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とまり木 常盤木 ごゆるりと

ひねもすのたのた

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お気に入りのマスカラもペディキュアもないけれど


9日までが最初の山、9日までが最初の山、と念じていたのですが……。
思わぬうっかりから、10日までたぶん延長。ちくしょうめ。


ううん、思い違いしていたわたしのミスです。
最初から日数に余裕をもたせていたのが、こんな形で奏功するとは。
嬉しいやら切ないやらで、口元がひきつりそうです。
ながいながい、たたかいのはじまり。
まだほんの前哨戦。ううん、戦端なんて開かれてすらいないやも。
わたしがひとりで、あぷあぷしているだけ。
ただ、取り敢えず、この四月前半を。
どうにか乗り切れば後は流れが掴めるはず。
がんばるぞー。おー。おはなみいきたーい。

惑星ミラの開拓が始まるまでに、したいことあれこれ。
髪を切りにいきたかったり、歯医者さんにいきたかったり。
いやその、何となく、身支度を整えなくてはいけない気がしまして。
せっかくの新作なのです。こちらもきちんと、お迎えしないと。
なにせずっと。ずっと、待っていたのですから!

そんなこんなの四十三個目。
ああ、日に日に減ってゆくストックがこわい。
いえいえそんなの今更です。もう、指折り数えるほどですもの。









『すあしの君のおみわたり』

 じっと、少女は天井を見つめている。茫漠と考え事に耽っているのではなく、揺るぎない眼差しは何かを射抜こうとしている。まるでそこへ小さく暗号じみて記してある、隠し文字を読み取ろうとしているようだった。けれど、天井に書きこみなどない。もし仮にあったとしても、電灯が消され、暗闇に満たされた部屋では文字の確認などできるわけもなかった。
 それでも桜子は瞬きすらゆったりと間延びさせて、ひたすらに天井を見つめる。少女の寝床はロフト風であるため、一段目のない二段ベッドのようなもので、天井への距離がごく近い。けれど幼い頃から過ごしてきた寝床の、普段と変わりない光景に圧迫感はない。むしろ年来の親しみやすさから、無言で向きあうには適した対象でさえあった。例えそこが、黒に塗りこめられたような暗さであろうとも。
 上方から視線をそらすことなく、少女は枕の側へ転がり寄る者へ囁く。
「足元は、薄い氷か、卵の殻のようだと思っていたの」
 唇から漏れたのは、小さな呟きだった。しかし声をひそめているとはいえ、そこに弱々しさはなく、かえって静かさの中に凛とした芯を通していた。
 少女が放つ声の調子に含まれる、微細な変化を感じとりながら、こぶたは素朴な相槌を返す。
「うん」
「踏み間違えることができないものだと」
「うん」
「でも」
 短く言葉を切ると、ふいに桜子は仰向いていた体を横に倒し、ようやっと視界から天井を外すと新たにそこへこぶたを迎える。夜に慣れてきた瞳へ円い輪郭がぼんやりと映り、少女を真っ直ぐに見つめるビーズの瞳が暗がりでも光を宿して見えることに気づきながら、桜子は捕まえた答えを解き放つ。
「卵の殻なら、破ることができるのよね」
 首を傾げるように、体をやや傾けたぶーちゃんIIへ、桜子は秘密を抱いた悪戯っ子の笑みを浮かべた。いつの間にか緩やかに持ち上げられた右足が布団から覗き、ぴんと伸ばされた爪先が低い天井に触れた。


 いくら寝床から大きく離れてはいない天井といえど、桜子の足が重々しく踏み締められるほど近くもない。せいぜい少女のなよやかに細い足の先端が、バレリーナじみて表面をなぞるくらいのものだった。
 天井を探るように、爪先をゆるゆると何気なく動かしながら、桜子は口を開く。
「世界は繊細で、入り組んだ複雑なもの。ずっと、そう思っていたわ」
「うん」
「……小さい頃から」
「うん」
 桜子に、年端のいかない幼子だった桜子に、頭を殴られるような衝撃と共に世界をそう定義させた出来事を思い出し、少女はふと言葉を濁らせる。しかし当時から、むしろ更に昔から相手を知るこぶたは深く訊ねようとはせず、淡々と短く返す。
 余計な言葉を口にせず、真摯に耳を傾けながら、相手を柔らかく受け止めようと待ち構える。そんなこぶたのさまに、桜子の胸にずっと刺さっている棘が、僅かに緩む。かつて世界に対して身構えるあまり、一歩進むにも思い悩んで宙を迷っていた足が、今夜は雄々しく踏みとどまった。
「でも、ね」
 ふと目元を和らげて、桜子は一呼吸の間を置いてから続ける。
「素朴で、力強い世界もまた、同時に存在しているのだと、教えられたの」
「うん」
「どちらか一方だけではないのね。どちらも同じで、多分、見方が違うだけで」
「立ってる場所によるのかな」
「それもあるけれど……どんな眼鏡をかけているか、にもよるのかしら、とわたしは思ったわ」
 こぶたの例に対し、どこかの誰かとさんざに問答を繰り広げてきた後らしい桜子は、慎重に言葉を選びながらも迷いなく答える。恐らく、既に通り過ぎてきた思考の道のりを辿りなおしているのだろう。
 けれどそうして示された少女の説明が、ぶーちゃんIIには今一つぴんとこなかったのか、こぶたは円い体を僅かに傾ける。
「眼鏡?」
「そう、眼鏡。自分の目に、自分でかけてしまうものよ。そしたら人によって、世界の見え方が様々なのも説明がつくでしょう? 色のついた眼鏡だったり……もしかしたら虫眼鏡かもしれないし、双眼鏡だとか、まさかの万華鏡っていう可能性も捨てきれないわ」
「――望遠鏡だったりして」
「ふふ、あり得そう」
 合点がいきながらも、また別に何か思うところがあるのか、含みのある調子で新たな眼鏡の候補を挙げるぶーちゃんIIに、桜子は小さく笑って応じた。くすくすと声を漏らしつつ、桜子は正面に転がるぶーちゃんIIへ向かい、改めて目を細める。
「裸眼のひとに、教えて貰ったの。とても単純で、分かりやすい世界もあるということ」
「うん」
「なら。わたしも眼鏡を外せば、そちらの世界を見ることが。もしかしたらほんの爪先だけでも、入ることが、できるのではないかしら」
「うん」
「その気になれば、殻は蹴り破れるものだと思うの」
「うん」
「だから――」
 語るにつれ、戸惑いながら戦いながら、やっとのことで迷宮の果てへ到った過程が思い起こされてきたのか、桜子の視線がこぶたを外れて中空へ浮かぶ。それと同時に、白い頬がほんのりと甘い水蜜桃に染まってゆくのを、闇の中でぶーちゃんIIは確かに見ていた。
「……だから、してみようと、思って」

 まだ爪先で天井を撫で続けている少女の企みを、ぶーちゃんIIはさらりと見抜き、さも楽しげに鼻をぴくつかせる。
「周りは、驚くだろうなあ」
「きっとね」
 詳細な説明抜きで察してしまう、こぶたの慧眼ぶりは今更気にもならないし、むしろ分かってくれるものだと少女は最初から信じきっている。だから桜子は、彼に共犯者ではなく目撃者になってくれることを望んだ。上げ続けることに疲れてきたのか、桜子は伸ばしたままの右足をやや倒すと、五指を器用にうねらせる。さながら準備運動のようだった。
「でも、これまでのわたしが積み重ねてきた、それはたっぷりとした貯金があるわ。だから、寝ぼけてやらかしたののだろう、くらいにしか思われないはずよ」
「おや。とんだ策士がいたものだ」
「長年、避けてきたことへ挑もうとしているのだもの。思いきらなきゃね」
 からかいまじりにおどけてみせるぶーちゃんIIへ、桜子は動じることもなく、飄々とした笑みさえ浮かべる。これまで凝り固まっていたものから解き放たれたのか、何かが吹っきれたような爽やかさが、表情や仕草の中に漂っていた。

 一人と一匹が小さく笑いあい、それから、ふっと沈黙が帳じみて下りる。その呼吸を待っていたように、再び桜子の右足がゆるゆると持ち上げられ、爪先が天井へ向かう。すす、す、と優しく撫でるように表面を掠める親指が、ふいに動きを止めた。すると爪先は逆さまの大地からふわりと飛びたち、相手と対峙するやり方を図るように、やや距離を取る。十数センチ離れた中空で静止し、幾度か指の屈伸を繰り返してからおもむろに握り締めると、足の拳が作り上げられた。
 ふ、と桜子の強張った息が漏れる。けれど数回ばかり深呼吸を重ね、整えてから、呑みこむ。横たわっていた桜子が、少し体を浮かすようにして腰をずいと進めるや、丸められた指の付け根が天井へ触れた。爪ではなく、骨が触れることで対象の硬さを今になって実感したのか、少女は驚いたように拳をほどく。咄嗟に再び中空へと後退し、戸惑う五指は、ばらけた形のまま固まってしまう。けれど、しばらくすると悩みながらぎこちなく動き出し、やがて別の構えを取る。気をつけをするように全ての指がきゅっと一塊になると、足の裏を天井に向けて水平にし、脚部全体の角度も変えて、こちらは天井に対して垂直にする。
 機会を見逃さないよう、態勢を崩さないよう、桜子は計る。御しきれた呼吸に比べて、人知れず忙しなく打ち始める鼓動ときたら、押しとどめようもない。自身の内側から響く重低音に惑わされないよう、改めて意志を強く持ちながら桜子は足を天井と中空の間でゆっくり往復させる。
 ためらいのような、助走のような、それとも照準を合わせているような。幾度目かの往来が繰り返された後、桜子は唇ごと歯を食い縛ると、渾身の力で右足を突き上げた。

 静穏な夜に、家の骨格を低く震わせる、鈍い破壊音が響いた。
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