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とまり木 常盤木 ごゆるりと

ひねもすのたのた

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あけましておめでとうございます


一ヶ月近く日記を書けていないことに驚愕。
なんなの…どういうことなの……しかも新年初日記がこれ……。


2015年になった瞬間は寝落ちていたわたしにはある意味相応しい?
ええもう新年早々グダグダも良いところです。
ともあれ。あけましておめでとうございます。
拙いお話ばかりのサイトですが、本年もよろしくお願いします。

……とはいえ、更新らしい更新していませんね。
日記にぽつぽつあげたり、ぴくしぶさんのお世話になったりとか。
がっつりお家もいじらなければ、とも思うのですけれど。
今は最優先が創作百本勝負なものですから。
あ、現在走行中は四十四個目です。
昨日には、新年一つ目ができあがりましたー!
今月中には五十台に入りたいのです。
それを目論んだ上で、年末は頑張りました……。
なにせほら、毎年のことですが、来月が二月ですから。
ゼノお誕生月なわけですから。
加えて、ここ数年はジョジョ1部ご夫妻の結婚記念日でもあります。
まとめてお祝いしなければ! なので、準備が必要なのです。
きちんと計画を立てないといけません。
多分、今年は忙しくなってしまいそうなので。

そんなこんなの、落ち着きのないサイトではございますが。
お付きあい頂けますと、嬉しいです。
そして、えっらい間があきましたが、続きに今年初の習作百話。
二十四個目でございます。
モデル……というか、参考は、兄です。









『値千金オウンゴールに祝杯を』

「……ふ、う? お、ぅお、おおぉお?」
 大きな手の平がきつく握り締められ、できあがった拳の内側にじわりと汗が滲む。右手に緩く掴まれていたはずのビール缶が、小さく軋む音を立てた。座椅子にのんびり身を預けていた青年は、己の発するおかしな吐息が不自然な音程を伴って漏れ出るに従い、前のめりになってゆく。見開かれた両眼は瞬きも忘れて、目の前の光景に釘づけだった。
 そして。
「うぅおおおおおぉぁああああぁぁぁ!!?」
 長い足から蹴り放たれたボールが美しい軌道を描いて芝を切り裂き、目にも鮮やかに白いネットを揺らすや、スピーカーから響く歓喜の絶叫に合わせて青年も雄叫びを響かせた。力強く振り上げられた左手に対し、右手は膝の上に落ち着き払って鎮座していた。ただし、その内にある缶は表面を明らかにへこませていた。
 そんな時に青年の側へ転がり現れた円い彼は、確かに球形はしているものの、運動競技とは縁遠い存在だった。けれど青年はその程度の誤差などお構いなしで、程よく酒精の回った血色の良い顔に満面の笑みを浮かべた。
「え、何、ぶーちゃんIIもサッカー観んの?」
 普段の昼間、素面の頃に対面したのなら、青年はこの出会いをなかなか受け止めきれず咄嗟に凍りついたやもしれない。けれど今は、体内を巡るほの温かな、大人だけが使える秘密の薬が青年を浸している。だから十数年振りに顔を合わせた旧友に対し、特に戸惑いや驚愕を抱くこともなく、ただ興奮の熱に快く浮かされたまま親しく話しかける。
「やあ、良い塩梅だね」
「おかげさんで」
 ほろ酔いの青年は、こぶたの挨拶に右手の缶を献杯して応じるや、そのまま一気に中身を干してしまう。そうして更にご機嫌と顔の赤さが増してゆく青年は、こぶたの出現により昂揚感すらそこへ加えてしまったらしく、爛々と輝く瞳で旧い友人に迫ると、軽やかに舌を回してゆく。
「な? 観た今の? やべぇ超かっけえ何か俺もう震えたよありえねえやっぱサッカーはドイツだよなぁいやイングランドだって勿論好きだけど! あ、観てない? まじで? じゃあ観る? うん見せるからちょい待って」
 ぶーちゃんIIが返事をする前どころか、何らかの反応を見せる前から、青年は一人で語り、弁明し、問い、納得し、行動に移してしまう。その間に見せる表情も、歓喜から感嘆へ流れて更に煩悶へ発展し、やがて疑問に芽吹いた無償の誠意へと目まぐるしく変化してゆく。世紀の大名優も真っ青の千変万化だった。
 青年はそそくさと缶を机に置くと傍らから板状の端末を取り出して、確実に車の運転はできない状態にも拘らず、慣れた指使いで迷いなく画面を操作してゆく。指先に導かれてすぐさま現れるのは、つい数分前に全世界へ配信されたばかりの光景から、決定的瞬間を抜き出した映像だった。てきぱきと再生ボタンを押せば、先程の熱狂が歓呼と共に寸分違わず溢れ出し、青年は安心したように全身で座椅子へ凭れかかる。
 再び瞳に映る輝かしい光景に、青年は陶然と表情を緩めた。ふにゃりとしたそのさまは、どこか少年のようだった。

 操作のためではなく、慈しむように、端末の表面へ指を滑らせる。
「凄いだろ…こうやって画面の外、ずっと後ろから走ってきてさ……間をかいくぐって、ほら完璧なパスだ。位置を完璧に把握して、射抜くみたいに蹴って…すげーだろ、こんなに走って…誰よりも走ってんだぜ、彼……」
 緊張感のない猫のように体を伸ばした青年が、胸の辺りに端末を立てて画面を眺めていると、並んで観戦するためにぶーちゃんIIが転がってくる。そんな彼の座り心地が良くなるよう、曲げた肘の角度を調節して特等席を作ってやりながら、耳を傾ける聴衆に向かい青年は熱心に語る。けれど途中からそれは、独りごちるような色を濃くしてゆく。
「歌が聴こえるだろ。彼のための、彼だけの歌だ。ドイツ語だから意味は分かんないけどさ、こんなでっかいスタジアムに満員の観客が…彼を讃えて大合唱するんだぜ、誰が合図したわけでもないのに……英雄だよ。彼は」
 限界まで倒された座椅子に身を預け、青年はだらりと右手を投げ出した。こぶたを支える左腕はそのまま、指先だけから力を抜いたらしく、端末が軽い音を立てて青年の腹に倒れた。
「……ほんとは、こんなとこじゃなく、バーで夜通し観戦したかった」
 ぽつり、と。目を細く眇め、熱と氷が同居したような眼差しで複雑そうに部屋を睥睨する。起居に必要な家具だけでなく、あちらこちらに据えられた調度の趣味も良く、青年が自身の審美眼をもって吟味に吟味を重ねて選び抜いた品々で飾られた室内は、青年ご自慢のお城に違いなかった。ただ男性の一人暮らしにしては綺麗に整頓されており、むしろ整頓されすぎていて、どこか生活感に乏しい。現在そこで多少なりとも人間の温もりを感じ取れるのは、机の上へ乱雑に散らばるひしゃげたビール缶の群れと、袋に入ったまま無造作に食い荒らされた肴の残骸くらいのものだった。
 青々とした芝生とは程遠い世界で、テレビの大画面だけが魔法の窓じみて、英雄の輝かしい栄光溢れる舞台と繋がっていた。

「ただの飲み屋じゃなく、スポーツバーな。あそこなら勝手の分かってる知り合いも多いし、試合の行方に一喜一憂しながら、時間も気にしないで朝まで元気に大騒ぎしてたと思う」
「うん」
「行こうと思えば、行けた。行けたんだけど、その……ああ、ちくしょう」
 ここまでずっと上機嫌を保ち続けていた青年が、顔を歪める。しかしそれを悟られまいとしてか、無意識に片手で顔を覆ってしまう。だからぶーちゃんIIから見えるのは、引きつったように強張る口角だけだった。
「明日の業務に響くから、とか。体力を温存しなけりゃ、とか。そんなことばっか考えちまって、楽しいことを全力で楽しもうとしてねえんだ」
 向こう見ずな真似などできない。石橋は叩いて渡る前に叩き壊すほど、慎重に慎重を重ねる。それは正しいことのはずだし、自分でもそう確信しているのに、青年は口惜しいとばかりに歯を食い縛る。間違ってなどいない行いが、どうしてこうも悔恨を伴って胸を苛むのかが分からない。しかしそう思う一方で、青年の中に息づく理性的な部分は、薄々と理解していた。
 呑みこみ切れなかったうめきが歯列の隙間から僅かに漏れると、それをごまかすように青年はわざとらしい笑いを含ませた声を張った。
「ああ、つまんない分別がついちまったなあ!」
 胸を躍らせ血を沸き立たせる素晴らしいものが待っているというのに、それらを冷静に計算して秤にかけた。何を失っても構わない、自分がどうなろうと乗り越えてみせる、と数年前の青年ならば喜び勇んで飛びこむだろうことは本人が一番理解している。けれど今は、あらゆるものが数字へと変換して、値打ちを定めてから判断すべきものだった。
 そうとしか、もう、考えられなかった。
「――さみしい?」
 左腕の特等席から見上げるこぶたが、しんと訊ねる。その問いの向かう先が、分別に囚われたことか、安泰を求めようとすることか、大人になってしまったことなのかは、分からない。けれど、黒いビーズの瞳でひたりと青年を見据える彼は、作り笑いで覆い隠し、取り繕おうとした青年の稚拙な工作などお見通しだった。少なくとも、青年にはそう思えた。
 平生、皺一つないシャツや厳めしいスーツに封じこまれている真意が、ぽろ、と零れる。
「かも、な」
 自分が身を置く芝生は、華やかではないし栄誉に溢れてもいない上、何より己は英雄でないとはっきり認識している。けれど額に汗し、必死に駆ける戦場を青年は誇りにも思っている。
 それらを全て受け入れて、顔を覆う指の隙間から覗く目をこぶたに向けると、青年は悪戯っぽく細めた。
「でも。ぶーちゃんIIに会えたから、今夜はいいや」
「それは良かった」
 檻の格子じみて顔へ広げられていた手の平を外して、青年は朗らかに破顔する。ぎこちなく引き結ばれていた唇は柔らかくほどけ、大きな子供はにっかと笑い、親愛の情をこめて円い旧友にヘディングじみて額を押しつけた。
 一人と一匹が小さく笑み交わしたその時、画面の中で英雄は再び足を振り上げると、魔法の世界からはまた一際と大きな歓声が爆発する。それに合わせて、こぶたは勝手知ったる様子で「ゴール!」と笑った。
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