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とまり木 常盤木 ごゆるりと

ひねもすのたのた

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翼のない白と翼のある青

ああ、今日はお休み必死でもぎとって良かった…本当に良かった……。
良いものをみました。とても、とても素晴らしいもの。


青い衝撃が、お越しだったのですよ。
本番は明日なのですけれどね。
こんな田舎に! あんな花形が! 飛んできてくれるだなんて!
当日が駄目なら、試験飛行の日に、と。
あらゆる策謀をめぐらせてお休み奪取したかいがありました。
こうも素晴らしいものだとは思いませんでした。

うつくしくて、涙が滲むのですよ。
ただひたすらにうつくしくて。
血反吐を吐くような努力の果てにあるからこそ。
そして、数え切れないほどの人々に慈しまれているからこそ。
あの青い翼は、ああもうつくしい。

日を改めて、きちんと感想を書きたいものです。
ともあれ今は、三十八個目を。








『宝箱にはベルベットの蝶がくちづけて』

 先端の丸くなった黒鉛が、柔らかく紙の上を走る。愛用の鉛筆で何事かを書きつけている少年は、時折もう片方の手で傍らに積まれた書籍のどれかを繰る際以外は、得物を休めようとしない。机に向かう青児は穏やかな眼差しを手元に落とし、薄い笑みさえ浮かべている。今にも鼻歌を口ずさみだしてもおかしくはないほど、満ち足りた顔つきだった。
 不意に鉛筆の動きを止めると、箇条書きにしたものたちを頭から幾度も見直し、口の中で低く復誦する。不備や間違いがないか、目でも音でも慎重に確認を重ねてゆく。しかしそんな面倒な過程すら、少年はどこか楽しんでいるようだった。
「いつもの観測とは、毛色の違う装備だね」
 突然、頭上から降ってきた円い調子の感想に、青児はゆっくりと顔を起こす。誰何の声を上げる必要などない相手の来訪に、ますます笑みが深まった。
「そりゃ、冒険だから」
 机の上で背表紙を向けて居並ぶ教科書たちの不揃いな稜線に佇んで、縁から転がり落ちないよう身を乗り出しているぶーちゃんIIへ、青児は鉛筆を置いてから両手を差しのべた。


 不安定な足場からこぶたを救出し、青児は円い友人を自分の側へ着地させる。すると、ぶーちゃんIIは礼と挨拶を述べてから軽く転がり、改めて青児が向かっていた紙へと近づいた。最初に少し高い位置へ現れたのは、そちらからのほうがよく文字列を見渡せるからだろうか、と何となく少年は思った。
 青児がそんなことを考えている間も、ぶーちゃんIIは書かれた内容に興味を引かれて仕方がないのか、ふんふんと円い体で盛んに頷きながら箇条書きに見入る。その熱心なさまに、喉の奥でおとなしく待機していた舌がうずうずと誘われて、青児は耐え切れず、つい解説を始めてしまった。
「観測にまつわるちょっとした探検くらいなら、してきたよ。近所の低い山だとか、野原とかでね。でもまさか行ったこともない洞窟へ、しかも一人じゃなく、何人もと連れたって冒険することになるとは、思いもしなかった」
「おや。それは確かに、いつものきみからすると珍しい場所だ」
「ああ。入り口から少し内側に踏みこんだ程度だと、経験もあるけど……大掛かりな探索は初めてだ。それに俺はどちらかと言えば、地面の下より頭の上のほうに惹かれがちだからなあ。ほんと普段とは、かなり勝手が違うよ」
 自身が情熱を持ち、大切に思っていることへ親身に耳を傾けられて、語る青児の声へ自然と力がこもる。新たなことへ挑戦しようとしている少年は、気後れでなく好奇心で体を満たし、胸と声をはずませながらこぶたへ向かう。
「まあ、ざっくりまとめれば、どっちもアウトドアだ。ただ、俺は多少の慣れがあるけど、一緒に行く仲間には、これが初めての子だっている。きっと分からないことだらけだろうから、せめて参考にでもなればと思って、装備品のリスト作成中ってわけ」
 書き連ねた幾つもの行をちらりと横目にし、指先で何とはなしになぞる。
「とはいえ。そういう俺だって、手探りだけどさ」
 いい勉強になるよ、と付け加え、おどけた様子で肩をすくめながら、手近で山積みにされている参考資料たちを指差し、こぶたに向かって微苦笑してみせる。視線の先では、少年に負けず劣らず好奇心にきらきらと輝く、黒いビーズの瞳が待ちうけていた。

 こうして始まるのは、平生よりいささか饒舌な青児による、地底冒険予習講座だった。
 洞窟の内部構造については、そこを発見した友人から可能な限り情報を引き出している。奥まったところまでは到達していなかったが、だからこそ冒険なのだし、そもそも僅かであろうと状況を掴めるのは貴重なことだった。
 大小の石が転がっているのは予想済みで、悪い足場への対策は山あいの川縁を参考にした。地下水の染み出している可能性が高いため、これが適切だと青児は考えた。更には光源の確保、思わぬ滑落の危険性、体力を無駄に削られないための防寒について……などなど。箇条書きにされた品物を丁寧に一つずつ説明しながら、青児は手近に積まれた資料から関係するものを引っ張り出す。ページをめくり、引用部分を指し示すと、ますます語る。
 軍手、電灯、救急箱。食料は勿論のこと、水分補給を侮ってはいけない。とはいえ大荷物になりすぎて、身動きが取りづらくなっては元も子もなくなってしまうし、装備品の取捨選択が重要になりそうだった。悩みどころだよ、と青児はおとがいへ指を添えて、未完成のリストへ身を乗り出す。ただ台詞の割りに、考えこむ少年の表情は生き生きとしていた。
「随分と楽しそうだ」
 薄っぺらい紙の上を舞台に、指先から心浮くさまを溢れさせている少年のさまをそうまとめて、ぶーちゃんIIは朗らかに笑う。こぶたの言葉を受けて、熱っぽく語り続けていた青児は幾度か瞬いてから、照れくさそうに目を細めた。
「観測も、冒険も、入念な下準備があってこそ成功すると思うんだ」
「うん。そこは共通するところだね」
「だから……」
 ついさっきまで饒舌に回り続けていた舌が、急に動きを鈍らせる。忙しなく瞬きを繰り返す中で、言葉を探して彷徨っていた視線が、ゆっくりと瞼を下ろされることで逃げ場をなくした。やれやれとばかり、自ら退路を断った青児は、緩やかに目を見開いて正面にこぶたを見据えた。
「……この、ああでもないこうでもないって考える、準備の時間がさ。自分で、プレゼントの箱にリボンをかけてるみたいで、好きなんだ」
 鉛筆の線がさらさらと文字列を形作るのは、青児にとってさながら蝶結びを描くのと同じ行為だったらしい。口元を隠すように手を添え、はにかみながら明かすさまは、これが本人にとっては子供っぽく思えてならない、なかなか恥ずかしい告白なのだと知れた。
 それでも相手がほかでもないぶーちゃんIIだから、と、ためらいながらも口にしてしまえば、いっそ吹っきれたらしい。妙に明るい表情と声音で、そしてほんの少しばかり朱に染まった面で、またリストへ向きあう。
「さあ! 張りきらないと」
「うん。きみの助言を心待ちにしている、仲間たちがいるもんね」
 覚悟を決めて告げた青児を茶化すことなく、ぶーちゃんIIは普段と変わりなく応じる。その快い信頼に頬を緩めながら、青児は鉛筆を握る手に力をこめた。
「ああ。こんな機会をくれた友人連中に、感謝を示すためにも」
「それと、自分の密かな楽しみのためにも?」
「……その辺りは内緒で」
「勿論」
 黒いビーズの瞳に悪戯っぽく見上げられ、青児もまた悪戯っぽく目を瞬かせて返した。一匹と一人の悪戯っ子は結託して、くつくつと低く笑いかわして、見えない箱に秘密を詰めてリボンをかけた。少し、きつめに。
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