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とまり木 常盤木 ごゆるりと

ひねもすのたのた

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胸の澱みのほどきかたを

どうして約一ヶ月もわたしはこうも物憂く。
あれこれ気晴らしは試みているつもりなのですけれど。


薔薇のコーディアルも作りましたし。
そこから派生した薔薇とりんごのジャムも作りましたし。
更にそのジャムを使ってパウンドケーキだって作りました。
精神状態は味にも影響が出るので、心配していましたけれど。
きちんとおいしく、なりました。ほっとしました。
コーディアルもなかなかのものとなりました。
あれ作るの簡単ですし色も綺麗ですし良いですね。
ただ保存料とか一切入っていないので、速やかに飲まないとです。
飲み物だけでなく、シロップとしてお菓子にも使えるでしょうか。
ゼリーにしたら、きっと綺麗なはず。うーん、また考えないと。
わたしゼラチンとは相性悪くていまだ冷戦状態なので……。

お菓子は作れて。
本を読もうとしてもあまり食指が伸びず。
お裁縫に走ろうとしましたら糸がいつのまにかストックなくて触れず。
結果、さにわることで気力を繋いでいるような。
久し振りに戦国系の知識を思い出すことで、ほろほろと楽しいです。
因みにひいきは歌仙です。歌仙、小夜くん、石切おとうさんあたり。
あと、もともと知っていた刀はひいきしがちです。
歌仙、にっかり、へしきり、蜻蛉切らへん。
あまりに習作のほうが滞りすぎて、二次創作に行きたくなります。
気分転換、できたら良いのですけれど。
ほんとこのまとわりつくような物憂さは一体何なの。
花粉か。花粉ですかちくしょうめ。おのれエクスデス。

ぐちぐちと樹木に怒りを抱きつつ、習作百話です。
三十二個目。動きは、出せているでしょうか。









『背鰭なしはかく語らない』

「バカだろ! バカじゃないの!?」
 荒々しい声が、荒々しい音を立てて、生い茂る草たちを掻きわける。少年は全身から湯気じみて立ちのぼる苛立ちの気配を隠そうともしないで、道を塞ぐ雑草を踏み折り、蹴り散らす。少年の通り過ぎた後には、ひしゃげた茎や葉を痛ましくさらした植物だけが残るかと思いきや、それらはほどなく緩やかに身を起こし始める。大地に根を張るものたちの逞しさは、少年の形跡を消し去ってしまうのに数日も要さない。
「これだから森だのアウトドアだのはキライなんだ!!」
 藍史はこの上なく憤慨しながら、なおもがむしゃらに歩を進める。けれどいくら蹴立てても、少年の腰ほどまである草むらは、長い葉を足に絡めたり硬い茎で太股あたりをしたたかに打ちつけてきたりで、勢力を弱める様子が全くない。その現実がまた、ただでさえささくれ立っている藍史の神経を、ますます逆撫でする。
 濃い草いきれがむせ返るほどに肺を満たす森の只中で、その精の強い香りに不慣れな藍史は、くらくらと軽い目眩をおぼえながら突き進む。道らしい道がない、森の非文明的なありさまに藍史は怒り心頭の様子だけれども、少年が気づかないだけで道はそこにあった。けれど仮に今が昼間で、太陽がありったけの陽射しを投げかけていたとしても、藍史にその道は見えそうになかった。
 夜の森、という輪郭のあやふやな存在へ、盛んに罵りの声を上げていた藍史が、ぐっと奥歯を食い縛る。その隙間から漏れる唸りには、怒りよりも焦りが滲んでいた。
(どうして、こんなことに)
 うっすらと潤み始める視界を真っ向から否定するため、握り締められた拳が乱暴に目元を拭った。

 夜の、軽い散歩のつもりだった。
 あまり気乗りのしない旅行に巻きこまれ、同行者には不満たらたらだったけれども、観光を主な生業とした南国の小島という滞在地は気に入った。開けた森を贅沢に利用して広い空間に数棟だけ瀟洒な離れを設ける、というホテルの趣向もまた藍史には満足のゆくものだった。日が落ちて、少年は特に深い意図もなく、そこを抜け出した。本当に、何となく、としか言いようのない意志で。
 そしてふと気がつけば前にも後ろにも、道を失っていた。
 行く手はおろか、自分が歩いてきた道すら分からないことに、藍史は愕然とした。とはいえ困惑よりも驚きのほうが大きく座を占めており、いくばくかの面白さすらおぼえた。けれど探検気分で鼻歌まじりにしばらくうろついたものの、今や緑ではなく黒としか映らない木々の緞帳は途切れる兆しもないし、恋しい人工の光はどこにも見当たらない。せめて月か星の明かりだけでも、と空を仰いでも頭上は分厚く重なりあった枝たちで閉ざされている。
 藍史の内側で、こみあげる焦燥と恐れがじわじわと勢力を増してゆく。まるで夜の闇に体が蝕まれてゆくようだ、と思うと、温暖な気候の中で薄ら寒さが背中を走った。けれど決して悲鳴など出すまいと、少年は最後の意地を振り絞り、引きつり始める喉を押さえつける。
 そんな時。羽織った上着の背中側へ垂れたフード部分に、何かがぽすんと落ちてきて。藍史は「ぴゃあ」と悲鳴かどうかも怪しい、小動物じみた甲高い笛のような声を上げた。
 夜目という言葉を知らない藍史にとって、その小さくも確かな衝撃は親しい”誰か”ではない”何か”でしかなく、ほかでもない『彼』だと気づくのに数分の恐慌を経なければならなかった。


 幼い頃から、摩天楼じみた建物群やその隙間に息づく制御された緑に囲まれて育ってきた少年は、あまりに夜の森というものを知らなさすぎた。意識せずに踏みこんでしまった天然の迷路で、方針も方角も定まらないまま、やみくもに歩き回る。
 そんな暗闇の雲に光を射しこもうと試み続けるのは、藍史のうなじ辺りから上がる声だった。
「動かないほうが良いよ」
「動かなきゃ出られないじゃん!」
「こんな夜のこんな場所で、むやみに歩き回るのは得策じゃないと思う」
「ぼくは賛同しないね!!」
 フードへはまりこんだ異物に、藍史が言葉にならない叫びを発した直後、布の海からもぞもぞと聞こえてきた耳慣れた声に、少年の総毛立っていた体も心もぴたりと静まった。思わぬ土地の思わぬ場所に突然現れた友人を、藍史は慌てて救出する。引き上げながら軽口を叩く少年の両眼が、表面にうっすら水の膜を張っているのにぶーちゃんIIは気づいていたけれど、彼は敢えて挨拶と礼しか口にしなかった。
 落とし穴から出てきたこぶたを、藍史はしばらく両腕で抱き締めたまま事情説明をしていたものの、愚痴と不平に溢れた言葉をぶーちゃんIIはやんわりと遮り、「両腕は自由になっていたほうが良い」と冷静に意見した。そこで渋々と従った藍史がこぶたの座席に選んだのは、先程のフード、けれど底ではなく首筋に寄り添うなだらかな斜面を為している上の方だった。とにかく側に、肌に触れるほど近い位置にいて欲しい、という希望との妥協点がそこらしい。
 とはいえ、こぶたの助言へ藍史が素直に従ったのは、これきりだった。
「一度、足を止めようよ」
「だぁ~から言ってるだろ、それじゃあ出られないって!」
「考える時間が要ると思うんだ」
「そんな暇なんて、ありゃしないさ。ぼくは早くベッドに帰りたいんだ!!」
「そのためにも、だよ」
 ひたすらに前方だけを見据え、他の景色などろくに視界へ入れていない藍史に代わり、ぶーちゃんIIは注意深く周囲の状態に目を光らせる。幸いなことに彼が体を据えている藍史のうなじ近くは、見晴らしという点において非常に優れた位置にあった。そのためぶーちゃんIIは藍史の、もう一対の目として、夜をいくらでも見渡せる黒いビーズの瞳で警戒を続ける。
 明瞭な視野と、円い体の内側にある知識や経験から導き出したものを、こぶたは少年の耳へ向けて訴える。いつもは朗らかな声音が、今はうっすらと厳しさを張りつめさせているというのに、めくらめっぽう突き進む藍史には届かない。
「悪いけど、そんな案は呑めないね。まだるっこしいったらないよ」
 いくらぶーちゃんIIが心を尽くして告げても、藍史の鼓膜から先を揺らすことはできない。どこか吐き捨てるような口調で、少年は拒絶する。
 それでも、ぶーちゃんIIは諦めることなく、切々と囁き続ける。
「とどまろう」
「イヤだ!」
 森の奥の奥で、会話にならない問答が響く。

「どこをどう歩いたのかさえ分からないのに、動くのは良くない」
「自分の歩いた道くらい分かるさ! これから、だけど……ほら石を置いていきゃ良いんだろ、そろそろ拾うよ。白くて光るのが最適らしいじゃないか、どっかの兄妹がしてたのを知ってる」
「これだけ草がたっぷり茂ってると、落とした石も見えないよ」
「大丈夫だって! こまめに落としてくから!」
「空は何重にも差し交わしている木々が遮っているし、そうでなくとも今夜は月がない。石は光らないんだ」
「じゃあ、あれだ! 通り過ぎたところの枝を、目印にべきべき折ってくさ!」
 あやふやな知識をもとに考え出した案は、こぶたの的確な反証によって次々に砕かれてゆく。けれど藍史は、幾度となく舌で負かされようと挫けず盛んに回し続け、共に足を動かすこともやめなかった。たとえ道なき道を覆う雑草を全身で掻きわけては、鋭い葉によって足や手に細かな傷をこしらえ、顔を時折しかめていても。動作を止めないでいることに、信念でも持っているようだった。
 ぶーちゃんIIの提案へ逆らうように、枝の目印という自身の策を高らかに宣言したにも拘らず、藍史はそれを実行しようとはしなかった。厳密には、途中でやめてしまった。言いきったと同時に、手近な枝へ腕を伸ばそうとしたものの、咄嗟に引き戻した。何気なく触れようとしたその木が、噂に聞く漆というものではないか、と恐れたためだった。
 闇の森に潜む、あらゆる害を怖がるあまり、藍史は手探りすらできない。その事実を誰より理解している少年は、悔しさに歯噛みした。
 明らかに、ぶーちゃんIIの言い分には理があって、藍史の言い分には根拠がなかった。何せ彼がこれまで的確でない助言など与えてきたことがないのを、藍史は身をもってよく知っている。従うべきは、こぶたの案だった。けれそ少年は、どうしても肯いたくなかった。こぶたの指摘が、意見が、”森で遭難した時に取るべき行動”を勝手に話し聞かせてきた、いけすかない人物とあまりに同じものだから。
 腹立ちや反感に背中を押されて、食い縛った歯列を解放すると、少年は声を荒げた。
「前々からその対策はおかしいと思ってたんだ!」
 そこにはいない誰かの軍門になど下るまいと叫ぶことで、脳裏に浮かんだ今回の旅行における同行者の姿を掻き消そうとする。
「だってそれは、”探す人がいる”って前提あってじゃないか!!」

 言外に、そんな人などいないと、だから一人で探すのだという意志を示した声が、森閑とした夜に吸いこまれて消えた。後に残るのは、感情を吐き出しきって、肩を軽く上下させている藍史のぎこちない呼吸音だけだった。
 やがて、それさえも治まり、本人の意図しない形で足を止めた少年の耳元で、こぶたが長い沈黙を破る。
「このまま進んでは、危険なんだ」
 言葉にまとわせる警戒の度合いを緩やかに上げ続けていたぶーちゃんIIが、遂に強い表現に踏みきる。厳しい口調の中に、諭すような制止の影を感じとって、また藍史の苛立ちに火が点く。
 そして自身がこぶたの言うとおり歩みを止めているのに今更気づいて、友人の助言も自身の迷いも振りきるように、やけくそじみて雑草を踏みしだく。
「絶対に、ここから抜け出すんだ」
「それには僕も同意するよ。ただ、きちんと計画を立てないと」
「ぶーちゃんII、ここは森の中だけど、山の中じゃない。ホテルにくっついてる、小さなただの草むらみたいなものさ」
「うん。本格的に遭難をするほうが、難しい規模だね。町も近いし」
「だから、突っきれば良いんだ。それだけのことだよ」
 こぶたは巧みに言葉の中へ、誰かが探しにくると、そう信じるようにという願いを潜ませている。隠し味じみて仕こんだそれらを、さりげなく飲みこませようとしていると少年は思った。藍史が完全に否定したものたちを、知らない間に。それがまた正しく見えて仕方がないものだから、余計に悔しくて腹が立ってならなかった。
 こうなったら、と自らの意志で耳を塞ぐことにした少年は、こぶたの返事も待たず、いよいよ太股やふくらはぎに力をこめた。相手へ見せつけるようにわざとらしく、乱暴に手近な草むらを踏みわけ、掻きわけた。実に荒々しい音を立てて。
 そして藍史の足元から地面が消えた。
(うそだろ)
 ぽっかりと開けた空間に、崖から踏み出した体が浮かぶ、奇妙な浮遊感をおぼえる。一呼吸にも満たないその時間が、まるで一時停止をかけられた録画映像のように長く感じられた。藍史が恋い焦がれていた森以外の景色は、水平線で綺麗に二分されていた。
 やがて世界がゆっくりと均衡を失い、天地をさかさまにし始めるのを、少年は自身の視点こそが引っ繰り返っているのだと冷静に理解した。
(海)
 砕け生じる三角波は、黒曜石の矢じりがぞろりと居並ぶように、鋭い峰を僅かな星明かりに鈍く煌かせる。迫りくる黒々とした水面に落ちる自身の影と、こぶたの小さな影を認め、そして更にもう一つ大きな尾鰭を持つ影が泳ぎ寄るのを、少年は見た。
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