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とまり木 常盤木 ごゆるりと

ひねもすのたのた

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色んなツケが徒党を組んで大挙して

ふふ…指の調子と精神状態がアレなままですよ……。
だというのに、ゼノお誕生日まであと五日。


五日。いつか。ぐはあ。
うう、ゼノだから大丈夫だと油断しすぎました。
一本勝負を幾度か重ねたからと、慢心していましたね……。
頑張れば一時間で、どうにかなるものだと。
本来ならば見直し期間も含めて、もっと余裕を持つべきでした
ぜいぜい言いながら、現在がんばっています。
フェイエリィですし、これまでの積み重ねがあるはずなのですが。
どういうわけだか苦戦しています。
短いものですのに!
何でしょう。書いていて、妙に消耗してきます。
集中できていない、というわけではないと思うのですけれど。
何故だか、つかれてしまいます。

これまで保ち続けていたペースを、乱してしまったので。
まだ足元がぐらぐらしているのやもですね。
二月いっぱいは調整期間にしたほうが良いやもです……。
今回のお話、悩んだ末にテーマは『感謝』に到着。シンプル。
ところが書いていて、ちょっと「おや?」となりました
あれなんかこれいつもと…やや違う……?
むう。その所為でちょっと進みが遅いのやも。


ともあれ、心の中で素数を数える気持ちのまま、習作百話を。
このたびはやや暗めです。あんまり暗めにはしたくないのですけれど。
たまには、ということで。









『けものの道は薄氷を辿る』

 ぬらり、としたものがまとわりつく。それは吸いこむだけで胸を重たく沈ませるような、湿りきった空気の満ちる日陰で、ひねこびて育ったものに違いなかった。粘性のキノコじみた肌触りは、僅かに指先をかすめるだけでも総毛立つ代物だというのに、そんなものが足元から這い上がって体を覆おうとしている。悲鳴など、怯えきった舌どころか肺からすくみあがって、一欠けらも漏らすことができなかった。
 黒い、何かが、襲ってくる。恐ろしくてたまらないのに、息もろくにできないくせに、少女は目をそらすことができなかった。瞼の下ろし方すら忘れてしまったのか、限界まで見開いた双眸で、恐怖そのものへ魅入られたように桜子は凝視する。
 すると目の前で、黒いものがゆっくりと彩りを変えてゆくように思われた。黒に極めて近くありながら、確かに異なる色が視界を侵食してゆく。鮮やかさの純度が上がってゆくのならば、それは周囲を明るく染めて夜明けのように照らすはずだった。けれど実際には黒とおぞましく入り混じり、古い血が滲み出してぼろ切れを汚してゆくさまに近かった。
 包帯を染める色に、幼子は瞳と心臓を貫かれた。
(あか)
 その名前を認識した途端、乾ききっていた喉が血を噴き出すほどの勢いで、桜子は言葉でも音でもないものを吐き、咆哮した。


 目を開いた。呼吸はぎこちなく乱れ、全身にびっしょりと嫌な汗をかいてはいたものの、少なくとも桜子は閉じていた目を、現実に開けることができた。酷く、禍々しい夢から脱することができた。愕然と見開かれた両眼に映るものは一面の黒で、その色彩に少女は今や安堵さえおぼえた。
 黒が染み渡ってゆくように、桜子は緩やかに状況を理解し始める。ぎこちなく胸を上下させている自分が横たわっているのは慣れ親しんだ寝床で、添い寝をしてくれていたはずの母は姿を消している。張り裂けてはいないかと、闇の中でおそるおそる指を這わせた喉は普段と変わらず、ただ潤いをなくしてからからになっており、声を出せそうにないことだけが夢の中と共通していた。
 そして少女はようやく、首や鎖骨に触れた手が、細かく震えているのに気づいた。
(ああ)
 分厚い寝巻きや、たっぷりとした温かな布団にくるまれてなお、凍えたような体は震えを自分で止めることができない。そのことを、少女は絶望的な眼差しで見つめた。
 横たわったまま、祈るように天井を仰ぐ。
(だれか)
 ころ、と。枕元に円く柔らかいものの佇む気配がした。

 普段ならば親しげに微笑みかける存在へ、桜子は恐怖に強張る眼差しを向けた。けれど少女の周囲を覆っているのは、圧倒的な夜の帳であったから、黄色いこぶたの姿を目視することはできない。
 だから少女は、まだ震え続けている手をシーツに這わせ、闇の中を探りながら円い姿へ近づこうとする。やがて冷え切った指先が、布団とは違う柔らかさを持つ誰かに触れると、少女は喉の奥にごつごつとした熱いものがせりあがるのを感じた。
 吐き気にも似たその感覚を慌てて呑みこみながら、彼を腕の内へ抱きこむと近くへ引き寄せて、そのまま胸元へ押しつける。無意識のうちに体勢を変えていたらしく、桜子はベッドの片側を占める壁へ背中をつけ後ろの安全を確保すると、掛け布団を巻きこんで胎児のように丸くなった。
 頭から爪先まで、自身の吐息により息苦しいほどの熱と黒に包まれ、心臓の側にはぶーちゃんIIが寄り添っている。現在、少女が取ることのできる身の守りが全て尽くされているというのに、桜子の震えはまだ止まらなかった。
(すぐ、そばにいたのよ)
「うん」
(わたしの。友達)
「うん」
 黒以外に何も映らないというのに、桜子は目を大きく見開いたままだった。もし瞼を下ろせば、また夢の中で襲ってきた彩りが蘇る気がしてならず、目を閉じることにどうしようもない恐れを抱いてしまっている。小刻みに漏れる不規則な呼吸は、体の震えをそのまま表しているようだった。
(道を、わたっていて。おうだんほどう。わたしは、しろいそこを、歩いていたの。でも、その子は、はしゃいで飛びはねながら、くろい外側に出ていて)
「うん」
(すぐ、となりに、いたのよ)
「うん」
(手がとどくほど)
 ぶーちゃんIIを抱き締める両手に、力がこもる。それでもやはり震えは止まらず、桜子は柔らかな彼をますます強く自身へ食いこませる。自身の顔が歪むのもお構いなしに、鼻面までこぶたの体へ埋めてしまう。
 湿っぽい息が擦り切れた毛並みに染みこんで、桜子の頬までうっすらと濡らした。
(なのに、いなくなったの)
 眼球の表面にちりちりと走る痛みや、こぶたと布団に守られてなお忍び寄る恐怖の気配に耐えかねて、とうとう桜子はきつく目を瞑った。怯えた吐息は見えない何かに苛まれ、途切れ途切れだった。

 声をかければすぐに顔を合わせて笑いあえるほど、指を少し伸ばせば袖が掴めるほど。そんな位置にいた友達が、ふと目を離したら突然、姿を消した。直後に、ごく近くで悲鳴じみたブレーキが甲高く軋み、辺りへ鈍い衝撃音が響いた。咄嗟に何が起こったのか分からず、きょとんと小首を傾げた桜子が何気なく視線をやった先の道路で、友達が倒れていた。あかい色を伴って。
 後のことは、己の目で確かに一部始終を余さず見ていたはずなのに、まるで映画でも観ていたようで、覚えている光景と自分自身の間に距離がある。
 その場に立ち尽くしたまま身じろぎもせず、声も発さず、ひたすら眼前の出来事をぽっかりと開いた両眼へ映写し続ける少女に注意を払う人間はいなかった。居合わせた大人たちは誰しもが鋭い声を上げ、怒号じみた遣り取りを飛び交わせ、慌しく電話に向かい興奮した早口で話し、車にはねられ倒れ伏した子供のために全力を挙げていた。
 目も心も体も痺れたように取り残されていた桜子が、母親の腕で力一杯に抱き締められたのは、数時間後のことだった。

(少し違っていただけ)
 皿の形に広げた両手の平から、指の隙間をすり抜けてぽろぽろと砂が零れてゆくように、桜子は感情の薄い言葉を落としてゆく。傍らで確実に耳を傾けているだろうぶーちゃんIIは無言のままで、相槌を打とうとしない。ひたすらに胸の内で独白を続ける少女は、もう相手の返事を求めていないのやもしれない。
 だからこぶたは、ただ、体の内側へ食いこむほど握り締めてくる少女の指を受け入れながら、そこにいた。
(あそこに倒れていたのはわたしだったかもしれない)
 同じ制服を着て同じ色のランドセルを背負って、同じ歌を口ずさみながら、同じ道を歩いていた。異なっていたのは、足元の色くらいのものだった。少なくとも桜子には、いくら考えてもそれ以外の要素を見出すことができなかった。
 いつもは様々な疑問を投げかけて、そのつど豊かな知見を根とした返事を貰い、一人と一匹であれやこれやと考えを掘り進めてゆく。その共闘じみた過程や時間を、桜子はとても快く思っていた。
 けれど今夜の桜子は、こぶたへ訊ねることなく一人でシャベルを振るい、かつんと答えを掘り当てる。
(世界は、足元は、なんて危ういの)
 ほんの少し爪先の乗っていた場所が異なるだけで、今しがたまで地面を踏みしめていた体は、宙を舞ってしまうかもしれない。一瞬の判断を誤ってしまえば、取り返しのつかない事態はあっさりと降りかかる。もしかするとこうして呼吸をすることさえ、油断のできない行為なのやもしれないと思うと、桜子は胸が詰まるようだった。
 昨日まで世界とは桜子にとって、たっぷりとした安心に満たされた揺り籠であり、疑いもしなかった。なのにそれは簡単にくるりと裏返しになると、少女の一挙手一投足を厳しい目で監視する、気難しい鳥籠になった。
「そうかな」
(そうよ)
 胸の前から、ぶーちゃんIIがそっと言う。それはひとりごちているようにも、訊ねているようにも聞こえたが、桜子は後者と捉え即座に返事をした。
 そこで生きてゆくために、と。桜子は結論を出した。強い意志を宿して、目を開いた。
「だから、間違えないようにするわ」
 はっきりと、口にする。
 一歩でも踏み間違えてはいけない。足元は常に不確かだと思わなければならない。だからよく見て、考えて、周りより足が遅くなったとしても急がず道を見極める。そうでなければ、鳥籠は放り投げられ、地面へ叩きつけられることになる。それを避けるには、決して、一度たりとも、間違いを犯さないようにすることだけだった。
 黒いビーズの瞳で桜子を見上げていたぶーちゃんIIは、いつまで経っても少女の視線を捕まえることができないと分かると、静かに顔を伏せた。
「……そう」
 低く漏れた短い呟きは、桜子の耳には届かず、厚い寝巻きに吸い取られた。
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