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とまり木 常盤木 ごゆるりと

ひねもすのたのた

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幕のおりる前に、幕のあがる前に


もう調子とかどうとか分かりません。めふ。
書けることを、書くだけです。


まあ書くとか言いながらしてるのただの見直しですが!
ひとまず四十と少しは見直しができました……。
でもよしあしとかここまでくると分からないですね。
当初の目的を堅持し続けられているのかすら謎です。
つい目先の文章に意識を奪われて、翻弄されて。
本当に自分が書こうとしていたことが、手元を離れがちです。
ひっつかまえておきなさい、という話なのですけれど。
取り敢えず、ひとさまに見せても平気な状態にはもっていかないと。

ああ。もうすぐ二月が、ゼノ月が終わるのですよ。
そしたら、あと二ヶ月で、モノリスさんの蹂躙戦が始まります。
早く。それまでに、片づけられるものは、片づけないと。


そんな、習作百話の三十一個目です。









『世界と宇宙は同じもの』

 空が黒く、切り取られている。
 一分の隙もなく閉めきられた窓が、明かりの落とされた部屋の外を額縁じみて飾り、その姿をすっかり夜にさらけ出す。本来なら、この時間には硝子の表面を全て覆い隠しているカーテンが、端に束ねられたままでいるのも、今は作品を演出する房飾りのようだった。
 紫野の周囲に滞留している色彩も、硝子越しの空と同じもので。それら二つは簡単に溶けあってしまいそうだった。けれど聡い少女は、自室に敷かれた柔らかなじゅうたんへクッションも置かずにぺたんと腰を下ろしたまま、窓の向こうを仰いで、ほどなく気づく。
 一言に黒、と言っても、その表情は実に豊かなものだった。灰の強い黒もあれば白みがかった黒もある、藍を一滴だけ落としたような黒もあれば、紫を匂わせる黒だってある。それら全てを際立たせるのは、天という画布に散りばめられた煌く星々だった。
 気が遠くなるほど彼方の真空から、遥かな時間を経て届く古い光が、毎晩毎晩塗り替えられる夜を鮮やかに縁取る。背筋をしゃんと伸ばして、誰のためでもなく夜毎に繰り広げられる満天下展覧会を見つめていると、何だか今更のように不思議さと楽しさがこみあげてきて、紫野はうっすらとした笑みを刷いた。
「”天体”って、面白い言い回しよね」
 背後のベッドから床のじゅうたんへと何かが落ちる、小さな物音を聞き逃さずに少女は呟く。
「誰がつけたか知らないけど」
 相手が何かを発する前に、こちらから返事を期待して、こうべを巡らせる。緩やかに下げた視線を自身のすぐ隣にまで動かすと、星明かりを浴びてほのかに浮かび上がる黄色くて円い姿に、紫野はさも楽しげに目を細めた。


 まだ季節は夏と秋がつばぜりあいを繰り広げ、密かに火花を散らす頃なので、夜になって即座に寒さが押し寄せてくる、ということはない。しかし湯上りで布団に入らないままでいるのは、何となく落ち着かず、紫野は寝巻きの上に薄手の肩掛けを緩く巻きつけていた。上体を動かした際に滑り落ちた端を再び肩へ引き上げようとはせず、前で合わせるだけにして、少女はぶーちゃんIIをひたりと見据える。
「普段は、たいして気にもかけないのよ。でもどうしてだか、こうして延々と空を眺め続けていたら、面白いと思えてきちゃった」
「うん」
 座る位置や姿勢を変えることなく、紫野は顔だけを相手へ向ける。語りながらふと思い立ち、こちらを一心に見上げてくるぶーちゃんIIの頬を、何となく人差し指で軽くつつく。くすぐったいのか、こぶたが「うふふぅ」とおかしな笑い声を漏らすのにつられて、くす、と小さく紫野も笑みの欠片を零した。
 ちょっかいの詫びか、それとも単に同じものを一緒に見上げたかったためか、紫野はぶーちゃんIIを両手で包むようにすくい上げると、自身の膝へ導いて優しく下ろす。彼も特に異論はないらしく、おとなしくされるがままで、少女の誘い通りに空を、窓を、見上げた。
 しばらくの間、どちらも同じ角度で額縁の空を仰ぎながら、一言も発さなかった。殊に、紫野にはそれが必要なものだとは思えなかった。
 頭の中を夜と空と星で満たして、視界にもなみなみとみなぎらせる。そうするうちにやがて、自分自身もその画布を彩る顔料の一粒となって、一緒に溶けてゆくように思えた。ただ少女の、自分でも把握しきれていないほどうんと内側に灯る、ささやかな種火じみた温もりだけが、紫野という存在を確かなものにしていた。
「”天の体”」
 紫野は改めて、その名前を口にする。自発的に意志を持って、というよりは、自然と零れ落ちたようなさまではあったけれど。
「これを見ているの」
 誰に対して投げかけた言葉なのかは、紫野が主語を省いているため分からない。膝の上に鎮座しているこぶたに向けてやもしれず、いっそ自分への独白やもしれないし、それとも更に他の。けれどそれを追求しようとする者は、紫野の部屋には一人も一匹もいなかった。だからこそ少女は何一つ取り繕う必要もなく、どこか夢見るようにぼんやりと己をさらすことができていた。
 ふ、と。平生は凛と整い、少々の険すら漂わせている紫野の目元や口の端が、ふやけるように緩んだ。
「……こんな風に観ているの」
 世界を、と後に続けた言葉は音を伴わず、少女は唇だけをその形に動かした。月もない星明りだけの夜空へ、眩しげに目を細める。闇の中でほのかに朱を帯びた頬の彩りを見て取れたのは、こぶただけだった。

「”天の体を測り観る”」
 少女が発した言葉を借りて、ぶーちゃんIIが四文字の言葉を読み下す。自身の膝からのぼってきた声に、ここではない中空に彷徨い出ていた意識を引き戻されて、紫野がやや虚を衝かれたように視線を下ろすと、少女を見上げているこぶたと目が合った。
 一人と一匹分の眼差しを一直線に繋げて、こぶたがうっすら笑う。
「観察と観測、二足のわらじ?」
 かつて反骨気味の対抗心を燃やしていた手段を、紫野自身が用いていると、やんわり指摘する。けれどそこにからかいはなく、単純に興味を持って面白がっているようだった。
 だから紫野も反感を抱くこともなく、目元を和らげると薄く笑む。
「そうね。観測も、そう悪くはないわ。望遠鏡の視界も、なかなか楽しいものだし」
 他者からの予期しない言葉に自身の誇りを傷つけられて、少し前の紫野は酷く憤慨したものだけれど、今なら相手の言わんとするところが、おぼろげに理解できた。手中におさまる得物を駆使して、虫や鳥の視点で、紫野は世界を定義し見つめ続けてきた。けれどこんな別の、まるで星の視点のような世界を、知ろうともしなかった過去の自分が、とてもちっぽけに思える。
 どちらが優れ、どちらが悪い、ということはないと、今の紫野なら分かる。どうやって虫と鳥と星が肩を並べて、一体何を競いあおうというのか。
 そんな風に考え始めると、ゆっくりと頬へ熱の集まってくる気配があって、紫野は慌てて振り払おうとする。くるりとおどけて瞳を動かし、妙に気負った様子で声を上ずらせる。
「虫眼鏡と双眼鏡! 私はただでさえ観察の二刀流なのに、そこへ望遠鏡まで加わるとなれば、三刀流かしら」
「文字通り、三面六臂のご活躍だ」
 履くために用意されたわらじだけでなく、自身の腕まで数を増やしてしまいそうな現状について、どこか芝居がかったしかつめらしさで重々しく返され、とうとう紫野は声に出して噴き出した。
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