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とまり木 常盤木 ごゆるりと

ひねもすのたのた

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二月大爆誕祭第二夜


ほいさー、始まったばかりの二月大爆誕祭です。
そして始まったばかりなのに、早速再掲ですみません……。


や。でも。その、これ、地味にレアなやつなので。
以前書いた後、うっかりお話置き場格納を忘れていて。
そのまま放置になっちゃってたやつの、発掘なのです。
ほんとタイミングを逃したとしか言いようがないのですけれど。
現時点で、わたしが書いた唯一のソーマ話です。
そしてわたしはどこまでもヴェルトを不憫にしたいようです。
ごめんヴェルト、でも好きですよ。まっすぐないい子。

ただし、かなり昔のものなので、文体が少し違います。
まあ作品に合わせてほんわかさせた所為もあるやもですが。
書き下ろしたばかりの、先日のバテン2話と比べれば違いは歴然。
正直なかなか恥ずかしいのですが、致し方ありません。
ああこんな文章の時もあったのだな…と生温かく見て頂ければと。

ご機嫌な足音響かせて、お祝いの日が近づいてきます。
その日、当日に向けて、細工は流々。
仕掛けのスイッチ押す時まで、今はのんきなお祝いを。


『説明書をよくお読みになり』


 ぱたったぱた、ぱたったぱた、ぱたっぱたた、ぱたったたぱっ。

 おかしなおかしな足音が、何度も幾度も忙しなく、落ち着きなく、繰り返されます。一定のリズムを刻んでいたかと思うと、いきなりぴたりと鳴り止み、かと思えば、今度は先程よりも早い調子で再開されたりするのです。知らない人が聞いたなら、まるで道化がおどけながら歩いているのでは、と思うやもしれません。シルトクレーテ中央通路の一角に、法則も何もなく響き渡るその足音は、何とも泰然とはかけ離れたものでした。
 ただ奏で手の、とにもかくにも気もそぞろな様子だけは、耳にする誰にとっても、ひしひしと伝わるものがありました。何かに迷い、戸惑い、悩み抜いているさまが、つまびらかなほど目に浮かびそうなくらい。困惑靴音狂想曲、指揮も演奏も作曲も、一人でこなしているのは、ヴェルト。

 シルトクレーテ、その廊下。同じ場所を行ったり来たり、ぐうるぐる。腕組みをして、うんとしかつめらしく眉間に皺を寄せ、今にも頭を抱えそうなくらい困り果てた顔つきで。ぱたったぱた。ぱたったぱた。気忙しい靴音を鳴らし続けます。けれど、ふいに。もう幾度目とも知れない、演奏中断が入ります。ぴたりっと、ヴェルトが足を止めました。辺りがしぃんと静まり返り、聞こえてくるのは艦の低い稼動音だけです。
 肩を落として軽くうつむいたかと思うと、すぐさま、ぶるぶるぶるっと、何かを追い払うように頭を振ります。ぐしょ濡れになったわんこが、滴を吹き飛ばそうとする仕草に、よく似ていました。そして、これまでの迷いが嘘のように、昂然と顔を上げると、固い決意を双眸に宿して駆け出しました。一目散に、ある場所を目指して。その足音はもう、ひょうげたようではありませんでした。


「っ隊長!!」
 男性用キャビンに全速力で駆け込んだヴェルトは、扉をくぐったかどうかというくらいに、声を上げました。勢いあまって、たたらを踏みそうになりながらも、なんとか堪えながらです。突然の声に呼ばれ、ジャディスやカデンツァと何かしら談笑していたらしいアインザッツが、椅子に座ったまま振り向きます。部屋の入り口近くで、軽く肩を上下させているヴェルトの姿を認め、何事かと、ゆるりと思考を巡らせます。
「ヴェルト。どうした?」
 何か非常事態でも発生したのかと思いましたが、それならばモニカが艦内放送で知らせるはず。何もヴェルトが、こうも呼吸を荒くしてまで、全力疾走して伝えに来る手間は不必要です。ならば何故、と思ったところで、答えは向こうから懐へ飛び込んできました。
「あの、そのっ……さ、さっき、母さんと、何を話してらしたんですか!?」
 顔を真っ赤にして、けれどそのくせ表情は悲壮めいてさえいて、その上、うっすら目が潤んでいるようにも見えるものですから。本人には大変申し訳がないのですけれど、ただでさえ年若なヴェルトが、輪をかけて子供っぽく見えてしまいます。本人は真剣そのもの、でも周囲には微笑ましくおかしく見えて仕方のない光景でありました。
 勿論、アインザッツとて例外ではなく、思わず口の端が軽く上がってしまいそうになります。確かに、彼は先刻、ヴェルトの母ディアナと二人だけで会話をしました。そこで語られたものを、アインザッツは言いふらしたりしませんでしたし、他の隊員たちが訊ねたりもしませんでした。けれど、ヴェルトにしてみれば、実家の母親と上司の会話なわけです。どういった言葉が交わされたのか、気になってしようがないというのは、至極当たり前の感情です。訊いてみたい、けれど失礼かもしれない、でもでも気になる、ああだけど! という。悩みに悩んだ煩悶が、先の靴音の元凶だったようです。
 それを、覚悟を決めて一念発起、怒られるのを覚悟で訊ねに来たのでしょう。そういったヴェルトの思考過程が目に見えるようで、アインザッツはやや目を細めました。
「ああ、それは――」
 何処までを伝えよう、と取捨選択を考えながら、口を開きかけます。と。
「俺の学生時代の成績ですかっ!? た、確かに自慢できるような内容じゃありませんけど…あっ、もしかして、おやつのドーナツを母さんが作る側からつまみぐいした罰として防寒装備一切なしでキリル雪崖に置き去りにされた話とか。いや、それよりも対侵入者用として母さんが天井裏に設置してたシャトルトラップに引っかかっちゃって天窓から外にはじき出されたことかも……。あと、家中あちこちに母さんが仕込んだ隠し武器のうち、よりにもよってカタールの刃の部分に触っちゃって大怪我したり、おつかいさぼったお仕置きにヒル幽谷マルカート生息域正面突破時間制限単騎往復武器装備無しで放り出されたり、それから……………あれ?」
 林檎よりも赤い顔で、立て板に水とばかりに不安材料の数々を列挙していたヴェルトが、ふと周囲の異変に気付きました。アインザッツは口元に手を添えていますし、ジャディスは若干顔をひきつらせています。カデンツァに到っては、机に両肘をつき組んだ腕に面を伏せたまま、肩を小刻みに震わせています。しかし何より、ヴェルトを我に返らせたのは、部屋の中に漏れている、くすくすと押し殺された笑い声でした。
 ここで漸く、少年は失言に気が付きました。肌の裏でマグマが咆哮を上げて、頬が灼熱したように彼は思いました。
「ヴェルト、墓穴だよ」
「何やってんだお前は」
「ああああ」
 噛み殺しきれなかった笑いは、涙が出るほどのものだったらしく、顔を起こしたカデンツァがそっと目元を拭いながらやんわり後輩に指摘します。戦闘班に入って日も浅い、新人隊員を労わるようなその口調とは対照的に、副長の言葉は呆れたように放たれます。カデンツァほど笑いに身を任せていないのは、ヴェルトの熱心な墓穴の掘り方よりも、その発言内容にそこはかとない恐れを抱いているからやもしれません。にこやかな微笑のよく似合う手弱女めいた主婦が、家中にトラップやら何やらを張り巡らせているさまは、世間でそうそう見かけるものではありません。
 頬も、顔も、全てが熱くなってしまって。熱のため、そろそろ思考が停止してしまいかねません。ずんずん景気よく上昇を続ける体温を、ヴェルトが最後の気力を振り絞って押しとどめようとしますと。
「成る程。確かに、たいしたヤンチャ坊主だったのだな」
 傍目にも明らかなほど、くす、という笑みを口元に浮かべたアインザッツの言葉が、とどめとなりました。いそいそと自ら率先して掘削した墓穴に、自らダイブを敢行したような気持ちで、少年はその場にくずおれました。


 結局。この後、ヴェルトの燦然たる功績の数々について、その場の面々に口止めを懇願することにより、情報の拡散という事態は辛うじて防がれました。けれどもそうこうしているうちに、とうの隊長とディアナの会話についてはうやむやにされてしまい、その内容を少年が知ることはありませんでしたとさ。
 今日も第七中隊は平和です。
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