とまり木 常盤木 ごゆるりと
ひねもすのたのた
『宵闇ミルクホールで会いましょう』
朝からスパロボアニメのOP見てから出て行ったのですが。
お陰で一日中脳内でかげやまさんの叫びが絶えませんでした。
離れません。ほんと。
あれですね、きっと、スパロボは熱くなければいけない義務でもあるのでしょう。
もしくは、熱くなければあたまがおかしくなってしぬ的な。
色々と衝撃だったので、後日こそりと短く感想でも書いてみましょう。
ほんとやるきのない、短いのを。
もえぎさんのスパロボ知識はムゲフロが全てです。
無茶です。
まあそれは後日に回すとしまして。
ちゃっちゃと、あげるものだけあげておきましょう。
モナドなお話もひとつ書けましたー。
今回はやっと(多少)短くなりました!
そして念願の大きいメンバーです!さよなら幼少期捏造。
ただその代わり、話はED後となっております。
まあたいしたネタバレとかでもないのでしょうけれど……。
とにかく、ED後が舞台ですので、まだの方はお気をつけください。
前のお話を書いた後、ふうっと思いついただけのこと。
概要をまとめれば二行で終わりそうなもの。
これくらい一時間で書けよ!と思いましたが無理でした。
どうしていちいち、色んなものが延びてしまうのでしょう……。
まあ今回に関して言えば『いやしんぼだから』なのですが。
ってあれこれ別に今回だけじゃなく今までもそうでしたっけあれ?
こほん。まあこれで、次こそ本編時間軸でシュルクとメリアです!
『四人でしてたら、可愛いな』
そう思っただけのこと。
『宵闇ミルクホールで会いましょう』
「そういえば。私、小さい頃、連携って四人でするものだと思ってたわ」
新たな街の建設も軌道に乗り、骸から去った人々が、再び平穏な日々を享受し始めた頃。のんびりお喋りを楽しむ余裕も生まれ、その日も仲間たちと夕食後にお茶のテーブルを囲んでいると、思い出したようにフィオルンがぽつりと呟いた。そう口にする間も、温めたアルマのミルクにスキートの甘露蜜を落とし、匙でくるくると掻き混ぜるのは忘れない。
「あー、俺も俺も」
「僕も。スクールで習った時も、最初は慣れなかったなあ」
「でしょう?」
フィオルンの発言に、同じく手にマグカップを持ったラインとシュルクが同調する。やっとアルマの放牧も一段落がつき、供給が安定し始めた所為か、このところは誰もがすっかりミルク党だった。懐かしげに話へ花を咲かせる旧コロニー9組に、カルナはへえと軽く目を見開き、白い水面にファイアペッパーのパウダーを撒く手を休めた。
「意外ね。あなたたちはそれこそ、小さい頃から側にダンバンっていう良いお手本がいたでしょうに。連携の基本は三人、って防衛隊の定石だから、教えられてたとばかり」
「うむ。皇都でもそれは変わらぬ。衛士の訓練も、そう行われていたはずだ」
「ノポンもそうも! メリアちゃんたちとお揃いも~」
賑やかしく同意してくるリキを、メリアは薄く微笑みながらよしよしと撫でてやる。そうして、揃って仲良くアメシストレモンの皮を一欠けずつカップに削り入れる勇者と姫君を、ダンバンは目を細めて眺めていた。そんな英雄の手元は、自分のカップに甘いものを入れられまいと口をしっかり塞ぐことに当てられおり、完全に防備が固められ隙がない。シナモンスティックを唯一の武器のように構えているダンバンのさまに、カルナは口の端をくすりとさせるも、敢えてそこを指摘してやろうなどという意地悪心は起こさなかった。くるりとフィオルンへ向き直ると、話の詳細を求めて素直に問いかける。
「何か理由でもあるの、フィオルン?」
「うーん…理由、ってほどのものでも、ないんだけどね」
「ありゃ単にクセだろ」
「そうだね。ずっと、四人でやってきたから」
「あれに関しては、俺も訂正しようと思わなかったしな」
「だって四人のほうが便利なんだもん!」
幼馴染組の遣り取りへ英雄も参加すると、身内でしか分からない会話で、わいわいとまた盛り上がりかける。そこへ、だからどういうことなのだ、と改めてメリアから先を促されると、やっとフィオルンが説明のため口を開いた。
それはむかしむかしの。イノシシ兄妹の食卓へ、いつもの二人も参加して、見慣れた四人の食事が終わった後。揃って全員でごちそうさまをすると、始まるのは勿論後片づけ。当然、誰か一人に押しつけることもなく、協力し合って、卓も台所も綺麗にする。因みにここへディクソンが加わっていた場合は、ちっとも手伝わない上食後の一服までし始めるので、フィオルンに外へ追い出されるのが常だったけれど、今回はそこまで言おうとはしなかった。
片づけにも、それぞれに得手不得手がある。長年の経験により、それらはお互いよく把握している。なので。使用済みの食器を運び終えると、全員が所定の位置につき、足元に椅子を完備し、流しの前に陣取った小さいフィオルンから号令がかかる。
「一気に決めましょ!」
「うん、分かった!」
「分かってる!」
「任せろ!」
フィオルンが食器を洗って雪ぐと、すぐに隣で待ち構えている、同じく椅子を足場にしたシュルクが受け取り、布巾で拭う。綺麗になった食器は、そこから更に運搬係のラインにお願いされ、棚の前に立っているダンバンに頼んできちんと元の場所へおさめて貰う。どの役割も大切であったけれど、特に最後のダンバンが重要だった。若き英雄の役目は、他の誰にも代わることができず、幼いラインがどれだけ望んでも無理なことだった。たとえ、家の中にある最も背の高い椅子を用いたって、大半の棚に指先も届かないのでは、仕方がない。どんなに高い位置にある棚だろうと、ダンバンに任せれば心配なく片づけて貰えた。
幾度となく繰り返され、各々の呼吸を飲みこみ、体にしみこんだ動作は全く渋滞のない見事な流れだった。この連携により、どれだけ大量の汚れた食器が山積みにされようと、フィオルンに恐れるものはなかった。『消炭のナベゾコ』やら、『肉汁のフライパン』などといった名うてのユニークモンスターが立ちはだかろうと、挑む彼女は決して一人ではなかったのだから。
いつでも。四人。力を合わせれば、倒せない油汚れなどないと、幼い彼女は信じきっていた。そしてそれは幼馴染たちも同じで、幼い三人はもう頭からすっかり、『連携は四人でするもの』と思いこんでいた。
「でもシュルク、拭くの遅い時があったろ。待たされる俺としちゃ、あれすっげえイライラするんだよなー」
「だって、全部綺麗にしなきゃいけないじゃないか」
「シュルクは几帳面だから仕方ないの! ラインがあんまり急かすから、一度シュルクと役割交代した時のこと、忘れたとは言わせないわよ」
「? そんなのあったっけ」
「ライン。フィオルンお気に入りの食器、軒並み落として割っちゃったろ」
「やっぱり忘れてる! 信じられない、私の青い小花の散ったお皿が全滅したのに!」
「え。あー…いや、それは」
「ラーイーン…」
「……分かったわ。一ヶ月、ラインはおやつ抜きね」
「おいおいおい!?」
「フィオルン! ラインのぶんの余ったおやつ、リキのうちに分けても!」
思い出話で盛り上がるうち、すっかり膨れてそっぽを向いてしまったフィオルンによりもたらされた危機に、ラインは反射的に腰を浮かす。しかし勇者はこの好機を見逃さず、一か月分のおやつ確保へすぐさま名乗りを上げた。まさかの競争者の登場に、明日のおやつのためにも、ラインは真っ向から受けて立った。
やがて。予想できたことではあったけれど、もう話の流れもなにもかもうやむやのまま、ラインとリキの平和な戦いが展開される。おやつのため必死に慣れない舌戦を繰り広げるラインの姿に、段々とちょっぴり気の毒になってきたか、シュルクは手にしたタジルブルーベリーを幾粒か、自分のカップだけでなくラインのほうにも入れてやる。たぽん、と王冠を生み出して落ちたブルーベリーを匙でぐりぐり潰すと、白い水面が緩やかに色づく。とろける甘さがミルクでほどよく薄められ、爽やかな芳香がカップの内から溢れ出した。
そうして、二人がなおもわあわあとやかましく言い合っているのを見ているうちに、とうとうフィオルンもくすりと笑ってしまう。膨れっ面など、どこか彼方に消え去ってしまったのを見て、シュルクとカルナも柔らかく笑みを浮かべた。三人で顔を合わせ、視線だけで笑いあう。けれど、フィオルンの雪解けに、とうのラインはちっとも気づかずにいた。
そんな、しっちゃかめっちゃかな遣り取りをしていたり、くすくすと内緒じみて笑み交わしたりしている仲間たちを、英雄はのんびりと観戦していたけれど。ふいに、くん、と卓の下から袖を引っ張られる気がして、そちらのほうに目をやると、ややうつむいたメリアが小さく、ダンバン、と呼んだ。
「うん?」
幼い子へ問うてやるように声を向けると、メリアはそろそろと上目遣いになる。
「その……もっと、そなたたちの幼い頃の話を、聞かせては貰えぬか?」
自分の知らない家族の形や、兄妹の姿が、不思議で、けれど気になって。知りたくて知りたくてたまらないけれど、おおっぴらにその感情を明かすことに、まだあまりメリアは慣れていない。それでも言いづらさやためらいは、口調に含まれてはいないとダンバンは読み取った。ただあるのは、ほんの少々の照れくささと、揺るぎない信頼だと判断する。
不器用な年上の少女の物言いに、英雄は僅かに目元を和らげると小声で快諾してみせた。メリアの表情が、あくまで静かではあったけれど、輝いた。
なおも賑やかな面々をよそに、ダンバンは低い声で語りだす。メリアはそれへ熱心に聞き入る。たまに暖炉で薪が爆ぜる。自分の幼い頃が勝手に語られているのに気づいたフィオルンが慌てて割って入る。そのさまを笑って見ていたシュルクも、話が自身へ及ぶと途端に焦り出す。子育て話なら負けないも! とリキが唐突に参戦する。火にかけられていたほうろうのポットがしゅんしゅん言う。カルナが席を立つ。幼馴染二人の動揺っぷりを、ラインは腕組みしながらにまにまと眺める。ポットに水を足して戻ってくると、英雄の昔語りはとうとうラインにまで達し、カルナはそのまま身を乗り出す。
幼馴染三人は話を遮ろうとし、他の連中は更に求めようとし。じわじわと色を濃くしてゆく藍色の闇もそっちのけ、ミルクの香りに縁取られた夜のお茶会は、ちっとも終わりそうにない。
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