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とまり木 常盤木 ごゆるりと

ひねもすのたのた

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いつかくるかもしれないかもしれない日に


書きためていたもののストック吐き出すくらいしかできませんね。
こうしてキィを叩くことすら、何だか数日振りです。


指先の感触すらどこか楽しい。
書いてなどいられないはずですのに、書きたくなっている?
ああ、テスト勉強中にお掃除がしたくなるあれと同じ……。
いやいや。欲望におされてはいけません。理性。悟性。
まあ息抜きに少し刀をしていたりはしますけれど。
だって現在けびいしモードじゃないですか…しばかないと……。

まだスタート地点の手前みたいなものですのに。
今のうちから息が上がっていては、先が思いやられます。
厳しく、律して、たまにふにゃりと。
バランスを取りながら、がんばらないとです。
取り敢えず、けびいしはいてこまします。


もうストックは残り十個を切っているでしょうか?
はあ、つくづく五十個まで辿り着けていないのが悔やまれます。
充電して。また再開を。
そんなこんなの三十七個目。









『頑然と迷宮に依る』

 少女は、直立不動で布団へうつぶせになっている。四肢は投げ出されることなく、真っ直ぐ伸びる体へ縫いとめられたように、ぴたりと寄り添う。枕に顔を埋めたままでは、目に映るのもまた枕のみのはずで、けれど桜子はその状況を問題にはしていなかった。
 自由に広げられる手や、遥かまで見渡せる視野は求めず、ただ世界からの隔絶を望んでいるようだった。

 何にも手を伸ばそうとしない桜子は、何にも触れられたくないようでもあった。あらゆるものに背を向けるさまは、無言の強い拒絶を全身から滲み出させている。それを感じとったからこそ、ぶーちゃんIIはいつもと違い、相手へ気軽に転がり寄ろうとはしなかった。お互いの距離を測るように、体一つ分ほどの間隔をあけて少女の輪郭に沿い、道を辿る。
 注意深く周囲を転がる彼の気配を察して、桜子は枕越しに、くぐもった声を漏らす。
「見えない糸が、張り巡らされているわ」
 口元を覆う物体があるから、という理由のみでは説明がつかない、奇妙なほどかすれた音吐だった。のそのそと鈍い動きで、重たげに頭を動かす。少し身を起こすことで覗いた細い視界に、探していた円く柔らかな姿を認めると、桜子はそちらへ顔だけを向けて再び枕に沈む。
「正しい道は、細い糸がよじれ絡んだ中に紛れていて。正解以外は、迷い道―…ううん、辿り着けないだけじゃないから、もっと、もっと悪いもの」
 自分で口にしておきながら、桜子はつらそうに目元を歪める。うっすらと赤さを残すそこが、しゃがれた喉の原因を表しているようだった。
「間違えれば、おしまい」
 黒いビーズの瞳とようやく視線を一本に繋げたというのに、少女は短い言葉を吐いてから顔をそらす。
「すべて」
 親愛なるこぶたからさえ目を背けて、また桜子は枕へ突っ伏した。緩く噛み締められた唇は寝具に隠されていたものの、こぶたはじっと無言で見つめ続けていた。


 桜子は酷く動揺していた。それと同時に、自分自身へ対して、困惑もしていた。
 これまで少女は十余年の人生で、誰かと諍いを起こした経験がない。常に正しい道を選び取るべく、他者に比べればゆっくりとした歩みになっても慎重さを第一として、絶対に過たないよう心がけて生きてきた。だからこそ、意見の合わない相手がおり衝突が明らかな場合は、悟られないようさりげなく回避行動をとるようにしていた。
 なのに、言い争ってしまった。ぶつかることを知っていながら身をかわそうとせず、そのまま前進する道を選んだ。それはむしろ、突貫と呼んでも良いものだった。我がことながら咄嗟の選択にわけが分からず、頭を抱えたくなる。
 二つの異なる主張が激突してしまったのだとは、理解している。けれど自身の実体験から築きあげてきた説を曲げる気はないし、間違いだとも思わない。ただそれは、向こうも同じことだろうとも予想がついていた。現在の状況という結果も含めて、全ては目に見えており、容易に想像のできるものだった。それでも桜子は避けようとせず、自ら”間違っている”道へ爪先を向けた。
 いっそ避けることを拒否した、というところまで思考が到って、桜子は枕に接した両眼をゆっくりと開いた。
「隔たった世界の、境目に立っているのだと、思うの」
 肩ごと頭を動かして、またこぶたを探そうとする試みはすぐに達せられる。ぶーちゃんIIは最初に桜子と目を合わせた位置から、少しも動かずにいた。それがまるで、ろくに語ろうともしない自分を待ち続けてくれていたように思えて、少女は泣き笑いじみて目元を歪めた。
「細い細い、境界線よ。油断すると、すぐに踏み外してしまいそう」
 それこそが幼い頃から今まで、頑なに少女が避け、忌み続けてきた行為だった。なのに今は固い決意や足元、どちらもが揺らいでいるのを桜子は明確に感じていた。想像するだに恐ろしいことを、頭の中だけでなく音として外へ出して、言葉という形にしようとしている。目の前にいる、眠れぬ子供の友人と向きあっていると、つい口をついて出てきてしまう。けれど、今そこに不快感はなかった。

 無言で、ひたすら耳を傾けてくれているこぶたの、黒いビーズの瞳へ吸いこまれるような錯覚を抱きながら、桜子は唇を開く。
「……一歩でも、半歩でも。踏み出してみたら、どうなるのかしら。選ぶのを間違えるのではなくて、わたしの意志で、進んでみたら」
 今日のように、と小さく付け加える。
「それは酷く、怖いことだけれど。何せこれまでずっと、避け続けてきたものだから」
 不安げに語りながらも、桜子はぼんやりと昼間のことを思い起こし、自分は既に歩みを進めることで踏み出していたのではと考え始める。半歩にも満たないような、にじり寄りにも似た進撃を実行に移していたのではと。
 ここまで考えが辿り着き、思索に耽ってしまっていた意識を表層へ引き戻すと、再度こぶたと目が合う。そうして桜子はようやっと、今夜の彼がまだ一言も発していないことに気づいた。普段ならば、丁寧に相槌なり参考になる助言なりを与えてくれるというのに、今日は頷き一つ寄越そうとしない。
 ぶーちゃんIIが姿を現したなら、つまりそれは多かれ少なかれ、眠れぬ夜に寄り添ってくれる相手を自身が求めていたからだと、桜子は思っている。そうして現れた最良の聞き手に、少女は悩める心を途切れながらも吐き出してきた。なのにとうのこぶたは、ちっとも応じてはくれない。
 寂しさのような、もしくは彼に対し初めて生じた疑いのようなものを抱いて、桜子は眉尻を下げる。
「……何も言ってはくれないのね」
「言って欲しいのかい?」
 どこか悲愴な面持ちで放った桜子の声に、円いこぶたはけろりと返す。これまでの沈黙が嘘のように、軽やかな話しぶりだった。そのさまに、ああ確かに彼はずっと耳を傾けてくれていたのだと、桜子は改めて実感する。そんな当たり前のことが何だかたまらなく嬉しくて、たっぷりとした安堵感が冷えきっていた体を隅々まで溢れるほどに満たしてゆく。
 ようやく自身が布団にありながら凍えていたことに気づいた少女の前で、ぶーちゃんIIは真っ直ぐに相手を見つめる。
「もう、答えは決まっていると思って」
 圧倒的な信頼を示されて、体だけでなく、胸の奥に息づく硝子のような氷のような芯までが、とぷん、と浸された。

「世界は複雑なものなのよ」
 仰向けになり、いやいやするように桜子は緩くかぶりを振る。その言葉は独り言じみて聞こえながらも、少女の傍らには常に一匹だけの円い聴衆が寄り添っていた。
 やがて諦観じみた息が一つ、は、と漏れて、桜子は泣きだしそうな顔で天井を仰ぐ。
「けれど……」
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