とまり木 常盤木 ごゆるりと
ひねもすのたのた
あの方は日本人ですよね?
先日、ひょっ、と思い立ち。
ある本に予約を入れて取り寄せて、図書館から借りてきたのですけれど。
読んでいて、とてもほっこりしてしまいましたので、ちょっとメモ代わり日記に。
ついつい書き留めたくなってしまうほど、本当に良い内容でした。
いえ、良いというより…かわいらしい。そして、底抜けに微笑ましい。
こいずみやくもせんせを、少し読んでいて。
参考文献にあった、奥様の回想記みたいのに興味が湧きました。
手にしてみると、案外薄くて驚いたのですが、お陰ですぐに読了。
やくもせんせが亡くなられた後なので、悲しいばかりかと思いきや。
読んでいて、つい笑み零れてしまうような出来事がたくさん綴られています。
何でしょう。ずっと一緒にいたから、ということもありましょうが。
奥様の文体が、とてもすてき。
上品な口語体なので、もしかすると口述筆記やもですが。
すらりとして。なめらかで。なよやかで。
ひけらちらすようなことや、てらうようなさまが、一切ありません。
ひたすらに伸びやかに真っ直ぐ。清明に透明。
ただ、あったことを。飾り気もなく、すんなり語るだけ。
静かで、優しい眼差しが、情景と一緒に、目に浮かぶようです。
中でも、咄嗟に『ああこれは書き留めたい』
と、わたしを思わしめたのは、ご夫婦の会話でした。
やくもさんちの言葉は、少し風変わりで。
『ヘルンさん言葉』という独特の言い回しを用いてらしたそうです。
日本語です。ちゃんと日本語なのですけれど、ちょっと違う。
単語を短く区切って、てにをは、省いて会話されてるのです。
いくらやくもせんせとはいえ、流暢にすらすら話すのは難しいのでしょうか。
けれど逆に、このヘルンさん言葉のお陰で、ほのぼの度が天井知らずです。
大意はしっかり通じますし、日常では何の問題もないでしょう。
ただ、日本人から見ますと、その言葉遣いは。
どこか小さな子供のような…たどたどしさがって、大変、かわいらしく響きます。
いっそ全部書き留めたいくらいなのですが、それは控えて。
幾つかメモしておきますね。
ただ何となく、悪いことのようにも思えますので、こそりと隠しておきます。
・お寺に住みたい
ご家族でお引越しをされた時。家のお隣が、せんせ好みのお寺でした。
すっかりお気に入りで、散歩しながら、よくこんなお話を。
「ママさん私この寺にすわる、むつかしいでせうか」
「あなた、坊さんでないですから、むつかしいですね」
「私坊さん、なんぼ、仕合せですね。坊さんになるさへもよきです」
「あなた、坊さんになる、面白い坊さんでせう。眼の大きい、鼻の高い、よい坊さんです」
「同じ時、あなた比丘尼となりませう」
・ある意味天然の策士
絵の展覧会がお好き。絵描きさんのことは分からなくても。
気に入った絵がみつかると、値段が高くても、安い安いと欲しがって。
「あなた、あの絵どう思ひますか」
「おねだん余り、高いですね」
「ノー、私、金の話でないです。あの絵の話です。あなた、よいと思ひますか」
「美しい、よい絵と思ひます」
「あなた、よいと思ひますならば買ひませう。この価まだ安いです。もう少し出しませう」
・きっと良いお友達となりましょうに
新聞に載っていた、西洋風嫌いの華族のご隠居話に興味津々。
ランプは嫌だから行灯。奉公人には江戸時代風の格好をさせる徹底ぶり。
「如何に面白い。しかし、私大層好きです、そのやうな人、私の一番の友達、私見る好きです。その家、私是非見る好きです。私西洋くさくないです」
「あなた西洋くさくないでせう。しかし、あなたの鼻」
「ああ、どうしやう、私のこの鼻、しかしよく思ふて下さい」
ちょっと短くしちゃった所もありますが…だいたいこんなです。
しかも全編通してこの調子ですよ!微笑ましくてなりません。
他にもたっぷり、素敵なお話満載。
お家の中に満ちていたでしょう、やわらかい、やさしい空気がいとおしい。
しかもご家族だけでなく、女中さんも一緒になって、笑っていたり。
ああ、毎日が快かったのだろうなあ、とほんわかしてしまいました。
もっぺん読んでおこうと思います……。
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