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とまり木 常盤木 ごゆるりと

ひねもすのたのた

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やっつめのお話の日づけは直視しない方向です


とあー。久し振りに習作百話いってみよー。
おはなしひゃっぺんけいかく、いつまでかかるやら……。


今回のお話は、二作を、二日連続であげないと、と思ったのです。
そのためいつも時間がかかってしまいました。
だからといって、前回から時間経ちすぎですね。反省です。
内容が内容だけにえらく難航してしまいました……。
けれど、どうにか仕上げられました。
だいたいサクラVのお陰です。いえほんと。
何せ今回のお話は恋なのですよ。
わたし恋とかかけないよ! と、頭を抱えていたのです。
そこへ新次郎さんとスターファイブがふんだんに恋をばら撒いて。
ご助力を賜りまして、どうにか完成へこぎつけました。
ありがとう紐育。ありがとう星組さん。
感謝をこめて明日はニューヨークスタイルのスコーン焼きます。

明日、もう一つアップして、ようやく十話。
目標の一割。ゴールが彼方すぎてあっぷあっぷです。
けれど、最初の一割。ごりごり、進めていきたいです。
……本当は、一日一話くらいで書けたら一番なのですけれど。
この遅筆どうしてくれましょう。

眠れぬ夜のお話。よろしければ、続きからどうぞ。


『爛漫前夜(百夜白夜)』

 もそもそと布団をかぶり直すこともなく、落ち着きない寝返りを打つこともない。桜子は、明かりを落とした部屋の中で、仰向けのまま整った呼吸を繰り返し、そう遠いとは思われない睡魔の来訪を待っていた。だからこそ、枕のすぐ側に、音と呼ぶにはささやかすぎる、吐息のような気配と共に転がり現れた存在へ、少し驚いた。
 瞼を下ろしていても、何がやってきたのかは簡単に分かる。自然と、肩肘の張らない親愛のこもった囁きが、夜にするりと零れ落ちた。
「意外。こんな夜にも、ぶーちゃんIIは来るのね」
「こんばんは」
「こんばんは。お久し振り」
 眠る体勢はあくまで崩さず、目も瞑ったまま、桜子は古い馴染みを迎え入れる。見えなくても、その姿は手に取るように分かる。幼い頃、どれだけ触れ、撫で、抱き締めたか数えきれないほどなのだから。それに彼の持つ、円くのんびりとした声は、昔とちっとも変わらない。ならばきっと、姿だって変わってはいないはずだと、欠片ほどの疑念もなくすんなり信じられた。
 短い手足に転がりやすい球状の体、ややひしゃげた円を描く輪郭の中心に鎮座するのは、見る者につい、おかしみを感じさせる愛嬌に満ちた鼻。ふわふわとした短い毛並みは、沢山の手を経て、ややすりきれているかもしれないけれど。真っ直ぐ、こちらの奥底まで覗きこんでくる黒い目に、変わりはないと断じることができた。
 眠れぬ夜の友人が、よりにもよってこんな夜に寄り添おうと、やってきた。そう思うと、桜子は何だか急におかしくなって、そしてむやみに楽しくなって、布団の下で静かに横たわっていた掌を僅かに握り締めた。穏やかさを取り戻していた鼓動が、静かに駆け出した。

 はしゃぎだす胸の声に押されて、桜子は一言、一言、重たげに漏らし始める。
「ねえ。ぶーちゃんII。わたし、明日が楽しみでならないのよ」
「うん」
「楽しみで眠れないなんて、遠足前の子供みたい、って。自分でも思うのだけれど」
「別に、いいんじゃないかなあ」
「よね」
 くすくすと小さな笑みを含ませて、ゆっくり寝返りを打つ。背筋を伸ばし、落ち着き払っていた寝姿から一変し、羽化に備えて支度を始めるさなぎのように背を丸めた。そして瞼を下ろしたまま、確実に顔の正面へぶーちゃんIIを捉えてから、唇を動かす。しんしんと静けさが降り積もる夜の底で、少女の表情は、たくらみを明かす悪戯っ子のそれに似ていた。
「明日。ふたりのおでかけなの」
「うん」
「初めてなのよ」
「うん」
「これまでは、四人だとか、六人だとか。男子と女子、同じ人数で、遊んでいたの」
「うん」
「けどね」
 薄い笑みを浮かべていた桜子が、更に口角を上げた。どこか、くすぐったそうに。
「わたし、あんまりお喋りが得意じゃないから。皆で遊ぶ、って言うよりも、楽しそうにはしゃぐ皆の聞き手に回るほうが、性に合ってた」
「放つ側だけじゃ、成り立たない。受ける側が、いなくちゃね」
「そう。わたしが積極的に話し手のほうへ、放つ側に立つなんて、ぶーちゃんIIが相手の時くらいよ」
「それは光栄な」
「ふふ。でね、あのひとも、聞き手属性の、ひとなの」
「へえ、お揃いだ」
「――うん」
 一瞬、声を途切れさせてから、桜子は布団の縁をそっと掴むと、口元を隠すように引き上げた。ぶーちゃんIIからは顔が半分隠れて見えにくくなるが、闇の中でも、穏やかに閉ざされた目元をはっきり確認することができた。
「皆がはしゃいでる後をついていこうとすると、いつも、あのひとと一緒になるの」「うん」
「ふたりで、てくてく歩くのよ」
「うん」
「言葉少なでね、会話なんてほとんどないの」
「うん」
「でも。ねえ、ぶーちゃんII」
 ぱちり、と暗闇の中で桜子が目を見開いた。布団を通しているというのに、その声はくぐもることなく、すとんと真っ直ぐぶーちゃんIIへ届く。
「言葉じゃなくても、放ったり、受けたり、できるでしょう?」
 真っ暗な視界に、円い旧友の姿はぼんやりと頼りなく浮かび上がるばかり。それでも、その頼りなさをいっそ、桜子は心強く思う。闇の中に少女だけの映写機が、明日会う、誰かさんの姿を浮かび上がらせる。

「歩く速度を合わせてくれるの」
「うん」
 使いこまれた大きなスニーカーが、ラウンドトゥの小さなバレエシューズと爪先を揃える。
「あんなに背が高いのに」
「うん」
 てんで長さの違うコンパスを、慎重に操作して。追い抜かないよう、置いてかないよう。
「ぶっきらぼうにそっぽ向いてるように見えるのに」
「うん」
 異なる歩幅できちんと並ぶ歩みに気が付き、驚いて顔を上げても、視線は明後日のほう。それでも丁寧な足の運びは、過たず桜子に寄り添う。ただ、何かを押し隠すように、眼球をきょどきょどと落ち着きなく動かす相手のさまを、少女は見逃さなかった。
「何も言わずに」
 寡黙なあのひとが僅かに見せた、言葉以外のものに、桜子は顔をほころばせたのだった。

「気遣いのできる男だね」
「ええ」
 胸の奥まで春のうららな香気で満たされるような幸福が、闇の中で全身をふくふくと包みこむ。桜子は満ち足りたまま、再び寝返りをうつと、最初の態勢と同じ仰向けに戻る。
「窓枠のところ……暗いけれど、ぶーちゃんIIなら見えるでしょう?」
 目を閉じたまま、指を差すことなく桜子が示すと、当たり前とばかり打てば響くような返事がやってくる。
「ああ、二つ引っかかってる、ハンガーのことかな。綺麗な色が水玉模様とよく合ってるし、スカートととも相性がよさそうだ」
 暗い部屋の中でも、月もなくか細い星明りだけな街の夜でも、ぶーちゃんIIは彩りも模様も的確に判別できるらしい。ワードローブと静かに言い争いを続けること数時間、激論の果てに選び抜いた服の、しかも一番気を配ったところを褒められて、そもそも思っていることを全てすんなり見抜いてくれて、桜子は口の端が上がってゆくのを止められなかった。嬉しくて、たまらない。つい、眠る直前だというのに、声を弾ませてしまう。
「そう。明日は、この組み合わせでいくの」
「胸元のゆるいリボンが主張しすぎてなくていいね」
「でも、あますぎない、かしら」
「そんなことないよ。ピンクとグレーは相性がいいし、ふんわり優しくて、ほのかな春らしい」
「まださむい、でしょ」
「すぐにあったかくなっちゃうよ」
「そう、か、な……」
 声音に、とろりと甘いものが含まれて、やがて沈黙が訪れる。けれど、それは単なる間に過ぎなかったらしく、秒針が盤を何周もしてから、桜子はようよう口を開いた。鼻の頭近くまで布団を引き上げて、横目で、そろりとぶーちゃんIIを見やる。布団から僅かにしか覗いていない頬が、ほんのり染まるは、名前と同じ、桜色。
「…………気合い、いれすぎて、ない?」
「大、丈、夫。」
 幸福な胸の奥、一つきりしつこく残り続けていた、眠れぬ夜の種。
「かわいいよ」
 最大の不安を遂にぽろりと落とすも、それを間髪入れずに受け止められ、桜子は幼い女の子のように陰りなく微笑んだ。かつて、ぶーちゃんIIと最もよく親しんでいた頃の、少女の顔だった。

 ほどなく聞こえてくる安心しきった寝息に耳を澄ましながら、もう一度ぶーちゃんIIは暗闇のハンガーを見上げる。夜の中で、温かな季節の訪れとスキップしながら一緒にやってくるような彩りをした渾身の服たちは、うっすらと光を宿して浮かび上がって見えた。
「良い春を」
 新月に浮かぶ、おぼろ月、と彼は小さく笑った。
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