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とまり木 常盤木 ごゆるりと

ひねもすのたのた

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薔薇とレモンに明日はりんごを


どうにもこうにも二月に入ってからというもの物憂くてどうしたら。
もう月も後半だというのに、このうにうに具合。早く脱さないと……。


そんな願いとはうらはらに、いまだうごうご。どうしてくれましょう。
あれこれ気分転換も試みましたが、物憂さは完全には晴れず。
とうとう本日、ふてくされ気分で薔薇のコーディアル作りにかかりました。
まあ、ものっそい簡単なのですけれどね……。
仕込みは済んだので、一晩寝かして、明日どうなるやら。
物憂い時のお料理(特にお菓子作り)は、おすすめできないのですけれど。
気分が味に反映されてしまうので。
ただ、今日は、作業が終わった後。
手から薔薇とレモンとお砂糖の香りがして、くす、としました。
おいしくなるといいなあ。
明日、残った薔薇はりんごとジャムに。

少し気分がのぼりかけたのか、指も多少回復。
今回は特にイレギュラーなお話。趣味丸出しとも言います。
ついったなどで、「だからわたしにSFはむりだと」
と、さんざぐちぐち言ってたのがこちらです。
SF初書きにしては頑張ったほう……と、思いたい、です。









『夜明けの寝覚め』

 娘は、酷く清潔な寝室に横たわる。
 比喩抜きに塵一つない部屋は、余程熱心に掃き清められているのか、その不自然なまでに汚れのないさまは、消毒液のにおいがしない病室のようだった。とはいえ、一目で用途を解することのできない電子機器の数があまりに多く、寝床を取り囲むように据えられたそれらの存在は、患者の守りにしては重厚すぎる。眠る娘には、包帯の一巻き、ばんそうこうの一枚すら見当たらないというのに。痛みとも苦しみとも縁の遠い、無表情な白い面は、常時看護が求められる重篤な状態とは、到底思われない。それでも幾つかの機械は、人影の見当たらない夜の間も、動き続けている。
 窓はない。しかし、それなりの広さがあるため、閉塞感もない。電灯は消され、非常灯や静かに稼動する端末の画面が放つ薄明るさが、鏡のように磨き上げられた室内をぼんやりと照らしている。その中で、娘は胸を上下させることもなく、ただ瞑目していた。
 もたらされる頼りない灯りの中で、ずらりと居並ぶ計器の類や、床を這う無数の配線が己の輪郭を誇示する。
「随分と硬めのベッドだねえ」
 柔らかいものが全く見当たらない部屋に、柔らかな声と体が、ころりと転がり現れる。ありとあらゆる寝室について造詣の深いぶーちゃんIIも、今夜の訪問先は非常に目新しいものらしく、興味深そうに辺りを見回す。その間も、娘が身を預ける一風変わった寝床の細い縁から落ちないよう、注意は怠らない。
 突如生じたこぶたの気配に、ここまで身じろぎ一つしなかった娘が、ようやく目元を震わせた。どこからか低く響く、電動機の囁きじみた音と共に閉ざされていた瞼がゆるゆると押し上げられ、恐ろしく曇りのない双眸が現れる。
 カメラが照準を細かく調節する微細な音を立てながら、レンズは自動で焦点を合わせ、上半身のみの娘はこぶたを射程に捉えた。


「やあ、こんばんは」
「こんばんは。はじめまして」
 どれだけ新奇な寝室だろうと、こぶた自身は普段と態度を変えることもなく、のんびりと夜の挨拶をする。それに対し、迎える娘は突然の訪問者に驚いた様子もなく、平坦な口調で返した。非常に整った面を微動だにさせず、丁寧ながらも言葉へ一切の気持ちをこめないさまは、感情自体が欠落しているようだった。
 ぎりぎりで慇懃無礼の手前に踏みとどまって見える態度を貫きながらも、親しげに話しかけてきたぶーちゃんIIへ、娘が警戒を抱くことはない。ただ謎のこぶたが何なのか、モノなのかヒトなのか本質を見極めようとしているらしく、仰向けのまま横目に投げた眼差しで相手を観察するのは怠らない。
「これはご丁寧に。ありがとう、僕はぶーちゃんIIと呼ばれているものだよ」
 盛んにレンズを調整する駆動音を微かに響かせる娘へ向かい、ぶーちゃんIIは体を緩やかに傾けた。円い体でお辞儀を試みると、自然、そうなるようだった。
 正体を探っていた対象が自ら名乗ってみせても、それが望むような言葉ではなかったためか、娘が態度を変えることはない。ただ落ち着き払った表情のまま、その内側では新たに得た手がかりを元に、0と1の羅列を凄まじい速度で展開させて”ぶーちゃんII”なるものの検索に注力する。
 緊張を伴わない硬さで向かい続ける娘に、こぶたは顔を起こすと次に横へと体を倒す。人間でいうところの小首を傾げる、に相応する動作だということを、まだ娘は知らない。
「きみは?」
 高速で計算を続ける電子の流れを阻害され、一瞬だけ、娘は思考を滞らせた。しかしコンマ以下の速さで再開させると、首をぎくしゃくと動かしてこぶたへ向きなおり、口を開いた。
「私は対人会話特化型ガイノイド、正式名称Dialogue Advance the Way to Neurocomputer、略称DAWNです」
「へえ」
「開発プロジェクトが掲げる”より人間を知り、理解するため、限りなく人間に近い思考を組み上げ研究を進めることでヒトそのものの解明をめざす”との理念に基づき、会話による思考形成、情報の収集、経験の集積を基本回路として稼動しています」
「はあ」
「なお現在はハードよりソフトを優先しての開発であり、進捗率はそれぞれ52%、78%となっています」
「成る程。ベッドに体が上のほうしかないのは、そういうわけなんだね」
「はい」
 自己紹介と呼ぶにはあまりに事務的すぎる娘の口上にも、ぶーちゃんIIは感心しきりに頷く。こぶたは声音だけでさえたっぷりと表情の豊かさを表し、それにより娘の無機質なさまが一層際立った。
 説明を受けて、ぶーちゃんIIは改めて娘の様子を見てとる。
 調整槽という名の寝床に横たわる娘は、人間の腰から下にあたる部分を剥き出しの配線や部品で覆われており、まるで機械の蔦に絡め取られたようだった。身を飾る、薄明かりを受けて鈍く輝く金属の光沢は、人間らしさを目指す開発プロジェクトの理想とはかけ離れている。しかし視界を上半身に限れば、娘は人間以外の何者でもなく、技術の粋を集めた精巧さで、いささか整いすぎているほどの相貌をしている。申し訳ばかりにまとっている手術着に似た簡素な服と、娘の色素が全体的に薄い所為もあり、幽霊が機械に囚われているような風情だった。
 ビーズの瞳に映し、知り、吸収したものを全てあわせて、しばし何かしら難しい顔で考えこんでいたぶーちゃんIIが、おもむろに口を開く。
「ハードとソフトを同時進行で開発するということは、プロジェクト自体がそもそも人間を研究するためだから……人間らしい肉体に宿ることが知能にも影響を及ぼす、って思想でいいのかな」
「仰るとおりです」
「ふうん」
 単なる人工的な会話相手ならば、スピーカーである器の形など問わないはず。なのに、わざわざ時間も労力も莫大に必要とする人型に研究者たちがこだわる理由を、何となく察してみせたこぶたに、娘は驚きもしない。淡々と、破綻しない会話を選びとる過程で、すんなりと肯定する。

 正解を射抜いたぶーちゃんIIは特に喜ぶ様子もなく、むしろ早急に次の段階へ、思索を進めてゆく。
「ねえねえ」
「はい」
 うきうきと胸をはずませる純粋な好奇心に背を押され、幼い子供が屈託なく笑いながら袖を引くように、ぶーちゃんIIは娘へ親しげに声をかける。相手が無類にそっけない言葉しか返さないと、彼は知っているのに。
「きみの名前は」
「正式名称Dialogue Advance the Way to Neurocomputer、略称DAWNです」
「日本語なら、どう呼べば良いかな?」
「正式名称は会話が進歩させるニューロコンピューターの道筋、略称は夜明けです」
「ううん、ただの訳じゃあなくって。もっと短い、”名前”を」
「――――」
 同じ質問を繰り返されても嫌な顔一つせず、むしろできず、忠実に同じ回答を並べて返す。別言語での提示が求められれば、翻訳機能を走らせる。そうやって今まで過ごしてきた娘は、突如転がりこんだ計算外の問いかけに、とうとう会話を途切れさせた。
 まだ生まれたて、と表現しても過言ではない娘は、危険を避けるためにも現在は外部ネットワークへの接続に制限をかけられている。しかし自身のために構築された専用データベースには、膨大な量の情報が詰めこまれており、そちらへ続く扉は開け放たれてていた。娘はこれまで話しかけられるたびに、ノックもなく自在にアクセスしては瞬時に検索をかけて情報の取捨選択を行い、会話を成立させてきた。
 けれど、たった今こぶたが投げかけてきた問いは、娘が初めて触れる類のものだった。自身の開発理念でも、躯体の状態でも、明日の天気でもない。
 検索をかける。人間を模し、人間を目指して生まれた娘が、人間ではありえない速度で猛烈に検索をかける。無限に広がって見える情報の海を、我が身で割りながら進むにも似た縦横無尽なさまだった。がむしゃらに泳ぎ、立ち回り、やがて娘は尋常でなく深い、海の底に秘められた宝箱をみつけた。
 海は横方向だけでなく縦方向にもあるのだと、今更のように理解した娘は素潜りで辿り着いた宝箱の蓋を、開いた。
「――暁子、です」
「良い名前だね」
 初めて音として発した単語を、自分自身のものとして、どこかぎこちなく名乗った娘に、円いこぶたは朗らかに微笑んだ。


 誰かが上に乗ることなどこれっぽっちも考慮されていない、調整槽の細い縁を平均台じみて器用に渡っていたぶーちゃんIIが、ふと動きを止めた。ずっと彼をカメラアイで追従していた暁子は、そのさまをつぶさに観察し続けている。そんな娘を見上げ、こぶたは「そういえば」と前置きをして、暁子のほうへ僅かに転がり距離を詰めた。
「最初から、僕のほうが訊ねてばかりだね。きみさえ良ければ、何か質問をどうぞ」
「――――」
 小さなこぶたに焦点を据え、それでもまだ控えめな駆動音を立てて、幾度となく拡大と縮小を繰り返すカメラはまるで人が困惑しているようだった。ついさっき、誕生後最大の難問を打ち破ったばかりの娘が、新たにやってきた同程度の関門に再び沈黙へ陥ってしまう。しかし娘が持つ機能の一つには、経験の集積がある。
 積み重ねて得たものに基づき、暁子は先の比ではない速度で、検索をかける。かける。かける。娘が現時点で有している性能の限界へ挑むほどの過負荷を、自ら望んで背負いこむ。
 躯体へ内蔵されている記録装置に溜めこんだ、これまでの実験で得た経験。それに加えて、外部に保有されている娘専用の巨大な字引である情報の海、更に遠い場所にある世界そのものへ繋がるネットワークにまで細い道を潜り抜けて、手を伸ばして捜し求める。正しい答えを。
 持てる限り、知り得る限りの情報から、いつものように相手が求める最適な返答を見出そうとして、暁子は思考の奔流が意外なものでつまづいたように感じた。空を駆けるように高速で疾走するスーパーカーが、道端の些細な小石に気を取られたようなものだった。
 思考に雑音が混じる、いっそ砂嵐さえ。身を沈めようとした叡智の海へ、飛びこむ直前で後ろから髪を引っ張られ、がくんと姿勢を崩した娘は乱れる0と1の流れにも動揺を表さない。ただ、視界の照準が狂ってしまったのか、カメラが焦点を合わせようと忙しく鳴らす細かな動作音がむやみに夜へ響いた。落ち着きを取り戻したレンズに、再び黄色い姿が像を結び、暁子は両眼を大きく見開く。正しい答えが、そこにあった。
 最初から映していた、延々と見続けていた円くて柔らかな存在に、世界でも有数の明晰な頭脳を持つ娘は、ようやっと気づいた。
「――あ、な」
 暁子の喉に振動機能は搭載されていない。だから娘の声は不自然に途切れながら、吐き出されるだけだった。単純極まりない構造である黒いビーズの瞳が、自身の姿を映しているのを娘は認識しながら、続けようとする。
 鈍く、金属の軋む音を立てて、娘は左肘から先を持ち上げようとする。
「あな、た」
 どこかで前もって計算され、書き置かれていた文句ではなく、己の力だけで言葉を紡ぎだそうとする。美しく舗装されていた道路から初めて逸れ、ためらいがちに荒れ野へ踏み出す一歩だった。
 まだ人工の皮膚に覆われていない、金属部分が完全に露出した腕は見るからに未完成で、酷く拙い動きだった。滑らかな所作など求められていないし、プログラムを書きこまれていない。それでも暁子は、指もろくに扱えない手を、こぶたへ向けて伸ばす。
 娘の硬質な瞳に映るこぶたは、真っ直ぐに暁子を見つめる。
「あなた、は。ふかふか、ですか?」
 計算に計算を重ねて抽出され、絞り出された問いかけは、この上なく透明なものだった。真摯さも度を越すと、いっそ無邪気とさえ思える域に至る。
 こぶたはその問いに心底から満足したのか、快さに溢れて表情を緩めると、ゆっくりと口を開いた。
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