とまり木 常盤木 ごゆるりと
ひねもすのたのた
二月大生誕祭初日
うおおお二月ですようおおおお。
準備万端迎撃態勢とは言えませんが、力は尽くす所存です。
日記に専用タグでも設けようかと思いましたが、やめました。
どうせ一ヶ月まるまるお祭り状態ですし……。
や、でもどうしましょうね。初日ですのにいきなり悩んでます。むう。
ともあれ途中で倒れないように気をつけます。
まあ血を吐いてでもやり通すつもりですけどねひゃっはー。
さあさ、お暇な方はどうぞごらんくださいな。
なんやかんやで2013年二月!
ゼノギアス十五周年な生誕祭にかこつけたお祭りです。
ゼノ中心モノリスさん総合わたしだけが楽しいひとりあそび。
お祝いしたくて仕方がなくて。
おめでとうを叫びたくてありがとうを伝えたくて。
ちっとも言葉が追いつかないので、お祭りにしたのです。
そしたら一ヶ月たっぷり、お祝いすることができます。
毎日毎日おめでとうを言い続けたなら。
少しはおもっているものを、言葉に表すことができるかと。
思いに足りない言葉が、少しは思いと肩を並べるのではないかと。
そんな、子供じみたことを考えてしまったのですよ。
大生誕祭初日。
トップバッターは、先日クリアしたばっかのバテン2です。
ああつらかったですが素敵な作品でした…米が炊きたいです……。
お祭り企画で腹を括って、真っ先に書き始めたお話です。
なのに題名が決まったのは今日のことです。ええいつものことです。
悩みすぎて、今回は相当に迷走をしていました。
『タウリン1000ミリグラム』や『秘境☆サダルスウド湯煙の旅』とか。
あと『いっしょにごはんといつかきっと枕投げ』やら。
開き直って『夢は枕投げさんばたーいむ』とかでした。
投げやりすぎます。いくらただのアホ話とはいえ……。
アホ話なのに、初めてのバテンなため、無駄に力が入りまして。
それなりに苦労しましたが、なかなか頑張れました。
別に酷いネタバレもないはずの、単なるアホ話です。
ゆっくり、のんびり、楽しんで頂ければと思います。
準備万端迎撃態勢とは言えませんが、力は尽くす所存です。
日記に専用タグでも設けようかと思いましたが、やめました。
どうせ一ヶ月まるまるお祭り状態ですし……。
や、でもどうしましょうね。初日ですのにいきなり悩んでます。むう。
ともあれ途中で倒れないように気をつけます。
まあ血を吐いてでもやり通すつもりですけどねひゃっはー。
さあさ、お暇な方はどうぞごらんくださいな。
なんやかんやで2013年二月!
ゼノギアス十五周年な生誕祭にかこつけたお祭りです。
ゼノ中心モノリスさん総合わたしだけが楽しいひとりあそび。
お祝いしたくて仕方がなくて。
おめでとうを叫びたくてありがとうを伝えたくて。
ちっとも言葉が追いつかないので、お祭りにしたのです。
そしたら一ヶ月たっぷり、お祝いすることができます。
毎日毎日おめでとうを言い続けたなら。
少しはおもっているものを、言葉に表すことができるかと。
思いに足りない言葉が、少しは思いと肩を並べるのではないかと。
そんな、子供じみたことを考えてしまったのですよ。
大生誕祭初日。
トップバッターは、先日クリアしたばっかのバテン2です。
ああつらかったですが素敵な作品でした…米が炊きたいです……。
お祭り企画で腹を括って、真っ先に書き始めたお話です。
なのに題名が決まったのは今日のことです。ええいつものことです。
悩みすぎて、今回は相当に迷走をしていました。
『タウリン1000ミリグラム』や『秘境☆サダルスウド湯煙の旅』とか。
あと『いっしょにごはんといつかきっと枕投げ』やら。
開き直って『夢は枕投げさんばたーいむ』とかでした。
投げやりすぎます。いくらただのアホ話とはいえ……。
アホ話なのに、初めてのバテンなため、無駄に力が入りまして。
それなりに苦労しましたが、なかなか頑張れました。
別に酷いネタバレもないはずの、単なるアホ話です。
ゆっくり、のんびり、楽しんで頂ければと思います。
『夢見る湯煙そのむこう』
その姿が視界に入ってきた時、咄嗟に彼は、信じられないとばかりに大きく目を見開いた。まさか、こんな辺境の地で見かけることになるとは、欠片だって予期していなかったためだった。
人目を引く鮮やかな真紅の衣装、それによく映える、深い水底に潜む緑柱石の髪と瞳。そして、今は胸の内にとどめているけれども、いざ対峙すればその背へ広げられる、豊かな白い両翼こそが運命の好敵手たる証。きらきらと儚い残光を引きながら舞い散る羽根が戦いをもたらし、火花を導く嚆矢となるのをこれまでの経験から思い起こして、彼はぞくぞくと暗い歓喜に身を震わせた。武者震いなのだろう。
閑職に近い立場へ置かれ、怒りと苛立ちに奥歯を噛み締める日々を送っていたジャコモは、相手の姿に目を丸くしたのも束の間、すぐさまこらえかねたように口角を押し上げた。緩く手をかけていた得物の柄を力強く握り直し、よく通る声を高らかに響かせながら、愛用の大鎌を振りかざした。
「サギ、また貴様に会えるとはな! 貴様を倒して、帝都へ戻る! 覚悟しろ、サギ!」
溢れんばかりの昂揚感と共に、宿敵の名を呼ぶ。嬉々としたその音吐へ答えるように、空を切り裂く大鎌が不穏な唸り声を上げる。ジャコモの左右に一人ずつ控える配下たちも大刀を構え、完全な臨戦態勢を取っている。まさに一触即発の空気が場に満ちていた。が。相手の反応次第で、すぐにでも技を繰り出せる状態になっているジャコモは、ここでようやく、ある違和感に気づいた。
ジャコモが(一方的に)好敵手と認定している、憎き裏切り者、サギ。かつて暗黒部隊という、表に出せない任務を主に遂行する部署へ所属していたにも拘らず、彼は決して好戦的な人物ではなかった。ただ戦いが避けられないとなれば、覚悟を決めて愛刀を抜き、湖よりも深い緑柱石の色をした瞳に静かな決意をたたえて受けて立つ。ジャコモと相対する時、サギはいつもそうだった。それこそが、ジャコモの望むものだった。
しかし今回、ジャコモがこうも威勢よく啖呵を切っているというのに、サギの手は刀の柄にかけられることもなく、だらりと両脇に垂らされたままだった。攻勢に出ることはおろか、咄嗟に防御の態勢を取ることもできない、無防備極まりない姿にジャコモは顔をしかめる。ところがそれは、サギの伴っている二人の仲間にさえも共通しており、誰も彼もが油断しきっているとしか思われない。素早く観察の目を走らせれば走らせるほど、他にもおかしな点が多々見受けられてくる。
力強く構えられていた大鎌の刃が、少し、そらされた。
「おい……何だ、そのやつれた顔は。いや、いっそ顔色も悪くないか。挙動もどこか気怠そうに見えるぞ、サギ。どういうことだ、この体たらくは」
「ああ、ジャコモ…いや、これはさ……」
敵を目前にしているというのに、余りにも覇気に欠けすぎている。その原因までは分からないまでも、何か異常があるというのは、一目見れば分かることだった。枚挙に暇がない、とばかりに、数々の違和感を指摘してゆくにつれ、ついつい、ジャコモの得物は下ろされてゆく。そして、こうまで親身に話しかけられてから、ようやくサギが口を開こうとする。ここにきて、やっとのことで返事をするほどの気力が溜まったらしい。いつも穏やかに浮かべている微笑は力なく引きつり、ややこけて見える頬を際立たせるようだった。
「その、つい、町の酒場でうっかり、慢性疲労を三つばかりマグナス化しちゃって……」
「!?」
下町から領主の館までを全力疾走してきたように、随分と荒い呼吸でかすれ気味にサギが口にした、思わぬ告白に、ジャコモは耳を疑った。そして短気な彼のこと。瞬時にして異変の元凶について理解すると、せっかく好敵手と認めている相手が取った軽率な行動へ、瞬間的に怒りを爆発させる。その矛先が向けられているのが、お人よしなサギへなのか、それともサギを苛むものの正体へなのかは今一つ判然としないが、恐らくジャコモ自身にもよく分からないのだろう。
ひとまず、火炎洞窟の溶岩じみて勢いよく噴出した怒鳴り声は、サギへとざんざか降り注ぐ。
「バカか貴様は!? いやむしろバカだろう! いくらブランクマグナスを大量支給されているからといって、他人の疲労を引き取るバカがどこにいる!!」
「いや、まさか、任意で解放できなくなるとは、思わなくって……」
(盲点だったのよね)
「こっちまで影響受けちゃって、大迷惑よ……」
『……だるいな』
「外野は黙っていろ!」
怒声の火つぶてを滝のように浴びせかけられ、サギがのろのろと弁明を試みると、彼の左右からは仲間たちの、これまたぐったりとした声音での証言が上がる。
物事の本質を抽出して、保存するマグナス化という技術。帝国による研究の賜物だが、まだ実用化されて日も浅い。利点だけでなく、思わぬ効果をもたらすこともあり、今回はサギが他人から慢性疲労などというものを、しかも複数引き受けてしまったため、その多大なる余波が仲間たちにも及んでいるらしかった。
こっそりと、サギがその身に宿す精霊まで交えた迫力のない非難の声を、ジャコモはばっさり切り捨てた。
せっかく苛立ちを振り払えたと思ったのに、予想外すぎる展開により、それは大幅に量を増して帰ってきてしまった。雪辱を晴らすため、サギとの再戦を体の内側から身を焦がすほど望んでいるジャコモにとって、これほどままならず、腹立たしいことはない。
ぎり、と鈍い音が頭の中へ響くほど、奥歯をきつく噛み締めると、ジャコモは突然、手にした大鎌が床へ突き立てられるほどの勢いで、刃を下に叩きつける。そして腹の底から、荒々しく叫んだ。
「サギ! 貴様、特に好き嫌いはないな!?」
「へ……?」
疲れ果てた顔を、サギが重たげに起こす。慢性疲労にどっぷり取り憑かれ、とうとう耳までおかしくなってしまったかと思ったらしい。すぐに問われた意味が理解できず、反応を返すことができない。しかし、それも無理はなかった。相手が発したのは、普段ならば考えられないような内容であったから。
明瞭な返事がなくともジャコモが構う気配は一向になく、苛々と怒鳴り声を撒きながらもすぐさま行動を開始しようとする。どこからともなく取り出した大量のマグナスを、指捌きも鮮やかに、トランプの手札のごとくずらりと片手で構えてみせる。
「ちょっと待っていろ! すぐに炭火焼ハンバーグでも作ってやる! あと米は炭で炊くと、光り輝くんだぞ! 疲れている時は滋養のあるものを食って、じっくり休め!」
「わーい、ごちそうだー…」
「そんな状態の貴様を倒しても、意味がないからな! くそっ、飯だけでなく風呂も沸かさなければ…おい、お前! 支度をしてこい!!」
ジャコモが手にしたマグナスに新鮮で且つ上質な肉の姿を確認し、状況判断能力が著しく低下しているサギは、豪華な食事の予感へ、素直に控えめな歓声を上げる。
しかしここまでの展開に動揺したのは、ジャコモの左右に配置されている帝国兵たちだった。好戦意欲に満ち溢れた少年兵に引きずられ、彼らもまた冷静な中にも闘志を燃やしていたというのに、とうのジャコモの思わぬ発言にすっかり毒気を抜かれてしまう。構えていた大刀も切っ先が揺らぎ、ややおろおろと状況を見守っていたところへ、まさかの指示が厳しい声で飛んでくる。
そんな、暗黒部隊の兵がすべきとは到底思われない任務の内容へ、やや平静を取り戻す。
「お、おい、ジャコモ……」
「聞こえなかったのか!? 米を炊くのがどれだけ大変だと思っている! せめて風呂の用意くらい先にしてこい!!」
いくらなんでもそれは、とばかりに、おそるおそる声を上げるも、多くのマグナスを扇のように構えて殺気立っているジャコモから、吠えるような叱責を受けてしまう。年若とはいえ部隊内で屈指の実力者であるジャコモからの指示だった。いくら理不尽に思えても、単なる平隊員に逆らえる道理はない。
左右の二人は軽く顔を見合わせてから、溜め息のように大刀を下ろした。
「りょ、了解」
全てに納得したとは言い難い声で、一応承服すると二人の兵士は駆け出す。恐らく今頃は、眉庇の下で目を白黒させていることだろう。そして同時に、風呂場の確保について、必死に頭を働かせているはずだった。
ひとまず指示は飛ばしたものの、だからといって即座に状況が打開されるわけではない。ジャコモは手にしたマグナスと睨み合いながら、肉や米の火加減について苛々と唇を噛む思いで考えを巡らせる。緻密な計算に集中しているジャコモの横で、いつもの元気がやや衰え、流石に今は疲労の色を濃くしているミリィが、ぴんと何かを閃いた。かろうじて隈が浮き出る直前で踏みとどまるものの、顔色だけは白くしてしまっているミリィは、面に悪戯っぽい笑みを小さく浮かべ、そろりとジャコモの隣へ近づく。
「ねえ、ジャコモ君。お風呂って、準備するの大変よね」
「当たり前だ。米と同じで、水加減火加減の調節に気を遣うからな」
ジャコモの耳元へ囁きかけられるほど、距離を詰める。普段ならばこれくらいに近寄れば、すぐさま大鎌に薙ぎ払われるところだろう。しかし、マグナスを前にぶつぶつとこれからの計画を何かしら呟いているジャコモは、得物を構えようともしない。
ミリィは更に笑みを深め、訳知り顔で頷いてみせる。
「うんうん、分かるわー。絶妙なお湯加減なら、疲れなんてすぐに吹き飛んじゃうけど、その分、取扱いが繊細なのよねー」
「分かっているなら、黙っていろ。今はその取扱いで忙しい」
「……ならいっそ、温泉のマグナスを使えばいいんじゃない?」
「何?」
マグナスと首っ引きになっていたジャコモが顔を上げ、傍らに立つ年上の少女へ目をやる。密かにミリィが仕掛けた誘いに、相手が乗ってきた証だった。はしばみ色の髪と目をした『おねえさん』は、四歳下の少年へ、どこか艶っぽく微笑む。
「そう、温泉のマグナス。ひとたび使えば、温泉の効用で、体力が全開しちゃうマグナスよ」
「そんなもの、俺は支給されていない」
「でも、もし使ったなら、慢性疲労も一発回復間違いないわ。そしたらサギの疲労もあっという間になくなって、その分、再戦も早まるわよ?」
「持っていたら、とっくに使っている!」
じわりじわりと言葉で包囲してくるようなミリィに対し、ジャコモは手にしたマグナスに目を走らせることもなく、荒っぽく怒鳴り返す。いちいち再確認せずとも、所持マグナスの内容は前もって全て頭に叩きこんでいるのだろう。そのため、余計にミリィの誘いが魅力的で、しかし実行することができないと分かるため、輪をかけて苛立ってしまう。
と。そこへ。
「実はわたし、持ってるのよ」
蠱惑的な響きすら伴って、ミリィがそっとジャコモへ囁く。目を大きく見開く相手の反応を見越してか、視線と意識を捉えて逃がさないよう、ミリィは人差し指と中指で挟んだマグナスを一枚、取り出してみせる。そして捕食者を誘う蝶のように、ひらひらと動かすと表面に描かれた、疑いようもない温泉の姿がジャコモの目に飛びこむ。その瞬間、ジャコモは咄嗟に握り締めていたマグナスたちを放り出し、ミリィから力ずくで彼女のマグナスを奪い取る。
さしたる抵抗を受けることもなく入手した温泉のマグナスを、ジャコモはすかさず掲げて、サギを睨みつける。
「いいか、サギ! 俺は必ず貴様を倒すが、今の貴様を倒したところで何の意味ない! だからひとまず温泉で一息ついて英気を養い、その後に腹へ温かい飯を入れてそれで……」
自らの手で解放したマグナスの光を浴びながら、最早、啖呵なのか何なのかよく分からない口上を発するジャコモは、それを最後まで続けることができなかった。輝くマグナスとは対照的に、彼の意識は突然、暗く、閉ざされた。
「寝たわね」
『寝たな』
「……寝ちゃったね」
封じこまれていた本質を顕現させ、その力を後光のように背負いながら言葉半ばで倒れこんだジャコモを、慢性疲労の三人が取り囲む。ミリィは満面の笑みを咲き誇らせながら、ギロはどこか冷めた眼差しで呆れながら、そしてサギは、体からほこほこと湯気を立てながら。
全ては、ミリィの作戦勝ちだった。彼女が得意げに、形の良い鼻をつんと上向けるのも当たり前のことで、ミリィは戦果に満足しながら、まだ重い足をさっさと動かす。
「ふふっ、上手くいったわね。さっ、先に進みましょう」
『うむ。見事な策謀だったの、小娘。溢れる性根の悪さが滲み出るような企みだったぞ』
「うるさいわね、戦闘回避できたんだからいいじゃない!」
『何だ。せっかくそのどす黒い権謀術数を褒めてやっているというに』
「わざと言ってるでしょ、このポンコツ!」
「はぁ~…体ぽかぽかで気持ちいいやぁー…慢性疲労は取れないけど」
慢性疲労はそのままに。それでも、いつものように賑やかに、一行は先へ進み目的地へと向かう。
マグナス『温泉』。被使用者HP全回復。
ただし、使用者は強制的に睡眠状態。
その効果を、今や夢の国へと旅立ったジャコモは知る由もない。
サダルスウド、領主の館の廊下にて、前のめりに倒れて眠りこんでいるジャコモが発見されたのは、二人の兵士が場を離れて一時間以上が経過してからだった。当然のことながらサギたち一行の姿は既に館内になく、ジャコモが絶叫と共に荒れ狂うことときたら、歴戦の強者である暗黒部隊員すらおそれをなすほどだった。
サギがその狂乱する憤怒の凄まじさを思い知ったのは、彼の郵便受けを埋め尽くす手紙の山を見た時だった。
さしものサギも今回は自分にも非があると思ったか、思わず返事を出したところ、手紙攻勢はぴたりと止んだそうな。
その姿が視界に入ってきた時、咄嗟に彼は、信じられないとばかりに大きく目を見開いた。まさか、こんな辺境の地で見かけることになるとは、欠片だって予期していなかったためだった。
人目を引く鮮やかな真紅の衣装、それによく映える、深い水底に潜む緑柱石の髪と瞳。そして、今は胸の内にとどめているけれども、いざ対峙すればその背へ広げられる、豊かな白い両翼こそが運命の好敵手たる証。きらきらと儚い残光を引きながら舞い散る羽根が戦いをもたらし、火花を導く嚆矢となるのをこれまでの経験から思い起こして、彼はぞくぞくと暗い歓喜に身を震わせた。武者震いなのだろう。
閑職に近い立場へ置かれ、怒りと苛立ちに奥歯を噛み締める日々を送っていたジャコモは、相手の姿に目を丸くしたのも束の間、すぐさまこらえかねたように口角を押し上げた。緩く手をかけていた得物の柄を力強く握り直し、よく通る声を高らかに響かせながら、愛用の大鎌を振りかざした。
「サギ、また貴様に会えるとはな! 貴様を倒して、帝都へ戻る! 覚悟しろ、サギ!」
溢れんばかりの昂揚感と共に、宿敵の名を呼ぶ。嬉々としたその音吐へ答えるように、空を切り裂く大鎌が不穏な唸り声を上げる。ジャコモの左右に一人ずつ控える配下たちも大刀を構え、完全な臨戦態勢を取っている。まさに一触即発の空気が場に満ちていた。が。相手の反応次第で、すぐにでも技を繰り出せる状態になっているジャコモは、ここでようやく、ある違和感に気づいた。
ジャコモが(一方的に)好敵手と認定している、憎き裏切り者、サギ。かつて暗黒部隊という、表に出せない任務を主に遂行する部署へ所属していたにも拘らず、彼は決して好戦的な人物ではなかった。ただ戦いが避けられないとなれば、覚悟を決めて愛刀を抜き、湖よりも深い緑柱石の色をした瞳に静かな決意をたたえて受けて立つ。ジャコモと相対する時、サギはいつもそうだった。それこそが、ジャコモの望むものだった。
しかし今回、ジャコモがこうも威勢よく啖呵を切っているというのに、サギの手は刀の柄にかけられることもなく、だらりと両脇に垂らされたままだった。攻勢に出ることはおろか、咄嗟に防御の態勢を取ることもできない、無防備極まりない姿にジャコモは顔をしかめる。ところがそれは、サギの伴っている二人の仲間にさえも共通しており、誰も彼もが油断しきっているとしか思われない。素早く観察の目を走らせれば走らせるほど、他にもおかしな点が多々見受けられてくる。
力強く構えられていた大鎌の刃が、少し、そらされた。
「おい……何だ、そのやつれた顔は。いや、いっそ顔色も悪くないか。挙動もどこか気怠そうに見えるぞ、サギ。どういうことだ、この体たらくは」
「ああ、ジャコモ…いや、これはさ……」
敵を目前にしているというのに、余りにも覇気に欠けすぎている。その原因までは分からないまでも、何か異常があるというのは、一目見れば分かることだった。枚挙に暇がない、とばかりに、数々の違和感を指摘してゆくにつれ、ついつい、ジャコモの得物は下ろされてゆく。そして、こうまで親身に話しかけられてから、ようやくサギが口を開こうとする。ここにきて、やっとのことで返事をするほどの気力が溜まったらしい。いつも穏やかに浮かべている微笑は力なく引きつり、ややこけて見える頬を際立たせるようだった。
「その、つい、町の酒場でうっかり、慢性疲労を三つばかりマグナス化しちゃって……」
「!?」
下町から領主の館までを全力疾走してきたように、随分と荒い呼吸でかすれ気味にサギが口にした、思わぬ告白に、ジャコモは耳を疑った。そして短気な彼のこと。瞬時にして異変の元凶について理解すると、せっかく好敵手と認めている相手が取った軽率な行動へ、瞬間的に怒りを爆発させる。その矛先が向けられているのが、お人よしなサギへなのか、それともサギを苛むものの正体へなのかは今一つ判然としないが、恐らくジャコモ自身にもよく分からないのだろう。
ひとまず、火炎洞窟の溶岩じみて勢いよく噴出した怒鳴り声は、サギへとざんざか降り注ぐ。
「バカか貴様は!? いやむしろバカだろう! いくらブランクマグナスを大量支給されているからといって、他人の疲労を引き取るバカがどこにいる!!」
「いや、まさか、任意で解放できなくなるとは、思わなくって……」
(盲点だったのよね)
「こっちまで影響受けちゃって、大迷惑よ……」
『……だるいな』
「外野は黙っていろ!」
怒声の火つぶてを滝のように浴びせかけられ、サギがのろのろと弁明を試みると、彼の左右からは仲間たちの、これまたぐったりとした声音での証言が上がる。
物事の本質を抽出して、保存するマグナス化という技術。帝国による研究の賜物だが、まだ実用化されて日も浅い。利点だけでなく、思わぬ効果をもたらすこともあり、今回はサギが他人から慢性疲労などというものを、しかも複数引き受けてしまったため、その多大なる余波が仲間たちにも及んでいるらしかった。
こっそりと、サギがその身に宿す精霊まで交えた迫力のない非難の声を、ジャコモはばっさり切り捨てた。
せっかく苛立ちを振り払えたと思ったのに、予想外すぎる展開により、それは大幅に量を増して帰ってきてしまった。雪辱を晴らすため、サギとの再戦を体の内側から身を焦がすほど望んでいるジャコモにとって、これほどままならず、腹立たしいことはない。
ぎり、と鈍い音が頭の中へ響くほど、奥歯をきつく噛み締めると、ジャコモは突然、手にした大鎌が床へ突き立てられるほどの勢いで、刃を下に叩きつける。そして腹の底から、荒々しく叫んだ。
「サギ! 貴様、特に好き嫌いはないな!?」
「へ……?」
疲れ果てた顔を、サギが重たげに起こす。慢性疲労にどっぷり取り憑かれ、とうとう耳までおかしくなってしまったかと思ったらしい。すぐに問われた意味が理解できず、反応を返すことができない。しかし、それも無理はなかった。相手が発したのは、普段ならば考えられないような内容であったから。
明瞭な返事がなくともジャコモが構う気配は一向になく、苛々と怒鳴り声を撒きながらもすぐさま行動を開始しようとする。どこからともなく取り出した大量のマグナスを、指捌きも鮮やかに、トランプの手札のごとくずらりと片手で構えてみせる。
「ちょっと待っていろ! すぐに炭火焼ハンバーグでも作ってやる! あと米は炭で炊くと、光り輝くんだぞ! 疲れている時は滋養のあるものを食って、じっくり休め!」
「わーい、ごちそうだー…」
「そんな状態の貴様を倒しても、意味がないからな! くそっ、飯だけでなく風呂も沸かさなければ…おい、お前! 支度をしてこい!!」
ジャコモが手にしたマグナスに新鮮で且つ上質な肉の姿を確認し、状況判断能力が著しく低下しているサギは、豪華な食事の予感へ、素直に控えめな歓声を上げる。
しかしここまでの展開に動揺したのは、ジャコモの左右に配置されている帝国兵たちだった。好戦意欲に満ち溢れた少年兵に引きずられ、彼らもまた冷静な中にも闘志を燃やしていたというのに、とうのジャコモの思わぬ発言にすっかり毒気を抜かれてしまう。構えていた大刀も切っ先が揺らぎ、ややおろおろと状況を見守っていたところへ、まさかの指示が厳しい声で飛んでくる。
そんな、暗黒部隊の兵がすべきとは到底思われない任務の内容へ、やや平静を取り戻す。
「お、おい、ジャコモ……」
「聞こえなかったのか!? 米を炊くのがどれだけ大変だと思っている! せめて風呂の用意くらい先にしてこい!!」
いくらなんでもそれは、とばかりに、おそるおそる声を上げるも、多くのマグナスを扇のように構えて殺気立っているジャコモから、吠えるような叱責を受けてしまう。年若とはいえ部隊内で屈指の実力者であるジャコモからの指示だった。いくら理不尽に思えても、単なる平隊員に逆らえる道理はない。
左右の二人は軽く顔を見合わせてから、溜め息のように大刀を下ろした。
「りょ、了解」
全てに納得したとは言い難い声で、一応承服すると二人の兵士は駆け出す。恐らく今頃は、眉庇の下で目を白黒させていることだろう。そして同時に、風呂場の確保について、必死に頭を働かせているはずだった。
ひとまず指示は飛ばしたものの、だからといって即座に状況が打開されるわけではない。ジャコモは手にしたマグナスと睨み合いながら、肉や米の火加減について苛々と唇を噛む思いで考えを巡らせる。緻密な計算に集中しているジャコモの横で、いつもの元気がやや衰え、流石に今は疲労の色を濃くしているミリィが、ぴんと何かを閃いた。かろうじて隈が浮き出る直前で踏みとどまるものの、顔色だけは白くしてしまっているミリィは、面に悪戯っぽい笑みを小さく浮かべ、そろりとジャコモの隣へ近づく。
「ねえ、ジャコモ君。お風呂って、準備するの大変よね」
「当たり前だ。米と同じで、水加減火加減の調節に気を遣うからな」
ジャコモの耳元へ囁きかけられるほど、距離を詰める。普段ならばこれくらいに近寄れば、すぐさま大鎌に薙ぎ払われるところだろう。しかし、マグナスを前にぶつぶつとこれからの計画を何かしら呟いているジャコモは、得物を構えようともしない。
ミリィは更に笑みを深め、訳知り顔で頷いてみせる。
「うんうん、分かるわー。絶妙なお湯加減なら、疲れなんてすぐに吹き飛んじゃうけど、その分、取扱いが繊細なのよねー」
「分かっているなら、黙っていろ。今はその取扱いで忙しい」
「……ならいっそ、温泉のマグナスを使えばいいんじゃない?」
「何?」
マグナスと首っ引きになっていたジャコモが顔を上げ、傍らに立つ年上の少女へ目をやる。密かにミリィが仕掛けた誘いに、相手が乗ってきた証だった。はしばみ色の髪と目をした『おねえさん』は、四歳下の少年へ、どこか艶っぽく微笑む。
「そう、温泉のマグナス。ひとたび使えば、温泉の効用で、体力が全開しちゃうマグナスよ」
「そんなもの、俺は支給されていない」
「でも、もし使ったなら、慢性疲労も一発回復間違いないわ。そしたらサギの疲労もあっという間になくなって、その分、再戦も早まるわよ?」
「持っていたら、とっくに使っている!」
じわりじわりと言葉で包囲してくるようなミリィに対し、ジャコモは手にしたマグナスに目を走らせることもなく、荒っぽく怒鳴り返す。いちいち再確認せずとも、所持マグナスの内容は前もって全て頭に叩きこんでいるのだろう。そのため、余計にミリィの誘いが魅力的で、しかし実行することができないと分かるため、輪をかけて苛立ってしまう。
と。そこへ。
「実はわたし、持ってるのよ」
蠱惑的な響きすら伴って、ミリィがそっとジャコモへ囁く。目を大きく見開く相手の反応を見越してか、視線と意識を捉えて逃がさないよう、ミリィは人差し指と中指で挟んだマグナスを一枚、取り出してみせる。そして捕食者を誘う蝶のように、ひらひらと動かすと表面に描かれた、疑いようもない温泉の姿がジャコモの目に飛びこむ。その瞬間、ジャコモは咄嗟に握り締めていたマグナスたちを放り出し、ミリィから力ずくで彼女のマグナスを奪い取る。
さしたる抵抗を受けることもなく入手した温泉のマグナスを、ジャコモはすかさず掲げて、サギを睨みつける。
「いいか、サギ! 俺は必ず貴様を倒すが、今の貴様を倒したところで何の意味ない! だからひとまず温泉で一息ついて英気を養い、その後に腹へ温かい飯を入れてそれで……」
自らの手で解放したマグナスの光を浴びながら、最早、啖呵なのか何なのかよく分からない口上を発するジャコモは、それを最後まで続けることができなかった。輝くマグナスとは対照的に、彼の意識は突然、暗く、閉ざされた。
「寝たわね」
『寝たな』
「……寝ちゃったね」
封じこまれていた本質を顕現させ、その力を後光のように背負いながら言葉半ばで倒れこんだジャコモを、慢性疲労の三人が取り囲む。ミリィは満面の笑みを咲き誇らせながら、ギロはどこか冷めた眼差しで呆れながら、そしてサギは、体からほこほこと湯気を立てながら。
全ては、ミリィの作戦勝ちだった。彼女が得意げに、形の良い鼻をつんと上向けるのも当たり前のことで、ミリィは戦果に満足しながら、まだ重い足をさっさと動かす。
「ふふっ、上手くいったわね。さっ、先に進みましょう」
『うむ。見事な策謀だったの、小娘。溢れる性根の悪さが滲み出るような企みだったぞ』
「うるさいわね、戦闘回避できたんだからいいじゃない!」
『何だ。せっかくそのどす黒い権謀術数を褒めてやっているというに』
「わざと言ってるでしょ、このポンコツ!」
「はぁ~…体ぽかぽかで気持ちいいやぁー…慢性疲労は取れないけど」
慢性疲労はそのままに。それでも、いつものように賑やかに、一行は先へ進み目的地へと向かう。
マグナス『温泉』。被使用者HP全回復。
ただし、使用者は強制的に睡眠状態。
その効果を、今や夢の国へと旅立ったジャコモは知る由もない。
サダルスウド、領主の館の廊下にて、前のめりに倒れて眠りこんでいるジャコモが発見されたのは、二人の兵士が場を離れて一時間以上が経過してからだった。当然のことながらサギたち一行の姿は既に館内になく、ジャコモが絶叫と共に荒れ狂うことときたら、歴戦の強者である暗黒部隊員すらおそれをなすほどだった。
サギがその狂乱する憤怒の凄まじさを思い知ったのは、彼の郵便受けを埋め尽くす手紙の山を見た時だった。
さしものサギも今回は自分にも非があると思ったか、思わず返事を出したところ、手紙攻勢はぴたりと止んだそうな。
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