこの戦いに、どれだけの勝利と敗北を、繰り返してきたのだろう……」
「何なんだろうね、この異様な心地良さと脱出の困難さは。温かいから、という理由だけでは説明がつかない気がするよ」
「恐ろしい…なんて、恐ろしい…そして、快いものなんだ……」
「最も恐ろしいものは最も美しい姿をしている、なんて説もあるけれど。こたつもそれに近いものがあるのかなあ」
 一人と一匹でこたつについて、あれやこれやと意見を交わすものの、白熱した議論に発展はしない。主な原因は青児の瞼で、本人はどうにか会話を続けようとしているものの、言葉を発するにつれて増してくる重みには、なかなか抗いがたいようだった。
 当初から目元を甘く和らげていた青児ではあったものの、細められた視界は保ち続けて、驚愕と共に自身の置かれた状況を理解しようと努めていた。けれど今や、すっかりとろけきった表情のまま、世界を見つめる瞳は覆われようとしている。そんなさまを、ぶーちゃんIIが見逃すわけもない。
 彼は天板の縁から颯爽と身を翻すと、ためらいのない軌跡を描きながらこたつ布団を滑り降り、既に意識を手放しかけている青児の側頭部近くへ降り立つ。
「ここで寝ちゃうと、風邪をひくってのは?」
 単なる問いかけではなく、必ず相手が返事をしなくてはならないよう促しながら、こぶたはわざとらしく語尾を上げて訊ねる。更に、ぶーちゃんIIが陣取っているのは青児の耳元で、そこから円い声を直接に注ぎこむ。こたつ滑降後の着地点も最初から計算のうちだったのやもしれないと、耳朶の真横とも言える位置から、短いながらもちくりとした問いを刺されながら青児は思った。
 固まりかけのプリンよりまだ柔らかな、ふにゃふにゃに緩んだ意識を無理やり引き戻されて、青年はたまらず呻き声と共に眉間へ皺を寄せる。けれど律儀なその性格は睡魔に翻弄されている時でも変わらず、青児はもうろうとしながらも返答を捕まえてから、口を開く。
「……噂に、きいたことが」
「そう。で、本当のお布団が敷いてあるベッドは、すぐそこにあるよね」
 声をよろめかせながら吐き出した返答を叩き伏せるように、こぶたは容赦なく次の議題へ移る。円い体を僅かに動かして、こたつから徒歩二秒ほど、距離で言うと三歩ばかりの場所へある正式な寝床を、鼻でしゃくって示した。
 ほんのすぐそこだと、青児はよくよく理解している。普段ならば気にも留めない距離で、今だってこの怠惰なねぐらから身を起こせば、即座に慣れたベッドへ辿り着ける。他愛のない動作のはずだった。けれど。
「…………ムリ」
 また一つ、高潔な魂が、退廃の徒となった。
 しかし青児の内ではまだ、堕落へ一目散に傾いていこうとする天秤が、どうにか平衡を取り戻そうとせめぎあう心が残っていた。顔をしかめ、たまりかねたように煩悶の声を漏らす。
「ああ。だめだ」
 もがいていた青児が、うっすらと目を開く。それでもやはり、冬の魔物に囚われたまま抜け出すことができないでいる証拠に、青年は四肢はおろかその爪先さえも、こたつにしまいこんだっきりだった。
 青児は甘くとろみを帯びる、蜂蜜じみた溜め息を一つ、は、と吐く。
「でられない」
 追い詰められたような口調とは裏腹に、おぼろげに霞み始める意識と視界の最中にある青児は、この上なく幸福そうだった。


 魔力の虜となった青児はそのまま、こぶたによる引きとめも虚しく、雲よりも肌触りの良さそうな天上心地の寝床で一夜を明かした。そうして翌日、見事に風邪をひきこんだ。
 狂おしいまでに快適と思われたのは最初のうちだけで。深い眠りへ落ちようとすればするほど、温もりは度を越えて身を焦がすほどの熱となり、青年は砂漠の真ん中で渇きに喘ぐ夢にうなされた。
 しかし後悔はない、と氷枕の傍らに現れたこぶたへ、青児はぜいぜいと荒い呼吸のもと告げた。
「人類の攻防はまだまだ続くね」
「うん。長い戦いは、まだ始まったばかり」
 貴重な体験から多くを学んだ青年は、布団をきっちり耳元までも引き上げたまま、高熱による真っ赤な顔で笑った。
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