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とまり木 常盤木 ごゆるりと

ひねもすのたのた

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『うさぎの卵にさよならを』

唐突にですがFF5のお話です。
再プレイしていて、静かに驚いたことがあったもので……。


もうすぐ完成だー、と読み返し作業しつつ、昨日までは喜んでいました。
が。
今日になって最終読み直ししてましたら、急にだめに見えてきました。
何でしょう。書けてない。描けていない。
絵ではなく額縁に躍起になっている。
けれど今更軌道修正は不可だし、とぐるぐるした結果。
もうこれ以上粘るのは逆効果だと判断し、開き直って載せておきます。
何かもう色々と駄目ですね。

リックスの村。
遥かなる故郷。
数年ぶりに訪れたあの村で起きたイベントに、驚きました。
激しいものではありません。声にも出ないささやかなもの。
ただ、コントローラーを握ったまま、「あ」て、なりました。
そうするの。あなたは、そうするの、と思いました。
なので書いてみました。
まあ細かな言い訳はまた後日ということで。

第一世界、リックスの村での、光の四戦士のお話。
驚異的に喋らないバッツです。スコール並みに心の声ですよ!





『うさぎの卵にさよならを』


 旅慣れた放浪者の目にも清かには見えない、リスしか知らないような細い獣道を、彼は辿る。
 その場所を目指すと決めた時、「道を覚えているだろうか」という僅かな疑念が頭をよぎったが、結局は杞憂だった。淡くぼやけた記憶は、どこよりも濃く滴る深緑を視界に入れるや、まるで染め上げられるように彩りを鮮明に変え、思い出の中で差し伸べられていた枝々が宿す葉の輪郭さえ、くっきりと浮かび上がらせた。
 知らず知らずのうちに、足取りが早まる。わけもなく急かされるように進められる足は、いつの間にか幼い自分に手を取られ、引かれているためなのではという錯覚さえ彼におぼえさせた。
 幾重にも張り巡らされた緑の緞帳を掻き分け続けると、やがて唐突に視界が開ける。木々の隙間から漏れ落ちる、細く頼りない陽射しに慣れた目が痛みにしかめられるも、そう長くはない。ほどなくして、森の只中にぽっかりと姿を現した小さな村落と、その上に広がる馬鹿らしいほど澄み切った青空を認めるや、彼は無意識に深呼吸をし、草いきれとは異なる瑞々しさで肺の奥までとっぷりと満たした。
(ああ)
 先程まで全身を浸していた森の嵐気とも違う、清々しさの中へ僅かにセピアの染料を落とした香気に、息も詰まりそうになる。そうして胸が吸気以外のもので溢れそうになったためか、彼は溜まったものをゆるゆる細く長く吐き出すと、半開きになっていた唇の口角をゆっくり上げた。
(ただいま)
 雲一つない、魂ごと吸いこまれそうな蒼穹を仰いで、故郷へ踏み入るたびに訪れる甘やかな目眩にバッツは身を委ねた。

 この感覚に襲われるのは帰郷の際にお馴染みのことで、特に珍しくはないし、また尾も引かず早々に治まってしまうので、余り気に留めない。実際、仲間たちを連れて村の中を落ち着いた歩みで回りながら、懐かしい人々と軽く言葉を交わす間にも、目眩は緩やかに遠ざかっていった。
 しかし、控えめな歓呼に迎え入れられながら話を聞く中で、彼は予想もしていなかった情報を得て、ちょっと目を見張った。
 時間の流れがうたた寝しているような村でさえ、変化というものから無縁ではなかった。彼が幼い日々を過ごした家に、今は新たな住人が暮らしているらしい。その事実を知らされても、彼は別に衝撃も受けなかった。むしろ単純に、これほど辺鄙な村へ越してくるとは物好きな人間もいるものだ、と半ば呆れ半ば感心しただけだった。そしてふと、世間から隔絶された奥深い小さな村でも、時間はいずことも同じく、確実に流れているのだと、今になって気づいた。
 ともあれ、長らく主を持たなかった空っぽの一軒家に、明かりが灯るようになったという。ならば、そんな好事家の顔を挨拶がてらひとつ拝んでやろうという考えが、特に気負うでもなくすんなりと浮かんだ。深い森を走破してきた仲間たちも、今は疲労感より好奇心が勝っているらしく、すぐさま宿屋へ向かうよりは探索を続けることに賛成した。まだ物珍しげに村の中を見回しながら歩く仲間たちを連れて、彼は爪先をかつての実家へ向けた。
 そうして当たり前ながら、いささかも迷うことなく、あっさり目的地へと辿り着く。狭い村で、赴く先は懐かしの我が家。足取りの惑う要素がない。けれど軽い気持ちで向かった彼は、いざ玄関の扉を前にした途端、急激によく分からない違和感をおぼえた。それはついさっき自身に取りついていた目眩によく似ていたが、甘さより、寝ぼけた目を覚まさせる鮮烈な苦みを含んでいた。

 見慣れた家、見慣れた扉。鈍い色に輝く真鍮のドアノブに施された意匠も、幼い彼自身がつけては叱られた入り口の傷も、あらゆる思い出がつまびらかに甦る。
 そこは確かに、疑いようもなく、彼の『家』だった。しかし今はもう、『家』ではなくなっている。その揺るがしようのない事実が、ここにきて、やおら現実味を伴い、やってきた。浜辺に立ち尽くす足の指をひたひたとくすぐり、甲を洗い、やがて膝まで達そうとする満潮の海が送りこむ細波じみた、緩慢な訪れだった。
 僅かな戸惑いを含んだまま、けれど表には出さないまま、彼は何食わぬ様子で扉を叩く。内側からすぐ返された声に応じて、手の平に馴染んだドアノブへ指を伸ばすと、ぴり、と小さな痛みが走った。


 幼い日よりも、うんと軽く思える扉を開き、そうして目の前に広がった光景に、彼は、正面から風に強く吹きつけられたような感覚に見舞われた。
 彼がよく覚えている、どっしりと佇んでいる『家』と、大きくは違わない。けれど。母の砦であった流し台の道具配置、その前だったはずの籠の置き場所、机の上の花瓶、趣を変えた本棚の住人など、小さな差異が瞬き一つもしない間に、次々と目に飛びこんでくる。記憶の上へうっすらとかけられていた思い出という埃を、容赦ない突風が巻き上げ、洗い流し、彼に目がけて投げつけたようだった。攻め入られるみたいだ、と彼は咄嗟に思った。その侵略が眼球の中へか、思い出の中へかは、自身でも判然としなかった。
 暖炉の前に据えられた椅子で、何か書きものをしながらくつろいでいた線の細い青年が、顔を上げる。傍らに竪琴を置いているさまから、村人が言っていた新たな住人、吟遊詩人に違いなかった。
 微妙に奇妙に変容して見える、かつての『家』のさまへ密かにたじろぎ、すぐさま挨拶の言葉も口にできない彼に代わって、仲間たちが訪問の理由を告げる。すると吟遊詩人は柔和に微笑み、即座に歓迎の意を表した。職業柄、旅人の話へ耳を傾けることは大きな楽しみであり、また歌の糧となるのだろう。家の主人らしく、まだ旅の埃も新しい冒険者たちをもてなすべく、外套掛けを示し、椅子をすすめ、自身は茶の支度をすべく腰を上げた。

 森での長躯に耐え続けた足を休めるべく、やれやれと居心地の良い布張りの椅子へ身を沈める者。疲れも知らず、しゃんと背筋を伸ばして立ったまま、室内の調度や設えを興味深そうに眺める者。厚い外套を脱ぎ、軽く身支度を整えてから、主人の手伝いを申し出る者など、仲間たちの反応も様々だった。その中において彼だけが、最初に中へ足を踏み入れてからというもの、一言も発さないまま、玄関先に立ち尽くしていた。と。
(あ)
 どこか茫然としていた彼の瞳が、ふと、あるものの存在に射とめられた。すとん、と優しい矢じりに胸をも刺され、また知らず、息を止める。瞬きも忘れた両眼を大きく見開き、あの廃船の群れで妖魔の甘い幻へ誘い出された時のように、ふらふらと何かへ近づいてゆく。故郷の家で、千鳥足よりも頼りない足を、彼は進める。
 辿り着いた先にあるのは、人の顔や肩へ、なよやかにしなだれかかる浮釣草と同じ彩りをした、小さな箱。年月を経てやや色褪せてはいても、かえって趣を帯びた紅紫色のベルベットに覆われているその品は、入り口から真正面に位置する棚の上へ置かれていた。
 煮詰められた杏の夕暮れに、一筆、夜の藍を刷いて掻き混ぜたような色。梁や桁、また調度なども侘びた色合いの木で揃えられている室内で、その存在は一際はっきり浮かび上がる。鮮やかな色は彼でなくとも目を引かれるもので、少なくとも室内を観察していたファリスはその存在に気づいていた。しかし一目見て、この小箱がどういう性質の代物なのかを、彼と同じように理解することはできなかった。ただそれは、誰にだって、できないことだった。
 まじまじと小箱を見つめ、視線を吸い寄せられるように集中させると、やがて彼はおもむろに両手を伸ばした。しかし触れかけたところで、包みこもうとした指の形もそのままに、ぴたりと動きを中空で止める。改めて、穴が開くほど小箱へ見入り、大きな双眸へその姿を明瞭に映しては再確認するように、幾度もしばたたく。
(こんなに小さかったっけ)
 幼い彼がこれに触れる時は、両手の平を仰々しく構えても受け止めきれないほどだった。息を殺して、粗相のないよう丁重に扱う、幼心におぼろげながら高貴な存在として捉えていた品だった。なのに今は、何気なく広げた彼の片手にも収まりかねない。
 新たな住人がもたらした新たな息吹により、彼の『家』は微小に変化を迎えている。ごくごく僅かな記憶との齟齬が、こんなところにも及んでいた。
(想い出ごと、縮んじゃったみたいだな)
 自嘲でも皮肉でもなく、どこか諦観じみて、微かに口角を上げる。
 いつまでも押し黙っている彼のさまに、流石の仲間たちも違和感をおぼえ始めた。小さな箱を前にして立ち尽くす彼へ、茶の支度を調えたレナがちょっと驚いたような視線を送るのにも気づかず、とうの本人は沈黙を保ったまま、小箱を片手でひょいと掴んだ。そして軽く引っ繰り返すと、もう片方の手で裏側の何かをいじる。僅かに聞こえる金属の軋む音に、居合わせた面々はネジが巻かれたことを知った。
 伏せ気味の瞳に宿す表情は誰にも見せないで、彼は小箱を持ち直すと、ぱくん、と蓋を開いた。

(零れ落ちる――)
 単調な旋律が、ゼンマイ仕掛けで奏でられる。
 広げた手の平、ところどころに薄い傷跡の見える、節くれだった指の隙間を縫うように溢れだした音色を前にして、彼は咄嗟にそんな感慨を抱いた。
 弦を爪弾いたり、鍵盤を叩いたりすることに、彼は親しんできた。音楽は気の合う友人で、旅の仲間の一員でさえある。音は手に取れるもの、音は目に見えるかもしれないもの。けれどついさっき、彼が掌から落ちてゆくと感じたものが、硬質なトゲの生み出す柔らかな音のことなのか、自身がオルゴールに詰めこんでいた想い出のことなのかは、やっぱり本人にもよく分からない。
 ただ分かるのは、それが、かつて我が家の中において最も美しいもので満たされていた母の小さな引き出しに、ささやかな装飾品たちと共に眠っていた、文字通りの宝物だということだった。何かのお祝いの折などに、母が厳かな手つきで慈しむように持ち出しては、素朴な音色を家族で分け合った品。その母を亡くして村を発つ時、父は、ほぼ空っぽになった棚の奥深くへ、それを無言でしまいこんだ。封印するようだった。
 なのに今や封印の品は、平穏な日々を過ごす吟遊詩人の手により解き放たれ、穴倉じみて澱んだ空気から、ほの温かなランプの下へ姿を現している。動かない暗闇と埃の中に身を置き続けたオルゴールが、時間の流れを取り戻した。零れ落ちているのは、凍りついた時間の殻が、割れ、剥がれ、散った、欠片なのやもしれない。
(お前も息を止めてたんだな)
 ぼんやりと考えるうち、そんな結論に彼が到る間にも、僅かしか動くことを許されなかった音楽は、緩やかに立ち止まり始める。
「こちらの家へ入ることになり、荷物を片づけていた時に、棚の奥からみつけたものなんです」
 思わずオルゴールへ聴き入ってしまっていた仲間たちに、旋律が途切れ途切れになるのを見計らってか、吟遊詩人が茶を振舞いながら説明を始める。二人と半分の視線を浴びながら、家の主はゆったりとした動作で焼き菓子をすすめた。
「最初から家へあったもの。なので私の所有物ではないのですが、音色が美しい上、状態も非常に良かったもので……。つい、飾ってしまっていました」
 吟遊詩人が語りだしても全く意に介さず、彼は卓のほうを向こうともしない。オルゴールと対峙する、この家のかつての住人を眺めやり、歌の紡ぎ手はそっと目を細める。そこに、語るべき音楽をみつけたのだろう。
「とても、大事に扱われていた品なのでしょう」
 いくら言葉を向けられても、視線を寄越されても、彼は気づいているやらいないやら。否定とも肯定とも無縁のまま、オルゴールへまるで一騎打ちのように向かい続ける彼へ、そろそろと距離を推し量りながらレナが問う。
「―…持っていくの?」
 言葉を選び、どこか戸惑いながら発された声は、普段と雰囲気を異にしたままでいる彼へ、どう接すればという迷いが含まれていた。
 そんな仲間たちの心情へささやかに生じた波紋を、はっきり認識しながら、吟遊詩人は重ねて言う。
「どうぞ、お持ちください。その品は、あなたのものです」

 明確に背を押され、念も押され、見えない誰かの手にさえ押されたように、彼は無言で蓋を閉じた。繊細な硝子細工を扱うよりも恭しい手つきで、そっと包みこむ。重苦しい時と塵と闇に囲まれ続けていた親愛なる者への、いたわりさえ感じさせる所作は、剣と弦の双方へ等しく触れる彼の指が持つ様々な表情を、また一つ露わにする。
 そして俯きがちだった顔をゆっくり起こし、この日初めて仲間たちのほうへ真っ直ぐに向き直ると、バッツは、からりと笑った。いつもの彼に限りなく近い、けれど少しばかり雲を追いやりすぎて、あっけらかんと晴れ渡る、乾いた秋空のような笑みだった。
「いや、置いてくよ」
 口を噤んだオルゴールを、かたん、と軽すぎる音を立てて棚へ戻した。
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