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とまり木 常盤木 ごゆるりと

ひねもすのたのた

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『花束は砂糖とハーブと香辛料で』


モナドなお話そのにかけましたー。わーい。
でもまたごはんの話です。懲りない。


そして微妙にオチが前回と同じでごめんなさい。先に謝っておきます。
あと今度は本気で兄妹しか出てません。
他にも出てはいるのですが、台詞がほぼありませんごめんなさい。
それに、タイトルぎりぎりまで悩みすぎて何かもうなげやりになりました。
つくづくどうしようもありません。

ぐたぐた前置きが長くなるのはいけませんね。
ちゃっちゃと本文へいきましょう。
またもコロニー9組幼少期妄想、イノシシ家の食卓です。
四歳の妹と十六歳のお兄さんで、ばんごはん!
ネタバレもへったくれもありませんので、未クリアの方もご覧頂けます。
好き勝手にはっちゃけまくって(主にごはん方面)やりたい放題です。
それでもよろしければ、続きからどうぞ。


『花束は砂糖とハーブと香辛料で』(イノシシさん家のばんごはん)

 黄昏黄金に染まった道を歩きながら、青年は家路につく。その足取りは早くもなく、遅くもない。敢えて、そのどちらでもない狭間になるべく心に決めているような、足の運び方だった。
 今日も一日、防衛隊の苛烈な訓練を終えて、自宅へと戻る。そこでは、この世にただ一人の家族となった最愛の妹が留守を守っているはずだった。けれど、彼女はまだまだ幼い。どれだけ体に疲労がのしかかっていても、早く帰ってやらなければと気持ちは急かされる。が。だからといって急ぎすぎては、今度は夕食が出来上がるよりもうんと前になりすぎて、我が家の小さい奥さんから、『まだなのに、もう!』と非難を浴びることにもなってしまう。
 だから青年は、早くなるよう、遅くなるよう。様々な感情に揺り動かされながら、夕間暮れを分け入り、進む。


 やがて自宅のすぐ前まで辿り着くと、開け放たれた扉や窓から、何ともすきっ腹をちくちくしてくる快い香りが漂ってくる。恐らく、妹ご自慢のブーケガルニが、この日も活躍したのだろう。それ以外にもとっぷり芳醇なバターにチーズ、濃厚な卵のじゅうじゅうしたのや、しゃきっと背筋が伸びそうなトマトなどが混成部隊と化して攻めかかる。けれど、やってくるのは香りだけでなく、弾むような細い旋律もだった。音の奏で手である妹が、どんな顔をして台所に立っているのか。その音色から容易に想像がついて、ダンバンは小さく口角を上げる。そして扉をくぐり、帰宅を告げようとした青年の声が、ふと喉で詰まった。
 彼の眼前には、小さな後姿がある。ご機嫌に鼻歌など口ずさみながら、楽しげに卓へ食器を並べている。床にこすってしまいそうなほど裾の長いエプロンを、幾度も腰回りでたくって、踏んだりしないよう工夫を凝らしていた。幼い子が一人前に家庭を切り回す、それは実に微笑ましい光景であったけれど、青年だけは僅かに目を伏せる。亡き母が愛用していたエプロンは、どうあっても、その娘には大きすぎた。
 現在の『家族』の形を、まざまざと見せつけられた気がして、玄関口に無言で佇む兄に、漸くフィオルンが気づいた。ぱっと顔を上げて振り返った際、妹の背後で何かがきらりと光った気がして、ダンバンは一瞬おやと思う。
「あ、おにいちゃん! おかえりなさい!」
「おう。ただいま」
 ふいの煌きを不思議に思うも、そんな刹那の光よりも明るい、輝くような笑顔で迎える妹に兄の疑問はすぐさま消え失せる。先に浮かんでしまった『エプロンの元の持ち主』についての感慨をも隠し抜こうとして、どこかぎこちなく笑みを浮かべながら、ダンバンは妹に応じた。幸運なことに、フィオルンがそのぎくしゃくとした表情に気づくことはなく、青年は巨神の加護にこっそり感謝した。そして、さりげなく話題をそらそうと本日の夕餉に目を遣ると、何かを画策するまでもなく感想がするりと滑り出た。
「おいおい…凄いじゃないか」
 何のてらいもない、兄の素直な言葉に、フィオルンは勝ち誇ったような満面の笑みを浮かべた。ふっくらした頬から、今にも零れ落ちんばかりの笑顔だった。
 卓の上には、綺麗に並べられた食器と共に、幾つもの料理がたっぷりと用意されており、目移りしてしまうほどだった。けれど中でも特に目を引くのは、大皿の上へ豪華に盛りつけられている魚介二種のカルパッチョであり、圧倒的な存在感は他の追随を許さない。薄切りたまねぎの上に赤身と白身の魚が見目良く並べてあり、室内のエーテル灯に照らされてつやつやと照り輝くさまは、その身がいかに新鮮で脂が乗り切っているかを物語っていた。細かく刻んだトマトや輪切りにされた黒オリーブの実、それに摘みたてのパセリを撒いてあり、彩りをくっきり鮮やかにしながら、鼻にはつんとレモンのきいたドレッシングが主張してくる。見ているだけで、ついつばきが湧いてきそうになるも、あることに気づいたダンバンは意志の力で踏みとどまった。
 眼前にあるのは比喩抜きで、まさに目の覚めるようなご馳走だった。しかしそのカルパッチョは、見ての通り、赤身と白身の二種類からなっている。コロニー9近辺で獲れる魚の種類は限られており、特に赤身ときたら、その持ち主はアゴラの岸あたりをねぐらにしているはず。よって、なかなか手に入るものではない。入荷されたとしても、値段は目玉の飛び出るような代物であると知れていた。そんな貴重な魚が、惜しげもなくふんだんに、白身と一緒に薄切りたまねぎの上に横たわっている。ダンバンが感心しきりの声を漏らしながらも、怪訝に思ってしまうのは無理もなかった。
 だがフィオルンにとって、兄のそのような反応は、予想の範囲内だったらしい。胸をそらして、自信満々にレシピの解説を始めた。
「ふふ、すごいでしょ? サーディの赤身なんて。でも、買ったんじゃないの、ごきんじょのマーシャさんがおすそわけでくれたの。何だかおうちで、お祝いがあったみたい。それに、お店にしんせんなサモンが入ってたから、これは合わせて使わなくちゃと思って! すーぐ傷んじゃうから、慌てて買ったのよ」
「ほおう、それでこの豪勢なカルパッチョができたわけか」
「うんっ! あ、でもおにいちゃんはきっとお刺身で食べたいと思ったから、そのぶんは別に置いてるよ。すぐに出すね」
「……すまんな」
 完全に、こちらの好みを把握されている。サーディの赤身、しかも極上のトロなど、滅多にお目にかかれる品ではない。調理して手を加えたものよりも、是非刺身でいきたいと考えてしまう兄の思考を、妹はお見通しだった。両親を亡くしてからの兄妹は、確かに近所の人々に支えられて、暮らしてきた。フィオルンに料理の手ほどきをしてくれた人も、多くいる。しかし、ここまで手際よく食卓を整え、希望を口にするまでもなく先回りして準備してしまうさまは、明らかにフィオルン自身の才と努力もあった。
 我が妹ながら末恐ろしいな、と微苦笑しつつダンバンは椅子を引くと、席におさまる。内心で、奇跡のトロをお裾分けしてくれた近所の主婦に、また今度顔を合わせたときに礼を言わなければと、家長らしい決意を抱く。あの家庭は確か、フィオルンと年の近い孫を猫可愛がりしているはずだから、今日はきっと誕生日か何かだったのだろうと見当をつけながら、改めて食卓を見渡す。
 そして、あることに気がつくと、相手に悟られないようそっと笑みを深めた。
「あとね、今日はコロニー6から隊商がきてたから、どこのお店もめずらしいものがいっぱいあったの。ついつい、いっぱい買っちゃったわ」
「財布は大丈夫なのか? 我が家の財務官殿」
「へーきっ。だって、みんな、おねだりしたらまけてくれるもの! おまけもしてくれるし、私、けっこう買い物上手なんだからね」
「それはそれは」
 商売人を相手に、一歩も引けを取らず攻防を繰り広げている小さな主婦に、今更ながらダンバンは深い感嘆をおぼえた。そして、家事を『こなさなくてはならない』子供の姿に、各店主たちが、おまけをしないではいられない気持ちになってしまうだろうことも察する。あまり顔を合わせたことのない店の主人たちに、ダンバンは胸の内で短く礼の言葉を述べた。

 しかしそんな兄の感慨も知らず、フィオルンは刺身の乗った小皿を取り出してから今度はおたまを片手に、コンロへかかったままの大鍋に向かう。ことことぐらぐら、小気味良い音を響かせながら、本日の収穫について誇らしげに語る。
「コロニー6のほうも、色んな野菜があるのね。初めてさわるのばっかりだったけど、お店の人が使い方とか教えてくれたわ。ほら、カルパッチョにざくざく切ったジューシートマトのせてるでしょう?」
「ああ。コロニー6産だったのか、これ。彩りもいいな」
「でしょ! それと、クライブの卵とホットむらさきイモで、スパニッシュオムレツにしてみたし。チーズときのこをどっさり入れたから、おなかいっぱいになるわ」
「これがクライブの卵か。噂には聞いたことがあったが……」
「最初からお肉の味とか、こしょうの味とかするのよ。べんりよね、コロニー9にもあればいいのに。あっ、そうそう、お鍋の中身はミネストローネなの。いつものブーケガルニ、ちゃあんと入れてあるからね。でも、ホットキャベツの下ごしらえがたいへんで…クセが強いから、お水にさらしたり、一度ゆでたりして、すっかりつかれちゃった。そのぶん、栄養たっぷりだから、くとくと、とろとろに煮こんじゃえば絶対においしいはず。ジューシートマト、こっちにも入れたし。野菜たくさん食べられるわ」
 そして兄は、きらきらとした表情で立ち回る妹に向かい、背凭れに体をもたせかけながら、ちょっと悪戯っぽい口調になる。
「ふうん。で? 今日は一体、どんな良いことがあったんだ?」
「え?」
「ずっとご機嫌じゃないか。鼻歌まで歌って。何か、良いことがあったんだろう?」
 妹が兄の動向を把握しているように、兄だって妹の動向は把握している。本日のご馳走は、良い食材を貰った喜びと珍しい食材に胸が躍ったあまり、勢いのまま腕まくりしてしまった、というだけでなく。それ以外にも、何か妹をはしゃがせる要素があったに違いない、と兄は踏んだ。確信に到る証拠も、ちゃあんと握っている。今はまだ、口にしないけれども。
 問われ、振り返ったフィオルンは、咄嗟に面食らったような表情を浮かべた。けれど、じっとダンバンと視線を合わせるうち、抑えていたものがゆっくりと氾濫してきたらしい。蕾が甘くほころんでいくように、こらえかねた末の笑顔を咲き乱れさせた。大鍋の前から素早く離れて、兄のもとへ駆け寄ったフィオルンは、高らかに告げる。手を離れたおたまが、鍋の淵に当たってからんと鳴った。
「これ!!」
 言葉と同時に、くるん! と勢い良く後ろを向く。爪先立った舞姫が身を翻すと、長すぎるエプロンがドレスのようにふうわりと風をはらむ。けれどその行為の意味や、また妹の指し示すものが、ダンバンには一瞬分からなかった。しかしやがて、フィオルンが盛んに見せつけてくるあるものの存在に気づくと、顔を寄せて、まじまじと見入る。彼の前には、エーテルの暖かな灯りを受けて、つややかに輝く妹の髪がある。肩より少し長い、揺れる髪を押さえているのは、見慣れない髪飾りだった。
 フィオルンの髪を更に華やがすような、きらきらとした金属の光。けれどそれは高価なものでは到底ない、真新しい銅の、あかがね色だった。元は単なる、一本の銅線に過ぎないのだろう。それこそ、ジャンク置き場に混ざっていても、誰にも見向きされないような。そんな銅線を器用に折り曲げ、一筆書きのようにして、うさぎの形に加工してある。作業の途中で、ところどころ表面を削ってしまったのか、うさぎはあちこちにかすり傷を負って、輝きが失せているところがある。けれどそれすら、平面のうさぎに陰影を与え、かえって味わいぶかい煌きを宿すに到っていた。出迎えてくれたフィオルンの背後で、何かちかりとした気がした正体を、ようやっとダンバンは知ることになった。
 しかし、青年は内心で首を傾げる。こんな髪飾りをフィオルンは持っていなかったはずだし、それに最近のフィオルンは、以前にダンバンが買ってやったリボンをお気に入りにしていた。どういうことか即座に理解できない兄へ、言いたくてたまらないようにフィオルンが口を開く。髪飾りが兄に見えるようしたまま、僅かばかり上半身を捻って振り返る。
「シュルクがね、つくってくれたの!」
 頬を上気させて目を輝かせる妹のさまに、ダンバンの中で全ての答えが、かちりと繋がった。思わず隠し切れない笑みが滲み出て表情を緩ませてしまうと、フィオルンはそれに勢いを得たのか、座ったままの兄へ飛びつかんばかりにまくしたてる。
「あのねっ! 前にシュルクとラインの三人で、シュルクの持ってたずかんをいっしょに見てたとき、テフラどうくつのページにうさぎをみつけたの。ハッピーウサギっていうらしくって、すっごくかわいくって、私のおきにいりだったの。そしたら…シュルクがそれ覚えてて、作ってくれたの!!」
「――そうか」
 その喜びは、まだ幼いフィオルンにとって、なかなか言葉で言い表せないほどだったのだろう。居ても立ってもいられなくて、その場で軽く飛び跳ねながらなおも続ける妹を、兄は優しく見守る。ただ、こっそり。シュルクの保護者である某ロートルが、子供の玩具に図鑑と工具しか与えていないに違いないことを読み取って、苦々しくも思っていた。
 しかしそんな兄の内情へ、熱に浮かされたようなフィオルンが気づくわけもない。
「さいしょは、うさぎだけでね。それだけでも嬉しかったけど、私が『髪につけられたらいいのに』って言ったら、近くにあった材料がさごそして、すぐ髪飾りにしてくれたの!」
「シュルクは器用だからな。たいしたもんだ……上手くできてる」
「うきうきして、胸がいっぱいで、あふれそうになって…もう、暴れちゃいそうなくらいだったの!」
「そうだな――それじゃあ、早く、行ってやれ」
 甘く幸福な感情に、あまりにも満たされてすぎて。けれどそのことを、言葉で明確に表現できるほど彼女は大きくもなくて。そのまま、あぷあぷと溺れてしまいそうなフィオルンへ、兄は穏やかに口角を上げて提案する。あごで、食卓の一角を軽くしゃくりながら。
 そこには――
「最初から、呼んでやるつもりだったんだろう?」
 二人家族の食卓に、皿も、匙も、全てをきちんと揃えられた、三人目の席が用意されていた。

 当たり前のようにしつらえられた、一人分多い家族の席。またカルパッチョにかけられたドレッシングへ、少し強めにレモンがきかされているのは、食が細くとも酸っぱいものなら多少は好む、誰かさんに合わせられたもの。兄に分からないわけがなかった。
 全てを口に出して、問うてはいない。けれどさりげない兄の訊ね方に、フィオルンはみるみる頬を鮮やかに染め上げてゆくと、とろけるように微笑んだ。少しの面映さを含みながら、こくんと頷き、腰に止まっていたエプロンの蝶々を、その結び目を力いっぱい引っ張った。踊るようにくるりとその場で一回転すると、彼女を捕らえていた真っ白いエプロンが、魔法のようにほどけてとけて、翻って宙を舞う。こうすることで、小さな奥様は漸く、ちいちゃな童女へ戻ることができた。誰かさんがいるお陰で、妹は本来あるべき姿へ、子供が子供へ戻ることができる。そのことをダンバンは、今更ながら思い知った気分だった。
 駆け出したくてたまらない子供が、台所に留まる理由などない。エプロンを脱ぎ捨てたフィオルンは、すぐさま玄関まで走り抜ける。しかし、扉をくぐるかくぐらないかというところで、勢いをこらえるように、てとてとと足踏みを始めた。まだ完全に、小さな奥様まで脱ぎ捨ててはいないらしい。
「すぐに戻るね! もう、シュルクったら、きっとまだごはん食べてないのよ。お昼だって、私が言わなきゃ、全然ごはんだって気づかないくらいなんだから。何かにしゅうちゅうすると、食べるの忘れちゃうみたい。私がちゃんと見てなきゃだめなの! あ、おなかすいちゃってるなら、おにいちゃん先に食べててかまわないから! それとっ、先に食べるなら、ミネストローネよそったとき、上に粉チーズふってからにしてね!」
「急いだほうがいいぞ。もうすぐ、日が暮れちまう」
「!? いってきまあす!」
 今、兄にできることといったら、子供が子供らしくあれるよう、手助けをしてやることだけ。軽く追い払うように手を振って、なおもとどまろうとするフィオルンの足を促す。暗くなる前には戻らなければ、と反射的に考えてしまう幼な子に、その言葉の効き目は抜群だった。返事もそこそこ、目線を合わせることすらなく、慌てて外へと走り出た。
 声の余韻だけを残して姿を消した妹の頬が見事な薔薇色になっていたのは、何も夕暮れの所為だけでないと、兄は薄い笑みと共に確信した。


 結局この夜、食卓を囲んだのは四人家族だった。当初の予定から増えているのは、帰宅したフィオルンが更にもう一人追加して連れてきてしまったためだった。駆けに駆けて、軍事区へ辿り着いたフィオルンがシュルクをみつけると、彼は丁度ラインといた。昼間に遊んで、そのまま一緒にいたらしい。沈む太陽とかけっこをしているフィオルンは、とにかく早く相手を連れて早く戻ることしか頭にない。そのため、側にいたライン諸共引っ張ってきてしまったようだった。思わぬ夕餉の招待に、シュルクもラインも驚いたようだったが、この状況を引き起こした張本人であるフィオルンは何ら動じることもない。手早くもう一人分、追加で席の支度をして、すぐさま全員を椅子に座らせた。
 そうして始まる家族のごはんは、何とも賑やかなもので。
 カルパッチョからそろそろと黒オリーブをどけようとしたシュルクは、フィオルンから送られる念のこもった眼差しにおののいて作業をやめた。ジューシートマトを前に、訴えかけるような視線を向けてくるシュルクに負け、ラインがこっそり自分の皿へうつしてやろうとすると、すかさずフィオルンに手の甲をぴしゃりとやられた。そこからフィオルンとラインで軽い口喧嘩になるも、わあわあと言い合う二人の横で、おそるおそるジューシートマト入りのミネストローネに口をつけたシュルクが、そのまろやかさに目を丸くする。フィオルンがお料理すると野菜もおいしくなるんだ、と驚いたように口にすれば、フィオルンのイガイガした低気圧もすぐさまお日様にからりと晴れる。我が妹ながら分かりやすい反応だ、と吹き出しそうになるのを、刺身に添えられたあまあまワサビを無理に口にすることでダンバンはどうにかこらえてみせた。

「娘を嫁に出すってのは、きっとこんな気分なんだろうな……」
「四歳児の妹に今から何をぬかしてんだ貴様は」
 夜遅く、姿の見えない被保護者を訝しく思ってか、探しにきたディクソンへ感慨深げにそう呟くと、相手は心の底から呆れたように返した。
 二人の保護者が見つめる先では、くちいおなかで遊んではしゃぎ、疲れ果てた子供たちが並んで寝息を立てていた。揃って同じ夢を見ているわけでもなかろうに、全員が楽しそうに笑みを浮かべて。ダンバンの大きなベッドに三人で丸まり、フィオルンを真ん中にして、お互い離れるまいとするようにくっついて眠っている。そのさまを見て、ディクソンは軽く口角を上げながら『犬の子か』と短く感想を述べた。
「花嫁を送り出す演習を、今からしておくのも、悪くはない」
 柔らかく目を細めるダンバンの前では、何か幸福な夢でも見ているのか、眠っていても微笑を宿したままのフィオルンが、シュルクの服の裾をしっかり握り締めて丸くなっていた。その小さなてのひらからは、花ではなくローリエの香りが、ふわんと広がっていた。

 キッチン・ブーケトス・レッスン!
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