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とまり木 常盤木 ごゆるりと

ひねもすのたのた

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道端に転がる凡百のひとつなりに


いけません。また、すこーんとさぼって。
や、その前にわたしはしなければならないことが…ですね。


ごめんなさい。先日の名古屋遠征、まだ感想書けてないのです。
書きたいですし、書くべきとは分かっているのですけれど。
あれだけのものをみせて頂いて。体感させて頂いて。
この期に及んで、己の矮小さを思い知ってしょげていたりしているのです。
比べることすら、おこがましいですのにね。なんて恥知らずな。
すっかり言葉を失って迷子のくせに駄文など書いて。
習作、というのはある種の免罪符のようにさえ思えてきました。
むきいぃ。

ですので。大変申し訳ないのですが。
名古屋プレススタート感想は、いましばらくお待ちください。
……しかし、自分が訪れて、そして去った翌日に。
同じ場所がああなってしまうとは、思いもしませんでした。






『輪郭凛々(百夜白夜)』


 幾度となく寝返りを打ち、低く唸るような声を上げ、それから諦めたように目を見開くと、青児は疲れたように溜め息をはいた。
(手ぇ、黒いんだ)
「うん」
 寝床から起こした左手を眼前に掲げ、わきわきと動かす。拳にしてみたり、開いてみたり、滑らかに指を折っていくかと思えば返す波のように元へ戻し、両面をあぶるのに似た仕草で引っ繰り返したりもする。この動作の間、ずっと少年の表情は浮かないものであり続けた。
 やがて、どれだけ観察し続けても事実が変わらないと気づいてか、大げさなくらい息をついてみせる。
(夜だってのにさ。真っ暗だってのにさ。おれの手は、こんなにくっきり、黒いんだ)
 傍らに転がる、まあるい友人へ見せびらかすように、ほら、と広げてみせた手を相手の頭上に移動させる。厚いカーテンをきっかり引かれた夜の子供部屋は、一筋の光も外から差しこまない。窓ガラスの向こうからやってくるのは、月とも星とも街灯ともつかない、うすぼんやりとした夜の気配だけだった。豆電球の一つも灯らない室内であるにも拘らず、青児の掌は夜から隔絶されて、一際鮮やかに浮かび上がって見せる。
 円い友――ぶーちゃんIIは、示されたものを黒い瞳でしげしげと眺めると、短く感想を伝えた。
「うん。黒い」
 友人からも太鼓判を貰うと、青児はこの夜三度目となる溜め息を、どこか芝居がかって落とした。そう答えられることを、どこか待ち望んでいたようだった。
(だろ?)
 再び左手を自身の眼前へ移動させると、蓮の葉にはじかれた水のように、夜からはじかれた夜よりも黒い掌と、にらめっこを開始する。知らず、眉間に皺が寄せられた。
(こんな遅い時間だよ。ふつー、誰でも眠くなる時間だよ。くさきとかってやつも、おれの家族もみぃんな寝てて、月も息してないみたいに静かだってのにさ。おれだけは起きてて、手がこんなに黒いんだ)
「うん」
(だから、もしかして、おれだけ眠れないのは、おれが真っ黒いからじゃないか?)
「へぇ」
(おれが真っ黒くて、おれが…わるいから、それで、ひとりだけ、寝られないんじゃあ)
「そんなに、きみは黒いと思うの」
 ここまで、思う通りの言葉だけを返してくれたぶーちゃんIIが、反論とも疑問ともつかない言葉を漏らす。その聞き捨てのならない内容に、青児はやや不満げに唇を尖らせる。うっすら黄色い輪郭を見せている友人へ向き合うため、ごろりと首を動かした。
「そりゃそうだろ。見りゃ分かるさ。おれの手、こぉんなに黒くって」
「なら。雨戸を閉めてごらん」
「は?」
 自信満々に、もう一度黒い掌を見せびらかそうと動かしかけた時、思わぬ提案がもたらされた。まるっこい友人の真意が分からず、青児が夜の中で目をぱちくりすると、ちら、とぶーちゃんIIが横目で視線を寄越してきた。
「雨戸を閉めたらいいと思うよ」
 円い声で、しかし頑として言い放つ。その、よく分からない説得力を持つ言葉にうながされ、青児は不承不承ながら床を出た。暑すぎず寒すぎない、過ごしやすい夜ならば、抜け出すのも容易い。そもそも、ちっとも眠れないベッドに、たいして未練があるわけでもない。謎の提案を頭の中で繰り返し、首を傾げながらも、少年はカーテンの隙間から侵入すると窓を開け、そろそろと雨戸を閉め始めた。
 青児の部屋では、滅多に雨戸が閉じられることがない。金属製の、重たい立派な雨戸ではあるけれど、利用されるのはせいぜい嵐の時くらいだった。そのため、錆びついてやしないかと、雨戸を引く青児の手つきが慎重になる。先程、本人が口にしたように、今は草木も眠る頃。そんな時刻に、錆が軋む盛大な音を立てるわけにはいかないと、気を遣う。
 が。それも杞憂で。
 青児が拍子抜けするほど、雨戸はするすると桟を滑り、窓を覆ってゆく。ほっとしたのか、それとも何やら珍しいことをしている、というのに気持ちがはしゃいできたのか、思わず相好を崩した。そうして機嫌よく、もう一ヶ所の窓も雨戸で蓋をしようとする。その際、何気なく外に目をやると、部屋のごく近くで街灯が煌々と灯っていることに初めて気づき、ちょっと目を見張るも、やがて静かに雨戸を閉めた。
 途端。

「!?」
 両眼を見開いた。でも何も見えない。思わず手で窓枠を探ってみた。でも何も見えない。慌てて自分の顔へ、ぺたぺたと触れて、そこにあることを確認してみた。けれど、何も、何一つ、”見え”ない。あるのは、ただ一面の、むらなくねったりと塗りこめられた、黒一色だけだった。
(え。ちょ。え?)
 おろおろと首を回してみても、景色は濃淡さえ変えそうになく、ひたすらに黒い。瞼を上げてみても、下ろしてみても、違いが一切見当たらない。けれど青児は驚きながらも取り乱すことなく、必死で自室のさまを脳内に描くと、爪先と指先で行く手を探りながら、じりじりとベッドまでにじり寄る。やがて触れた、自分の温もりを保ったままの柔らかい布団に、心底安堵しながらもぐりこんだ。その折、危うくぶーちゃんIIを自分の下へシーツ代わりに敷きかけたが、相手は声一つ立てなかった。
「ちょ、すげえ! これすげえ! 何も見えねえよ、ぶーちゃんII!」
 押し潰しかけたお陰で、相手の居場所が把握できた。友人に向かい、音量は控えながらも興奮は抑えきれない様子で、青児は目を輝かせる。ただその目は見えないし、そもそも目自体、眼球に墨でも流しこまれたようで使い物になっていないが。
「うん」
「今もさ、目の前にぶーちゃんIIいるのに、おれ全っ然分かんねえし。自分の手がそこにあるかも、よく分かんねえもん」
「うん」
「すげえな、夜って、ほんとはこんななんだ」
「うん。夜の闇は、こんなのだよ」
「あれかな、さっき分かったんだけど、窓のすっげえ近くに街灯があるんだ。目ぇちかちかするくらいまぶしいやつ。あんなのがいるから、おれの部屋ん中、明るかったのかも」
「かな」
「夜すげえ。おれ、こんな真っ暗な、真っ黒な夜知らなかった。すげえ!」
「そう。みんな黒いんだ」
 興奮冷めやらぬ青児を妨げないように、ぶーちゃんIIはそっと囁く。
「だから、きみだけが黒いんじゃないよ」
 厳かとさえ思える声音で告げられた言葉に、青児が咄嗟に言葉を失うと、本当の夜の中、細められた友人の目が見えたような気がした。何か言おうとして、口を開きかけて、けれど喉と胸が不思議と熱くて、声にならない。そしてうっかり泣きたくなって、半開きの口がへの字に歪んで、たまらず青児は額をぶーちゃんIIへ押しつけた。ぐりぐり、力をこめて、押しつけた。
「おやすみ」
 若干、体を潰されながらも不平一つ漏らさず、円い彼はこれだけを口にした。自身の短い毛に、じんわりしみこむものがあっても素知らぬふりで、ただ誰かの喉の奥から細く漏れた「おやすみ」という返事のみを、楕円形の体のまま確かに受け取った。
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