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とまり木 常盤木 ごゆるりと

ひねもすのたのた

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日へと指を伸ばす月の姫君


あめあめ。ざあざあを通り越して、どざどざ。
久し振りに、市内のあちこちへ避難勧告が出ています。


そんな台風直撃中なときに、わたしはのんきに日記など。
おふろあがりでほこほこしつつ、水分補給も満喫しました。
これも不謹慎だと責められるのでしょうかね。
ああ、でも、きつい雨風にこころおどるのはサガのようなもの。
それに……角度を変えてうねりながら吹きつけてくる雨の中。
傘をさして帰宅しておりましたら、少し、体が楽になったのですよ。
最近、偏頭痛やら目眩やら熱っぽさなどがあったのですけれど。
台風の中におりましたら、それが不思議とやわらいだのです。
なぜでしょうね。
ただ、なんとなくですが。
雨や風の精気が、肌を取り巻くようで、染み渡るのではなくて。
それでもゆっくりと外から内へ忍び寄るような気がしました。
あくまで、ほんとに、なんとなくのお話です。


さーそして、忘れないうちに本の感想いってみましょう。
素敵な本へ、随分ご無沙汰な大当たり。
グージの、『まぼろしの白馬』。
わたしが書きたい感想は、巻末の解説に集約されていました。
なかがわりえこさんの筆曰く。
『これほど美しくて楽しくて不思議で謎めいていて、ちょっと気味が悪くて恐ろしく、誇りと勇気と愛にあふれ、気高くもかわいらしい物語を読んだことがあったであろうか』
こうも完璧に表されてしまうと、最早わたしの出番はありません。
本当に、一字一句違わず同意したくなります。
まさにその通り!と快哉をあげたくなるのです。
ですので、以下はやたらと長い蛇足です。

場所はイギリス、時は日本でいう幕末近く。
両親を失った十三歳の女の子が、家庭教師の先生と共に馬車に揺られます。
『ははあ、展開が読めた』とお思いの方は、たぶんその通りです。
彼女は、会ったこともない、遠い親戚のお家へ引き取られるのです。
喪に服した霧の夜道、冷えた月明かり。
不安に満ちたまま、辿り着いた先で始まる生活は――

銀色の田園に鎮座する屋敷。そびえる塔。最上階にある彼女の部屋。
入口は狭く、ほっそりとした十三歳の女の子にしか入ることができないほど。
むしろ『十三歳の女の子のためにつくられた塔の部屋』。
何もかもが豪華で、それでいて品が良く、まさにお姫様待遇。
けれど彼女はやがて、屋敷とその領地である村の、秘密を知って。
ひょろっとした頼りないみなしごだった、彼女が。
やがてその待遇に相応しい、度胸と知恵と機転と優しさを存分に発揮して。
名実ともに、文句のつけようのない、見事なお姫様と化してゆきます。

と、まあ。だらだらと書きましたけれど。こんなのは実にどうでも良いです。
とにかく、このお話の肝要なところは、そのほれぼれするような美しさです。
別に豪奢な語彙をちりばめているわけではありません。
あくまで涼やか、落ち着き払った言葉で、それでも美しい。
このへん、同じイギリスの作家さんであるアトリーにも通じるような。
訳者あとがきで『センティメンタルだという批評もうけました』と、あります。
詩的表現のためでしょうから、その指摘も確かにありですけれど。
それこそが、この作者さんの持ち味だとわたしは思いました。
まあ、ひとを選ぶということでしょう。わたしはどんぴしゃでしたよ!
あとこの作者さんは、心理描写…というか、心理洞察が秀逸です。
感心するほどこまやかで、配慮がゆきとどいています。
ほんの、ちょっとしたところまで。しかもわざとらしさがない。
それは情景描写などにも及んでいます。
自然は勿論、室内の装飾、服の衣装、小物のセンスも隙がありません。
とにもかくにも、すべてがかわいい。

主人公の彼女も素晴らしいのですよ。
幼さゆえの知りたがりは当然のことで、そうでないと話が進みません。
しかしそこは、きちんと淑女の教育を受けてきているだけありまして。
本物を見抜く力を備えた令嬢として、距離を心得ています。
ああ、ここからはだめだな、と判断すると無理に踏み入ろうとはしません。
好機と距離をはかる間、自分自身であれこれ考察してみて。
ここまでは、と許された範囲で、全力で行動する。
どかどかとやかましく踏み荒らす無神経さがなく、ずっと好感が持てました。
そして芯は強く、肝も据わっていて。
賊を前にしても怯むことなく、凛と、領主の家系として受けて立ちます。
ページを繰るたび、ここまで安心して胸躍らせられたのは久方振りです。
ああ。本当に楽しかった。

塔の姫君におつきはつきもの。
犬に、うさぎに、猫に馬。そして『ちょっと変わったおおきな犬』。
これらの仲間たちと心を一つに、秘密の友の助けも借りて。
姫君が、謎と伝説を優しい指先で丁寧にほどいてゆく。
しつこいですが、こうも耽溺して、堪能できたお話の、なんて久しいこと。
うんとこさ、楽しませて頂きました。
アトリーがお好きなら、おすすめです。

清らかに雪がれるようで、読後の快さに、胸がとっぷり満たされます。
最初も途中も最後まで、心地よさが途切れることはありませんでした。
すごいなあ……。
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