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とまり木 常盤木 ごゆるりと

ひねもすのたのた

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おしまいのはじまり


これからは余程上手に時間を運用していかなければ……。
まあ、だらだら過ごさないこと、と肝に銘じておきましょう。


余分なことに時間を割かず、効率的に、集中して。
ただ、そればかりだと、きっと、疲れてしまうでしょうから……。
張りつめすぎて切れてしまうのは、ごく最近に体験済みです。
適度な息抜きも挟みつつ、頑張り続けなければ。
ああ。でも、一日だけ。
たった一日だけで良いので、効率も予定も何もかも忘れる日をください。
久し振りに徹夜してしまうくらい無謀なことをさせてください。
四月の二十九日だけは。どうか。

ひたひたと四月蹂躙戦の足音がきこえてきます。
モノリスさんの焦土作戦ですよ。焼け野原計画ですよ。
ああ、なんて惨いことを。そんなあなたがだいすき。
わけも分からず祈るような心地のまま、習作百話は三十六個目。









『扉おちこち振り絞り』

 ぱちり、と目が開いた。
 咄嗟に何が起こったのか、分からない。何せ部屋を照らすのは小さな豆電球の頼りない明かり一つきりで、目が夜へ慣れるには少しかかる。そのため、やっとおしめが取れかけてきたばかりの幼子は、自分が置かれている状況が、すぐには呑みこめなかった。夢か、現かの境界線すらあやふやだった。
 小さな男の子は突然に幸福な眠りから放り出されて、きょとんと目を丸くする。けれど、ぎこちないながらも瞳を動かし、そろそろと辺りを見渡す。ふやけていた視界が徐々に輪郭を取り始めるにつれ、見慣れたものたちが姿を現してくる。
 いつだって温かく体を包んでくれる布団、枕元にはお気に入りのおもちゃたち、近くの棚に収められているのはぼろぼろだったりぴかぴかだったりする絵本の群れ。どれもが幼子にとって、親しみ深いものたちだった。だからこそ、様々なものを眺めるうち、次第に男の子は小さな胸を凍りつかせていった。
 あるべきものに囲まれているからこそ、”あるべきなのにいないもの”の空白が、強烈に浮かび上がる。

 両目を大きく見開いて、幼子はたまらず身を起こす。急いで室内を見回したり、隣に接して敷かれている布団を荒っぽく剥いでみたり、必死に何かを探す。急かされているような、いっそ怯えているような鬼気迫るさまで捜索を続けているのに、幼子の求める存在は室内のどこにも見当たらなかった。
 子供は布団の上に力なくへたりこみ、口を半開きにして茫然とする。が、やがて自身を取り巻くあらゆるものに対する理解が、緩やかに染みこんでくる。胸の器は縁まで恐れでひたひたに満たされていて、そこへ新たに圧倒的な悲しみが注ぎこまれることで、呆気なく決壊した。
 途端に、恐怖だけでなく、湿っぽい色んなものが色んな場所から滲み出す。呼吸が乱れ、やがて不規則な嗚咽となって漏れる息が音量を増しかけると共に、夜へ転がり現れたのは、円い。


 指先でつまめそうなほど大粒の涙を、ぼろぼろと布団の上へ落としながら、座りこんだ幼子は盛大にしゃくりあげる。
「おっ…おかっ…おかぁぁあ……おかあさんがぁ、いなぃい……!」
「うんうん」
「おへっ、おへやっにぃ、ぃいないのおぉ……!」
「よしよし」
 ぶーちゃんIIは泣きじゃくる子供の頭を撫でられるほど、長い手足を持っていない。できることは柔らかな球形の体で相手へ寄り添い、時には全身を使って腕や足をさすり、そして何より耳を傾けることだった。
 いつも男の子が眠る時に隣で寄り添ってくれている、母の姿がなかった。眠りが浅くて、夜中に目が覚めることもよくあるけれど、瞼を上げればそこにはいつも母がいた。だからこそ安心して、再び夢へ戻ることができるというのに、この夜はなぜか姿が見当たらない。空っぽになっている隣の布団が、子供の目と胸に痛いほど不在という現実を突きつける。
「おかぁさん、どこぉ…どこ、いったのぉ……?」
「何か、御用でもあったのかな。お手洗いかもしれないね」
「ここっ…いないぃい……!」
「すぐに帰ってくるよ」
 ただでさえおぼつかない舌は、寝起きな上に恐れも重なって、すっかり縮こまってしまっている。あやふやな言葉はたびたび嗚咽に妨げられ、途切れがちな中から内容を正しく掴むのは難しい。けれどぶーちゃんIIは根気良く聞き手に徹し、あやすような相槌を打っては、油断をするとすぐにも立ち上がり部屋から出て行こうとする幼子を、やんわりと押しとどめ続けた。
「どこ…どこに、いるのぉ……さがし、ぃ、いく」
「お部屋の外は寒いよ。お風邪をひいちゃあ、大変だ」
「……おかぜ、ぃや」
「うん。だからほら、お布団に戻ろう。ぬくぬくしよう?」
「……うん。…っでもぉ、おかあさんがぁ……」
「いいこ、いいこ」
 少し落ち着きかけたところで、ふっと恐怖を思い出すと、再び涙の気配がぶり返してくる。どこか堂々巡りに似た遣り取りを繰り返しながらも、こぶたは粘り強く子供へ向きあう。自分の内側から溢れ出す不安に溺れかけている男の子へ、幾度も優しく頷き返しながら、円い声で救い出し続ける。
 今度も、上半身を起こそうとした矢先に頭をよしよしと転がり撫でると、その心地良さについほだされて男の子は布団へと戻った。顔が隠れそうなほど掛布団の縁を引っ張り上げ、温かな重みに全身を包まれても、胸の内側から体を蝕んでくるどろどろとした不安は消えてくれない。むしろ横たわることで、ぽっかりと開いた布団の空洞が視界へ嫌でも飛びこんでくるものだから、引っこみかけた涙がいよいよ再び滲んでくる。
 引きつった声を押さえつけ、呑みこんできた喉はもう限界で、すっかりかすれきっている。言葉にもならない弱々しい悲鳴をせぐりあげる幼子の額に、こぶたはひたりと寄り添う。真珠の粒を糸で連ねるように次々と涙を零し続ける子供へ、たっぷりとしたいたわりを含んで低く囁きかける。
「大丈夫」
 自身の円い体を緩く転がして、悪いものを追い払おうとするように、子供の頭を撫でさする。
「もうすぐ」
 けれど、幾らぶーちゃんIIが撫でようがあやそうが、一向に問題は解決しない。その態度がおざなりなものに思えて焦れたのか、男の子はとうとうかんしゃくを起こして甲高い怒声を上げると、こぶたを撥ね退けた。力いっぱいに振り上げられた手ではじかれ、ぶーちゃんIIは勢いよく壁へ叩きつけられるとそこから更に跳ね返り、中空を舞う。円い影が直線的な軌道を描いてから放物線へ移行するのと合わせたように、どこからから誰かの急ぎ気味な足音が響き、やがて部屋のドアノブが鳴る。子供が薄暗い室内で、目を大きく見開く。
 柔らかなものが床へ落ちる音は聞こえなかった。
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