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とまり木 常盤木 ごゆるりと

ひねもすのたのた

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『円環キッチンバトル!』


モナドなお話書けましたー。わあい。
何だか、久し振りです。書いてて楽しいと思ったのは……。


あれこれ裏話みたく喋りたいことはあるのですけれど。
今日はとにかく、書いたことと書いたものをご報告だけ。
続きに隠しておきますけれど、特にネタバレはありません。
未クリアの方でもご覧頂けると思います。
他愛もない、コロニー9のむかしのはなし。
色々詰めこみましたが、入りきらなかったことも多々です。
特にラインを書く余裕がありませんでした。ごめんなさいメイン盾。
しかし今回みたいなキッチン話だけでシリーズができそうな勢いです。

きちんと書けているやら、またきちんと人物を読み取れているやら。
あまり自信がありません。
一晩寝かせて、様子見したほうが良いのでしょうけれど。
なんだかもう書き上げてひゃっほうとはしゃいでしまったのでこのままアップで。
駄目なところは薄々分かってますので後日修正します。
タチの悪い書き方ですね!すみません自覚はあります。
ああ。でもほんと、久々に書いてて、うきうきしました。
ありがとうモナド。それとも、ここは黄金の光輝に?

一つ、恐ろしいことがあるとしたら。
今回書いたお話は、以前箇条書きにしていた『書きたいお話リスト』
の、中にあったものではありません。
攻略本手に入れた大喜びな勢いのまま、思い浮かんだものです。
あんまりシュルクが野菜嫌いすぎて笑ってしまったためです。
と、申しますか彼たべることに興味がなさすぎますよ!
これはいけないちゃんと食べさせないと、と妙な義務感に急かされまして。
うっかり書き上げる羽目になりました。
ごはんはしっかり食べましょう。

それでは前置きが長くてすみません。
コロニー9のむかしのおはなし。ちみちゃい二人と保護者と。
何かもう食べ物に気合いれすぎたお話ですが、よろしければどうぞ。


『円環キッチンバトル!』(ちみちゃい二人と保護者さん。十四年前)


 台所から漂ってくる香りに、そろそろ心もとなくなり始めている胃をおおいに刺激され、若者は引き寄せられるように階段へ足を向けた。防衛隊の任務が非番の日は、どこか気が軽い。しかし、階下へ向かう彼のとんとんという足音がいやに楽しげなのは、それのみが原因というわけではなさそうだった。
 やがて見えてくるものに、ダンバンは気づかれないよう、そっと目元を和らげた。
 布巾で洗い物を拭いている小さな後姿は、流し台にはまだ到底背が届かないため、足元に椅子を置くことで高さを克服している。足場がぐらつくのでは、と危惧する兄に、妹は元気一杯に『だいじょうぶ!』と笑ってみせた。たった一人の愛妹からそんな風に返されては、もう兄に食い下がる術はない。
 彼は食卓の上に置かれた大皿をちらりと眺めてから、せっせと布巾を動かしている妹の傍らへ、歩み寄る。
「いい匂いだな」
 そう声をかけると、何かを掻き混ぜでもしたのだろう、泡立て器を拭いていたフィオルンが顔を上げ、ぱあっと大輪の笑顔を花開かせる。この会心の笑みから察するに、今日の昼餉は彼女の自信作らしいと、容易に読み取ることができた。
「ほんとう!?」
「ああ。上にまで、いい匂いがするもんだから、つい降りてきちまったよ」
「よぅっし……!」
 兄の感想に満足したのか、フィオルンは若葉色の瞳をきらきらさせて、布巾を持つ手に力をこめる。妹がこうまで真剣に、そして嬉しそうにする理由などそう多くはない。ダンバンは内心でにまにまと微笑ましさをおぼえながら、それを押し隠すように、フィオルンの拭き終わった食器を棚へと運んでやる。するとそんな兄の後姿に向かい、妹は予想通りの答えを高らかに告げる。
「今日ねっ、お昼にシュルクを呼んでるの。いっしょに食べようって!」
「だろうな。……に、しても、ちょっと多すぎやしないか?」
 不安定な足場の上で、器用にがたがた跳ねる妹に一瞬ひやりとしながらも、兄はやんわりと答える。そして言葉を付け加えると同時に、もう一度食卓の上に用意された、昼餉を見やった。
 そこには、バニットの丸焼きでも楽々と乗ってしまいそうな大皿がでんと鎮座しており、その上には大量のサンドイッチがひしめきあっている。比喩抜きの山盛りであり、ダンバンでさえそこはかとない威圧感すらおぼえるほどの数だった。しかもかなりの種類を取り揃えているらしく、中には大盤振る舞いのあまり具が溢れてしまいそうになっているものもあり、それらは串を刺されることでサンドイッチとしての形を保っていたりもしていた。多少切り口のぶかっこうなものも見受けられるが、四歳の娘が作ったにしては、全体としてたいした出来だった。
 が。家族二人に客一人、ではどう考えても多すぎる。どっちゃり、という音が似合いそうなほど積み上げられたサンドイッチは、夕餉と言われてもおかしくない量だった。そこを兄は指摘してみたのだが、妹が気にしているのは、別の点らしい。思案するように小首を傾げ、指折り数えながら宙を見やってみせる。
「えーっとね、フラミーのうすやき卵でしょ、サモンのオイルづけと、アルマのチーズにクルイモのペーストもあるの。食べやすいように、工夫、いっぱいしたんだから! ほらシュルクへんしょくだから、どうにかして食べさせなきゃと思って」
「あー…野菜嫌いだったな、シュルク」
「そうなの!」
 友人が連れてきた、年の割りに小柄でひょろりとした子供の姿を思い出し、そう呟くとフィオルンが椅子から身を乗り出した。ダンバンが慌てて咄嗟に支えてやらなければ、今にも滑り落ちかねないくらいだったが、そのことを妹が気にかけた様子はない。正面からひたりとダンバンを見据えると、彼女にとって何より重大らしい問題を、胸に迫るような調子で切々と訴える。
「ディクソンさんが言ってた。シュルク、体が弱いんだって…だから、たっぷりごはん食べて、じょうぶにならなきゃいけないの。なのに野菜きらいなんだもの、それじゃあ、ちっとも良くならないよ」
「成る程、な。それでフィオルンがいっぱい知恵を絞って、シュルクのために腕を振るった、ってわけか」
 体勢を崩しかけたフィオルンを、そっと椅子の上へ戻してやる。その際に視線の高さを揃えてやると、妹は真っ直ぐに彼のほうを見つめながら、はにかむように微笑んだ。いかにもふにふにと柔らかそうな頬を、ほのかな水蜜桃に染めるさまに、彼は不意に抱き締めてやりたいような気持ちになる。が、考え抜いた渾身のレシピを誰かに知って欲しくてたまらないフィオルンが、堰を切ったように喋り出す勢いに流され、彼の衝動は緩やかに抑えられた。

「シュルク、からいのきらいなの。だからパンにぬるマヨネーズに、今日はマスタードなしね。あと赤色レタスもきらいだから、サラダにつけてもぜんぜん食べなくって…くやしいから、ピクルスにして忍びこませたわ。すっぱいのは、ちょっとだけ食べるから。でもすっぱすぎるとやっぱり手を出さないし、ピクルス液のちょうせいにはうんと気をつかったのよ。それにね、たぶん形がのこってても食べないから、元の形がわかんないくらい千切りにしてるの!」
「……フィオルン」
「でも一番がんばったのは、カムカムラディッシュ! もうシュルクったら、すっごく体にいいのに、何がなんでも食べないんだから。こうなったら、どんな手を使ってでも食べさせようってきめたの。でねでね、どうしたかって言うと、皮の赤い色が見えなくなっちゃうくらい、みじんぎりにして、ブラックキウイの入ったヨーグルトソースにほんのちょっぴりずつまぎれこませたの。まさか別のものが入ってるとは思わないし、もし気づいても、ぱっと見たかんじはオドリンゴにしか見えないはず! ふふっ、今日のじしんさくよ。おにいちゃんもいっぱい食べてね。これでもだめなら、さいしゅうしゅだんはホットサンドしかないわ。バターたっぷりぬったくれば、いくらシュルクでも食べるとおもうし」
「フィオルン、あのな」
「…………カムカム、ラディッ、シュ?」
 止まらないフィオルンの舌をどうにか制そうとしたダンバンの声をすり抜けて、どこか掠れたような別の声が、室内に響いた。そのか細い声に聞き覚えがあるのか、はっとフィオルンが顔色を変える。そして勢い良く顔を玄関のほうへ向けると、声もなく息を呑んだ。
 木漏れ日のようにふわふわとした色の金髪に、折れそうに細い体。そして今は、空でもない海でもない花紺青の瞳を、限界まで見開いている。玄関口に青褪めた顔で立ち尽くしているのは、むしろ凍りついているのは、見紛いようもない本日のお客さま――シュルクだった。
 しばし、空間が沈黙で満たされる。誰も何も言おうとしないし、また動こうともしない。まるでお互いの間合いを探り合っているようだ、とダンバンは現在の状況を真剣勝負のように認識していた。そして防衛隊員である彼は、このような事態の膠着が長時間には及ぶまいと読み、それは外れなかった。
「シュルク……」
「……フィオルン」
 フィオルンが泡立て器を手にしたまま、椅子からふわりと床へ飛び降りる。長すぎるエプロンの裾を踏まないよう、ドレスのように端をつまんだ彼女との距離が縮まることで、シュルクは一瞬びくりと体を強張らせた。
 そんな相手の反応に、フィオルンは咄嗟に悲しげな顔を見せるも、すぐに腹を括ったのか悲壮にも思える口調と表情で、一歩ずつシュルクに歩み寄る。
「シュルク。あのね、カムカムラディッシュはとっても体にいい野菜なの」
「……うん、知ってる。前にフィオルンが、おしえてくれた」
「そうよ。使いかたによっては、お薬になるくらいだもん。食べると体がげんきになるの」
「た、食べなくたって、僕はげんきだよ……? ごはん、ちゃんと食べてるから」
「うそ。知ってるのよ、どうせおうちに帰ったって、食べるものなんて、てんでないって」
「……だって、ディクソンさん、いそがしいし」
「ほら、ごらんなさい。だからちゃんと、うちで食べていきなさい」
 重々しく説明しながらフィオルンが一歩近づけば、こわごわ返しながらシュルクが一歩後ずさる。お互いの間に横たわる距離を一定に維持したまま、幼い二人は対峙を続ける。フィオルンはひたすらにシュルクの体を思っての行動なのだが、相手の野菜嫌いは筋金入りときている。その上、目の前で嫌いなものが入れられている現状を全力で説明されて、シュルクがおののかないわけがない。
 敵へ手の内を全部明かしちゃあまずかったなフィオルン…と二人の動向を側で眺めながら兄はそう思うが、今更どうしようもない。
 なおもフィオルンは説得を試みるが、シュルクの体は後退を続けるばかり。やがて、少年の踵が玄関の桟にこつんと触れた。真剣に見つめてくるフィオルンへ、彼はおそるおそる声を投げかける。
「でも…でも、あれ、ぴりっとするよね?」
「そうだけど。今日はヨーグルトソースにまぜてるから、そんなことないわ」
「それに。あれ、食べたとき、しゃりって、するよ……?」
「しゃりってするわよラディッシュなんだから!」
 ここまでずっと、相手を労ろうとしてきたフィオルンも、どこまでも逃げ腰のシュルクに、とうとう我慢の限界がきたらしい。どかんと噴火し声を荒げると、全力でシュルクに向かって駆け出した。しかし相手もさるもの。それともフィオルンの声を合図と判断したか、彼女がスタートを切るのと同時に、シュルクも身を翻して外へ逃げ出した。
 声にもならない悲鳴を上げるシュルクを、フィオルンは全速力で追いかける。妹のかけっこの実力を知っている兄は、室内から玄関先へと移動する僅かな間にも、シュルクは確保されてしまうだろうと思っていた。ところが、ひょいと表へ顔を出してみると、視線の先では予想外の展開が発生していた。

 今にも泣き出しそうな涙目になっていたシュルクの顔が、ふいに、ぱあっと輝く。眼前にとある人物を認めたからだった。そうして猛追から逃れるように、その人物の影に逃げこむと、フィオルンの足も思わず急停止した。間に人を挟み、なおも対峙を続ける子供二人の動向が、よく分からないのだろう。被保護者と同様、昼餉のお相伴にあずかろうとやってきたディクソンは、自身の後ろへ必死に隠れようとしているシュルクと、追跡者たるフィオルンを見比べながら、あごヒゲをいじる。
「ああ? 何やってんだ、お前らは」
「シュルク! こら、待ちなさい!!」
「うわああぁぁぁぁん!」
 事情を説明する気など一切なく、フィオルンが泡立て器を振り上げて再び走り寄る。そしてシュルクはどうにかして野菜を免れようと、ディクソンを盾にして、逃げ回る。結果。大の大人を中心にして、子供二人が円を描きながら果てのない追いかけっこを展開することとなった。幼い子ら当人にしてみれば緊迫しきった切実な戦いなのだろうが、それは大人の目には、何とも微笑ましくも可愛らしい、子リスじみたじゃれあいでしかなかった。事実、どうにか笑みを抑えようとしているダンバンの口角が引きつり始め、そろそろ限界が訪れ始めている。いっそのこと大声で笑い出したいくらいだったが、そんなことをしては、妹が盛大にへそを曲げるのが目に見えている。
 だから兄は、押し殺した挙句微苦笑のようになってしまった表情のまま、なおもわあわあと賑やかな現場へ、ゆっくりと歩を進めた。


 永遠にも思えた子供らの堂々巡りは、保護者二名の介入により、ようやっと終焉を迎えた。ダンバンが小さく『バターになるぞ』と言いながらフィオルンを抱き上げると、それへ合わせるようにディクソンもシュルクの首根っこをひょいと軽く摘み上げた。子猫でも持つような手つきだった。
 しかし当然のことながら、これで全てが丸くおさまるわけもなく。子供らはそのまま、保護者付き添いのもと食卓へと連行されたが、その途中で遂にフィオルンが泣き出してしまった。せっかくの自信作を嫌がられたことや、逃げられたことや、色んなものが積み重なりすぎて、感情がぐちゃぐちゃになりそれらが涙として溢れ出したらしい。そうなると、つられたようにシュルクまでしゃくり上げ始めてしまう。こちらは自分のせいでフィオルンを泣かしてしまった負い目や、それでも野菜が嫌だとかいう理由の涙らしかったが。
 席についても二種類の涙が止まることはなかったが、横で保護者二名は冷静に情報交換を交わす。実質、ダンバンがここへ到った原因などを説明するだけだったけれど。いきさつを聞き、ここまでの状況がやっと理解できたディクソンが奥歯の見えそうなほど大笑いすると、今度はフィオルンがそれに対して泣きながら怒り出す。ご近所へ響き渡りそうな笑い声と、涙まじりの怒った声が入りまじり、食卓は混沌としてくる。
 この事態をおさめたのは、混沌の最中、ぽつりと呟かれた『おいしい』というシュルクの一言だった。

 走り回り、大声をあげ、涙まで滲ませるうち、いくら食の細いシュルクとはいえ疲れ果てて空腹をおぼえたらしい。そろそろと指を伸ばし、手にしたクルイモペーストのサンドイッチを小さくかじることで、その声が思わず漏れた。それはフィオルンにとって、何より魔法の言葉だったらしい。少しずつとはいえ、シュルクがはくはくと食べ進めるさまに、赤くなった目をぱちくりさせると、見る間に泣き腫らした顔へ笑みを咲き乱れさせた。そのあからさまな変わりように、ないたカラスがなんとやら、と胸の奥で呟いたダンバンもつい吹き出してしまい、ここにきてようやく彼は声に出して笑った。
 笑いは伝染するもので。あちらもこちらも、次々に笑い出すと、最後にシュルクが照れくさそうにへにゃりと眉を下げ、ぽろりと零れるように笑った。そうして食卓は温かな笑い声に満ち、和やかなお喋りと共に人々の指は盛んに皿を行き交い、フィオルンが夢見ていた通りの食事風景が実現した。
 シュルクには不慣れな、フィオルンには懐かしい、そしてこれから先長く続くことになる、ごくありふれた日常の詰めこまれた。






おまけ:

「もう。こんなことばっかりしてたから、すっかり料理の腕が鍛えられちゃって」
「……お陰でクルイモは食べられるようになったよ……」
「それでもカムカムラディッシュは、いまだに駄目なのだな」
「マシにはなったんだぜ? 一応」
「……俺も実は苦手だから、あまり強くは言えんな」
「取り敢えず、あなた達の小さい頃は、これでよぉく理解できたわ」
「うんうん。フィオルンはいいお嫁さんになるもー」
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