とまり木 常盤木 ごゆるりと
ひねもすのたのた
こんにちは、はじめまして
ようやく、あの子に会えました。
ぷくぷくの。ぴかぴかの。まっさらのひと。
家族の中で、最後に会ったのはわたしでした。
さんざに写真を見せられていたので、稲妻のような衝撃はありません。
ただ不思議と、妙に親しい気分がしました。
恐らく、十数年後のあの子にむけての、日記の所為でしょう。
ええ、紫式部気取りでつけている、うまれてくる子へいつか贈る日記。
最初は状況説明やら、母親の描写なんかしたためていたのですが。
ふと気がつくと、普通にあの子への語りかけ口調になっていました。
ですので。日記の中で。
一方的なくせ、相手のきちんといるお喋りをずっと繰り広げていたため。
初めて会ったというのに、よそよそしい感じが一切ありませんでした。
おかしなものです。
あ、因みに。日記の一部はこんな内容です。
まだ、あの子がおなかの中にいて、家族でスイカを食べていた日のこと。
『おやつにスイカたべたら反応してたよ。(中略)今日初めて!スイカに反応した!!コレはスイカをこの世の至宝、人類の叡智、夏の最終兵器と崇めるわたしへの同意とみなすわ。そうよなそうよな、スイカはすばらしいわな。きみとは話が合うと確信したわ』
ああなんかもうこれだめですね。
で。あの子。
うまれる前から、『触らせてね』と、姉には許可を貰っていました。
やっと触れられる。
どんな風かしら?と思いつつ、けれど考えこみすぎることもなく。
何気ない動きで、人差し指を頬に、触れさせました。
咄嗟に目を見張りました。
色んなことを想像していました。
けれど、あまりに未知のことに、想像することも難しく。
ただ単純に、やわらかいのだろうなあ、とは思ったのですけれど。
何。あれは。
この世のものとは思えない、やわらかさでした。
ありえないものに触れた気がして。理解の外にあるものに触れた気がして。
どう定義づけられるのか描写できるのか必死に探ろうとしてしまいました。
何。これは。何?
伝えようかなあと思っていた言葉など、すっかりどこかへ行ってしまって。
代わりに、色んな言葉が、がむしゃらなほど猛然と脳裏を巡りました。
その中で、一番その時の気持ちに近いのは、とあるエッセイの言葉。
若干うろおぼえですけれど、こんなの。赤ちゃんを指して。
『ぴかぴかのひと』、『まっさらのひと』と、表していました。
ああまさにその通り。
ぴかぴかなのです。まっさらなのです。この世のものとはおもわれない。
ぷくぷくで、ぴかぴかで、まっさらな。
やっと理解できました。
そして理解した後も、一心不乱にほっぺをつつきまくっていたのは秘密。
(たぶん)一時間ほど。
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