とまり木 常盤木 ごゆるりと
ひねもすのたのた
ぐらゆら。ぐるうね?
名古屋プレスタから、はや一週間。
なのに、いまだ感想完走してないですね。さぼり魔めー。
主なところは書き終えたとはいえ。です。
残るは要らん蛇足だけと、分かってはいるのですけれど。
こないだの後半戦のみだと、オチがないのです。
オチがないなんて、オチがないなんてそんな……。
そわそわします。酷くそわそわします。関西人の本能ぽいものです。
早くオチをつけなければと思うのです。
なのにこのひと、また習作書いてたりするのです。
はよ感想終わらせなさいな……。
そんなわけで。
今夜もオチはつかないまま、続きにはお話百篇計画の三つ目です。
因みに、どうでもいいことなのですが、タイトルに一貫性はありません。
ただ、人物の名前に『夜っぽい色』を入れる、という名前縛りはしています。
……まだ文章が揺らいでるなあ……。
『バーバぶー(百夜白夜)』
枕へ頭をねじこみそうに押しつけながら、自分の名前と同じ色をした掛布団を、小藤はひきつるように握り締める。眉は八の字に情けなく下がっているが、寝床へ横向きに伏した今では、眼前に転がる円い黄色のふわふわした友人から見ると、くの字に見えるのやもしれない。
(みみなりがするの)
「うん」
弱り果てた様子で、少女は告白する。小藤の掛布団にほんの少しばかりお邪魔している、黄色いこぶた、ぶーちゃんIIは、黒いビーズの目を瞬きもしないで相槌を打つ。どこからが腹部でどのあたりが首なのか、ほぼ球形のボディラインを誇るぶーちゃんIIからは一切読み取ることはできない。けれど、同じ温もりをぶーちゃんIIが共有している、というだけで、小藤は訥々とながらも自分の言葉で話すことができた。
小藤は耳を覆うように、なおも頭を枕へぐりぐりと埋める。
(離れないの)
「うん」
(夜の間、ずっと聞こえて。ちっともねむれないの)
「どんな音なのかな」
(えっとね。ぴぃーん、みたいな、りぃーん、みたいな。ううん、ぃーん…っていうのが、一番近いかな。そんなみみなりが、ずうっと、するの)
「うん」
話をしている間も、耳鳴りは決して小藤を離そうとしない。耳元を手で払ったり、いっそのこと穴を指で塞いだりということも、幾度となくしてきた。それでも、いつもその音は揺らぎもせず、張りつめたようにただ鳴り続ける。広すぎる夜の静けさにおいて、それはうるさいにも余りある騒音だった。
(お母さんに言っても、信じてもらえないし。お父さんに言おうにも、なかなかおうちにいないし。お姉ちゃんは―…)
不意に、元々たいして強くもなかった小藤の声が、更に弱まる。夜の中で、みるみる花がしおれるように、消え入ってしまう。けれど、少女の前では、相談を持ちかけた相手の名前を挙げてゆくたび、丁寧に頷き返してくれた、ふかふかした友人が静かに目を見開いていた。
小藤はくの字眉をそのままに、ぐっと口をへの字に曲げてから、力をこめて開く。
「お姉ちゃんは、”みみなりがするのは、おばけがいるから”って、言うし」
強張る手で握り締めた掛布団に半ば隠した口から、震える声が絞り出される。おばけ本人に聞かれてはいけないと、ぶーちゃんIIの探すことも難しい小作りな耳元へ向けて、また囁く。
「だから、みみなりでねむれないのは、おばけがずっといるから。どっさりのおばけが、隠れているから。見えないのに。音はするもの。わたし、わたし、どうしたら―…」
不安定に揺らぎ始めた声に、とうとう涙の気配がまとわりつき始める。きちんと言葉にして説明した途端、昼間にさんざ声色を使っておどかしてきた、姉のことが思い出されて、喉の奥がごつごつと痛さと熱さを伴ってくる。短い呼吸が繰り返され、今にもしゃくりあげかねないほど小藤が取り乱しかけたところで、ころ、とぶーちゃんIIは僅かに転がる。どうやら、小首を傾げた、らしい。
「僕も、おばけなのかなあ」
心底不思議そうにこう呟くと、遂に小藤の眉は、クレッシェンドになってしまった。八の字で見たとしても、末広がりには程遠い、この上なくやせ細った姿だった。
「うーん、うーん…おばけにはいて欲しくなくて、でもぶーちゃんIIはいてくれなきゃいけなくて…でもみみなりは嫌で……でもぶーちゃんIIは………」
投げかけられた究極の難題に、温かな布団の中で頭を抱えた小藤は、うんうん唸りながら答えを求めて果てしない追いかけっこを続ける。やがて苦悶に満ちた唸りも、徐々に弱まり、そのうち心地よさげな寝息へと変化してゆく。ただし、まだどこか厳めしく下げられたままの眉に、ぶーちゃんIIはちょっとばかりの申し訳なさをおぼえた。
せめてもの埋め合わせにと、ぶーちゃんIIは、ころ、と転がり、時折難しげな寝言を漏らす小藤の夢に寄り添う。耳鳴りが消えておばけが去っても、ぶーちゃんIIはまだ、部屋に残り続けていた。
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