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とまり木 常盤木 ごゆるりと

ひねもすのたのた

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二月大生誕祭第五夜

日記タイトルの『大○誕祭』って、変化つけて遊んでたのですが。
遂にネタ切れとなりました。語彙の乏しさが悲しいです。


再燃指輪熱がキュンキュンしすぎてたいへんなことに。
朝から胸が高鳴りすぎて苦しいとかどういう。
ああこれは書きかけ指輪話をしあげなきゃですね。
今はゼノ祭り中なので、今度ですけれど。
しかしこの熱はとても指を走らせてくれそうです。
上手に変換して、活かさないと。
だって、もうすぐ、十一日になりますよー!

最近、前置きが長いので、ちゃっちゃといきましょう。
ここまで少し苦みのきいていた、へなちょこけいかく。
本日から。糖分補給、反転攻勢。
反撃開始。

『眠れる森も白雪も』(ニサン組)


 口さがない大人たちは勝手なことを言いふらす。そして子供には理解できないとだろうと決めつけて、周囲に小さな瞳があることも気にかけず、さんざに言葉を撒き散らす。意識しているにしろ、無意識にしているにしろ。けれど子供は、よく聞いている。殊に、聡い子供は、とても。
 どす黒いもの、醜いものを、彼女はよく耳にしてきた。また彼女が全く望んでいないにも拘らず、知らない形に自身が押しこまれてはめられようとしているのも、幾度となく体験してきた。幼い上に病弱な子供が抗う術など、あるはずもなかった。だから彼女は反射的に自分を守ろうとして、聞いているのに聞いていないふりをするのが、随分と上手くなった。けれど今日、耳にしたそれは、きらきらと光の粒子を撒くように、彼女の鼓膜へ響いた。きれいだと、彼女は思った。聖典の文句以外で、きれいだと思える言葉が修道院で聞かれたのは、初めてのような気がした。
 神に仕える修道女らと彼女の腹心たるジークリンデが、柱の側で声を潜めて話していた。ひそひそ話は往々にしてろくでもないものだと、彼女は本能的にも実体験からも知っていた。けれど、その話し手が最も信頼するジークリンデだったものだから、彼女もつい耳を傾けてしまった。そして、知った。更に、知るや、その内容を真実をどうしても確かめたくなって、彼女は思わず細い足で駆け出した。
 しかし、急くだけではいけなかった。そもそも彼女は、修道院という清らかな檻に繋がれている身であったから、『確認』のため外へ出かけるなど許されることではない。鎖はなくとも囚人に自由はない。だから誰にも気づかれないよう、細心の注意を払った。石畳では足音を潜め、柱の陰に隠れながら進み、すぐ側を人が通り過ぎる時は息を殺して、脱出に挑んだ。
 その努力は実を結び、石牢じみた修道院を抜け出すや、体の弱い彼女としては精いっぱいの速度で、再び走り出す。やっと息ができるとばかり、深呼吸をしてみると、胸が辺りに溢れる草いきれで満たされた。青く、甘い香りを放つ草に覆われた丘の、一番見晴らしの良い場所を目指す。そこにはきっと、彼がいるから。
 ふくらはぎや膝をくすぐる草を掻き分けて、彼女が丘をさして駆けてゆくと、空の大半を占めていた森の木々は、そろそろと伸ばしていた枝を会釈するように下げると、奥へ控えてゆく。はあはあと、とっくにあがってしまっている息をそのままに、流れるように開けてゆく視界を見上げて、エリィはやっと微笑んだ。探し人は今日も、粗い紙の画帳と向き合っていた。
「ラカン」
 苦しい息ながらも、肩だけでなく胸も弾んでいるような声でエリィが呼ぶと、小柄な少年が振り返る。そして彼女の姿を認めると、黒鉛を握ったまま、ふわりとはにかむように笑った。相手の返事を待つこともなく、エリィは座っている彼の前まで走り寄ると、スカートのすそをふうわり膨らませてしゃがみこんだ。
 まじまじと相手の顔を覗きこむと、あまりに顔を寄せすぎたため、ふたりの暁と真夜中の色をした髪が、お互いほつれて交ざってしまいそうなくらいだった。
 そうしてエリィは、夜よりなお暗い黒曜石の瞳に、自身の姿が映るのを見てから、重々しく提案した。
「おとなのキスをしましょう」
 ラカンの目が、一層真ん丸に見開かれた。

 突然の思いもよらない持ちかけに、ラカンは言葉を返すこともできない。その沈黙の隙を縫って、彼と向き合う形で丘の草をじゅうたんとして座りこんだエリィは、本腰を据えて説明を行った。
 曰く、ジークリンデたちの話によれば、おとなのキスは、さくらんぼ味らしいと。レモンや苺などという噂もあれど、やはり、さくらんぼ味なのだと。それはとても珍しいし、どういうものなのか、彼女は気になって仕方がない。なら、試してみれば良いと判断したのだと。
 彼女にしてみれば、真剣且つ単純な話だった。分からないことは自分で調べて考えて解決するもの、と勉強を教えてくれる際、ジークリンデも言っていた。疑問を実践で解き明かそうと思っただけ。ただ、それとはまた別に、もう一つ、目的も彼女は秘めていた。とにかく彼の協力がなくてはならないため、ラカンの反応をエリィは待った。
 一通り話を聞いて、内容を彼なりに咀嚼して、理解して、飲みこんで、更に考えこんでから。ラカンがゆっくりと声を発した。
「……さくらんぼが食べたいなら、取ってこようか?」
 小首を傾げながら、一言ずつ確かめるように放たれた言葉に、つい、エリィは微笑を深めてしまった。彼が一生懸命理解しようとつとめた結果、出てきた言葉は、エリィの狙いからは外れていたけれど、それでも彼女のことを思ってのものだった。その思いやりが嬉しくて、当初の目的から反れてしまった残念さを打ち消しかねないほど、嬉しくて。思わず目を細めてしまう。
 きっと、まだはやいのね、と彼女は判断した。だから、やや伏し目がちに微笑んでから彼の額へそっと一つ、小さな口づけを落とした。それでもまだ彼は状況を計りかねているのか、きょとんとしていた。
(おとなのキスをすれば、はやくおとなになれると思ったの)
 寂しさと喜びがないまぜになったような微笑は、ラカンが一瞬どきりとするほど、彼女を大人びて見せた。けれどそれは、幼い少女が見せる表情としては、惨いような諦観を含んでいた。
 彼女は遥かに広い空を見やる。

(この鳥籠から抜け出せると思ったのよ)
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