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とまり木 常盤木 ごゆるりと

ひねもすのたのた

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『お手をどうぞ、氷壁の』


何か…これ……。
モナドなお話。書けば書くほど、タイトルが酷くなるような。


これにて五つ目。書きたいお話も、そろそろ一段落?
設定資料集出る前の滑りこみ、シュルルンファーストコンタクト捏造です。
いけませんね。ほんとこれ題名が酷い。
しかも資料集の情報如何によっては、闇に葬る気まんまんのお話です。
だからって投げやりに書いたわけではありませんけれど……その、ねえ?
あ、でも今回のお話、一つ快挙があるのですよ。
モナドなお話五つ目にして、初めてたべものの描写がなくなりました!
……これまで、どんだけ書いていたのかというはなしです。
食材が豊富なあの世界がいけないのです。
いやしんぼなわたしにあんな食材どっさりなんて書けとしかそんな。

ともあれ。悩みに悩んで、いまだぐずぐずしておりますが。
こんな出会いもあればいいな、という単なる希望なお話。
いつもに比べれば、ちょっと短めです。
お菓子屋さんで売っていた例のあまいのの名前が発端となり。
(因みにあのお店…話題の管区の庁舎が、結構近い……)
思わず想像を巡らせてしまった、ちみちゃい二人のはじめての。
別にネタバレ要素はありませんが、捏造まみれですのでご注意を。
あとどう考えても主導権がフィオルンなのですがどうしようもありません。
何かもう。色々と。すみません。

『お手をどうぞ、氷壁の』

 遠く、何かが聞こえてきた気がして。声とおぼしきそれに、眠りに落ちていた意識の表層を引っかかれたフィオルンは、ゆるゆると瞼を押し上げた。薄く開けてゆく視界の中で、全てのものが横に倒れているのを、不思議に思う。けれど、次第に頭がはっきりしてくるにつれて、幼い彼女は若葉色の大きな目を、ぱっちりと見開いた。
 ベッドの上で起き上がり、背筋を伸ばしてシーツに座りこんだまま、幾度も瞳をしばたたく。そうして瞬きを重ねるうちに、状況がみるみる飲みこめてゆく。ついさっきまでフィオルンは、ダンバンのベッドに兄妹揃って転がって、絵本を読んで貰っていたのだった。けれど、お昼の後であったため、兄の声を聞きながら重い目をこすりこすりしているうちに、ちょっと早めのお昼寝をしてしまっていたらしい。傍らにあった絵本は枕元に片づけられており、彼女の体は薄い掛け布でふわりと包まれている。兄の気遣いに間違いなかった。
 途中で眠ってしまったことを申し訳なく思うも、今はそれより、気になることがある。階下から聞こえてくる、お昼寝していたフィオルンを起こしてきた声についてだった。
 よじよじとベッドの上を這い、掛け布を体から滑り落とさせながら、少しでも一階のほうへ近づこうとする。すると耳をそばだてるまでもなく、会話の主は判明した。兄と、その友人の声は、フィオルンにとって聞き慣れたものであったから。ただ、何やら話しているのは分かるものの、内容までは分からない。気にならない、といえば嘘になるが、幼い彼女はすぐさま別のことを考える。
(もう、おにいちゃんったら! いくら顔なじみのディクソンさんだからって、いちおうはお客さまなんだから、お茶を出さなきゃいけないのに。ちっともやかんの音が聞こえない、お湯、わかしてないんだわ。もしかすると、お茶っ葉の缶がどこにあるのか、分かんないのかも。私がやらないと!)
 数分前までの、夢路に遊ぶ幼子の顔はどこへやら。フィオルンは寝起きとは思えない素早い動作でベッドから跳ね起きると、軽やかな足音を立てて階段を下りる。内心でぷんぷんしてみせても、その実、楽しげに笑みを浮かべる彼女は、すっかり一家の小さな奥様の顔をしていた。

 一繋がりの旋律じみた音を撒いて階段を駆け下りると、最後は勢いよく三段目から飛び降りた。床へ見事な着地を決め、彼女は会心の笑みを浮かべてみせると、張り切って顔を上げる。降って落ちてきた賑やかな足音に気づかないわけもなく、ダンバンとディクソンが会話を途中で打ち切り、フィオルンのほうを見やる。
「ディクソンさん! こんに、ち――」
 お客さまへ元気いっぱいに挨拶しようとした、フィオルンの語尾が、吸いこまれるように消える。
 満開になりかけた笑顔もすぼみ、声を半端なところで絶えさせてしまったまま、若葉の瞳がまじまじと見開かれる。そんな、瞬きもしないでひたすら見入る彼女のさまに、保護者たちは軽く笑った。挨拶もそこそこに、フィオルンが凝視しているものこそ、今、二人が話し合っていた事案だった。
 木漏れ日のような、ふわふわとした金の髪。時折、周囲をうかがうように覗く目は、青っぽいようだけれど断定はできない。なにせその子は、随分とやせっぽちな体を、どうにかしてディクソンの後ろへ隠そうと試み続けているのだから。見えたとしてもそれは一瞬なので、確認する前に分からなくなってしまう。フィオルンが目撃したのはそんなおかしな、見慣れない子供だった。
 そして子供は、フィオルンの視線に気づいたのか、ますますディクソンを盾にして隠れてしまう。
(おくびょうなうさぎみたいだわ)
 しばしの観察の後、彼女は相手に対して、こう容赦ない評価をくだした。けれど、そこに悪意は含まれておらず、ただ率直に感想を述べただけらしい。そんなフィオルンの耳に、ダンバンとディクソンの交わす会話が聞こえてくるが、内容はやはりよく分からない。『生き残り』『一人』『好奇心旺盛だが人見知り』『年の割りに口が重い』『周りが大人ばかりだったからか、それとも性格なのかは謎』などなど。二階にいたときと違い、声は明瞭に彼女の鼓膜へ届いているはずなのだけれども。もしかすると、フィオルンにあまり聞く気がないからやもしれない。
 そのうち話も一段落したのか、やっとダンバンが妹へきちんと向き直り、声をかけた。
「フィオルン。この子はお前と同い年らしい。少し、相手をしてやってくれないか」
 細かい出自や、コロニー9へ到ったいきさつなどは話さず、ただ単に頼みごとだけをする。見知らぬ子供にきょとんとしていたフィオルンにとっては、兄からのその言葉だけで、全てが腑に落ちた。つまりは、お喋りをすれば良いのだと!
 頼みを受けた途端、これまでの頭に疑問符を乗せていたような表情は拭い去られ、フィオルンはきらっきらに目を輝かせる。そんな娘の反応を面白く思ったか、ディクソンがにやりと口角を上げる。そしてなおも自分の背後に隠れようとしている細っこい子供の首根っこを掴むと、好奇心にはちきれそうになっているフィオルンの前へ、事もなげに投げ出した。
「おら、いってこい小僧」
「ひゃっ…」
 突然背中を押され、そんなことはちっとも予期していなかった子供は、悲鳴にもならない声を漏らしてまろび出る。その勢いのまま、つまづき、つんのめり、体勢を崩すと、慌ててダンバンが手を伸ばす間もなく、子供は床へ滑りこむようにして膝をついてしまった。ぺたん、とその場に座りこんでしまった子供の前へ、フィオルンは相手の真似をするように、同じ形で腰を下ろす。ようやっと真っ直ぐ向き合えて、彼女は至極満足した。
 興味津々らしい相手に真ん前を陣取られ、身を隠すべき盾も最早ない。自分の置かれた状況を理解し、その上で観念したか、子供が、おそるおそる顔を上げた。そうして緩やかに姿を現す、ようやくはっきり見て取れるようになった瞳に、フィオルンは目を丸くした。海でもない、空でもない、不思議な風合いをした青い双眸。これまで出会ったどんな人たちとも違う、見たこともない花紺青の眼差しに、彼女のうきうきは天井知らずに高鳴った。胸の奥から突き上げてくるものに押されて、思わず自分からずい、と子供へ身を乗り出す。
「こんにちは! あなた、名前は?」
 見慣れない子供、見慣れない色。あらゆるものが新しく面白く思えて、知らない世界へ続く扉が、きらきらしく開かれてゆくような感覚がする。一言ごとに跳ね踊るような言葉の端々から、彼女の鼓動が聞こえてくるようだった。弾んだ調子で裏表もなく問われ、子供の顔が一瞬戸惑う。けれど、太陽の化身じゃないかと思うくらい、ぴかぴか曇りのない笑顔を向けてくる少女を前にしては、緊張も長くは続かない。使い慣れないもののように、ためらいがちに唇を動かし、幾度かぱくぱくと音もなく口を開いてから、この家に来て初めて、子供は声を発した。
「シュ…ル、ク」
 少し掠れた、幼い声が聞こえてくるのに、ディクソンは器用に片眉を上げてみせた。そんな保護者の横で、ダンバンは素直に、ほおう、と感心の声を漏らす。なかなか喋らない、と聞かされたばかりの子供が、妹と遣り取りを交わしてすぐ意味のある言葉を口にしたのに、少なからず驚いたらしい。
 しかしそんな保護者たちの感慨など、小さな彼女はお構いなしだった。
「シュルク。シュルクっていうのね」
 彼女は満面に輝く笑顔を浮かべたまま、ようやく名乗った少年に向けて彼の名前を繰り返す。するとシュルクは、肯定するようにこくんと頷いた。それじゃあ、とフィオルンは更に膝を進める。お互いの膝小僧が僅かに触れた。

「私はね、フィオルン!」
「ふい…ふ。フぅ、ロ、ロ、ン?」
「フィ・オ・ル・ン」
「フ・ロ・ロ・ン?」
「ちーがーうー!」
 フィオルンの名前が難しいのか、それとも彼の舌がまだよく回らない所為か、なかなか上手く発音することができない。けれどシュルクは小首を傾げながらも、挫けず彼女の名を呼ぼうとする。しかしその努力は、ちっとも実を結んでくれないらしく、おうむ返しにできていないおうむの練習のようだった。それでもフィオルンは諦めず、根気良くシュルクに向き合う。
 少女は懸命にお手本を披露し、少年は真摯についてゆこうとし。もどかしい遣り取りが何度も何度も繰り返されるうち、次第に声が大きくなり、賑やかしくなってゆく。ままならない相手に対し、途中でフィオルンが怒り出してもおかしくはないのだけれど、おまじないのように名前を幾度も言うことが、段々と彼女には面白くなってきたらしい。きゃっきゃとはしゃぎながら、おかしな問答にも満たない問答は延々と続けられる。
 そうこうしているうちに、とうとう、フィオルンが高らかな笑い声を上げた。おうむとおうむの学び舎ごっこをしているうちに、積もり積もったおかしみが、とうとうはじけてしまったようだった。暗いものなど何もない、底抜けに朗らかな、幸福に満ち足りた子供につられてか、シュルクがぎこちなく微笑んだ。凍てついたように動かなかった表情が僅かずつでも緩むさまに、ダンバンが安堵したように目を細めると、ディクソンは今度こそ軽く目を見張った。
 雪と氷の檻に囚われていた子供が、助け出されてから日を経、ここにきてようやく、冷たい戒めから解かれた。何の力も持たない小さな娘が、氷を緩ませ、春の雪解けをもたらしてみせた。けれどそのことに子供たちは気づいていないし、むしろ知る者のほうが少ない。
 巨神の幼い子供らは、笑って、泣いて、喧嘩して。はじまってゆく、さいしょのさいしょの、手と手と。
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