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とまり木 常盤木 ごゆるりと

ひねもすのたのた

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『轍も螺旋もうわばみの…(3)』


くーはー遅れ倒した母の日続きです。
これでやっと、起承転結の、転に届きました。


そしてラストの結がやたら長いという。
もえぎさんいつになったら構成のバランスおぼえるの。
すみません、わたしはいつまでも成長しません。
残る結も完成までもうひとこえ。
やはりイドは勝手に動いてくれて、とても楽しい嬉しい。
何だか随分ココア組三人が仲良く喧嘩してます。
喧嘩してるの実質二人ですけれど。
ともあれ、今月中に全部アップできますように!
因みにこのお話の裏テーマは、『忘れられた設定の復活と再利用』
だったりです。もちろん表テーマは、母の日です。

前置きうやうや長くても仕方がありません。
ちゃきちゃき続きに、参りましょう!
ラストに至る、ちょっと緩やかな転。
その代わり、これで喫茶組全員出てきました。
おしまいまでは、あと、わんもあー!


『轍も螺旋もうわばみの…(3)』


 何事か密約じみたものがキッチンで交わされたとしても、それが喫茶の表へ届くことはなかった。小さなアベルがつい発してしまった、あの悲痛な叫びでさえも。それほど、喫茶の顔であり、ホールを支える今日のエリィたちは、余裕がない。
 喫茶の面々が母の日を楽しみにしているのなら、世間さまもまた母の日を楽しみにしている。わいわいと和やかに過ごす祝いの夜を、とびきりのお菓子と共にしたい、と思うのは当然のことだった。なので普段に増して持ち帰りの注文、しかもとっときの包装での注文が相次ぎ、エリィたちの手が休むことはない。その上よりにもよって、ココアのエリィが包装を苦手としているため、人手も限られてくる。
 そんな彼女らを応援するために、比較的手の空いている男性陣が援軍にきてくれたりもする。お互いの『対』との共同作業だと、やたらに手際も連携もよくなるため、大助かりだった。特にラカンとニサンのエリィによるパラフィン紙アレンジからリボンかけに到る流れは、計算されつくしたように見事だった。その横では、戦力外であるココアのエリィが唇を尖らせながら箱詰めを行い、同じくトングを手にしたフェイが微苦笑していたりした。
 ところが。ふとココアのエリィが気がつくと、フェイがキッチンへ引っこんでしまっていた。どうしたのかしらと首を傾げようとしても、乱れ飛ぶ注文に気を取られ、すぐに忘れてしまう。ただ、たまに接触者たちが表とキッチンを入れ代わり立ち代りしているように見えたが、「飲食のお客さまから注文が入ったのね」と一人で納得していた。
 だから、彼女たちは誰も気づきはしなかった。キッチンで。騎士の集う銀の砦で、何らかの策謀が蠢いていることに、気づくはずがなかった。


 そうこうしているうちに喫茶は閉店を向かえ、いつもより格段に早い時間に例の閉店お知らせBGMが流れ始める。外の明るさと、本来曲が流れる時間を比べれば、常連さんにはどうしても違和感がつきまとう。しかし、それは喫茶の面々も同じだった。
 平生より疲れているのかそうでないのか、よく分からない体のままお客さまのお見送りをし、後片付けをし、戸締りも済ませるとやっとのことで『CLOSED』の札が下げられる。
「はあ、これでおしまいね」
 ここまで無言のまま黙々と動いていたココアのエリィが、伸びをしながら言う。
「お疲れ様、ココアのエリィ。トングばかりで、大変だったでしょう」
 そっと手首をさすったり、前後に動かしたりしながら、ニサンのエリィが薄く微笑む。さらりと相手を労ってはいるが、そう言う彼女自身こそが、連続する包装作業にくたくたのはずだった。その辺りのことが分かっているため、ココアのエリィはどこか自虐的に笑み返す。
「私が、包装係として、もう少し戦力になれば良いのだけれど……所詮、私はトングマスターだわ」
「そんな」
「不思議よねえ。私たちと同じで、基本的に手先は器用なはずなのに。裁縫とか包装の分野だけが、どうしてああも壊滅的なのかしら」
 ココアのエリィの言い分を何とか否定しようとして、けれど言葉の出てこないニサンのエリィを援護射撃するように、ゼボイムのエリィはずけずけと言う。
「アップルパイのリボン編みを任せた時とか、そりゃあもう惨事だったもの。言語を絶したわ。細くて長いものが鬼門なのかしらね?」
「……今は、ノーコメントで通させて貰うわ……」
 心底不思議そうに言うゼボイムのエリィへ、ココアのエリィは言葉少なに返すも、低い声でぶちぐちと何かを呟いている。その内容まで聞き取ることはできないが、うっすら想像することくらいはできるので、隣に立つフェイがまあまあとなだめるように、彼女の手の甲を柔らかく叩いた。すると、ココアのエリィの拳は即座にほどかれ、彼女は形の良い鼻を天井につんと向けたまま、不貞腐れたようにフェイのロングサロンの端を握る。その仕草に、小さくフェイが笑った。
「今日ばかりは、反省会も後回しだ。急いで上がるぞ」
 だらだらとお喋りを長引かせてしまいそうな雰囲気を、キムがずばらと両断する。そう言いながら、彼の足は既に二階への階段を昇り始めていた。せっかく普段よりも早く店を閉めることができたのなら、その短縮されたぶんの時間を、本来の目的のため有効に使いたいのだろう。無言の中に意志を潜ませたキムの言い分に、誰も反対するものはなく、銘々がが思い思いの足取りで階段を踏みしめる。

 そうして歩を進めるにつれ、階上から零れ落ちてくる香りに一同気付いた。疲れた体に新たな力をそそぎこむ、柔らかく鼻孔を刺激する芳醇な気配に、階段の先で待ち受けているものを予感して誰しも思わず口の端を緩める。
 ついつい足に力を込めて、昇り切った先に広がる光景に、予想していたとはいえエリィたちから静かに感嘆の声が漏れた。男性陣も似たような反応で、キムでさえもついつい、そっと目を細めた。
「皆。お疲れ様」
「支度、もうできるから」
 整然と全員分の器が並べられた食卓の横で、銀器を手にした原初のエレハイムとネピリムが、上がってきた面々に声をかける。疲れた彼らを準備万端に、淡い微笑でエレハイムが迎えてくれるのはいつものことだけれど、普段の営業中だと夕食をとるのは二人ずつの順番性。こうも、全員分の食器がずらりと揃えられているのは実に珍しく、なんとも壮観なものだった。その上、この祝いの日の献立は、肩肘張らずのんびり賑やかに食べられるものとして、エレハイム渾身のカレー一択だった。
 みんなでごはん、という単純だけれども実に難しい願いが叶えられる日の、素朴で至高の全員一致なぴかいちレシピ。温かな明かりに照らされた下で、おかえりなさいと両手を広げて迎えられたような心地に、皆は知らず知らずに強張っていた肩から、ふっと力を抜いた。
 残る作業は少ないものの、面々は次々にあれを手伝う、これも手伝うと名乗り出ては行動に移す。勿論、エレハイムの助けになりたいのは言うまでもないけれども。こうでもしないと、迎えられた側の自分たちが、エレハイムの願いを叶えるのではなく、むしろ自分たちの望みを叶えられてしまうような気がした、というのもあった。
 二階の人数が一気に増え、夕食の支度はあっという間に整えられる。グラスに水が注がれ、銀器は煌めきながらずらりと居並び、空っぽの皿は中身をほかほかと満たされるのを待ちかねている。足りないものは、もう少しだけ。食卓の中央にぽつんと置かれた、花のない白磁の花瓶もその一つだった。
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