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とまり木 常盤木 ごゆるりと

ひねもすのたのた

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冬将軍との一騎打ちにおける騎馬は恐らくこたつ


寒い。さむ。あの。さむい。
週間予報の最低気温一桁行進におののく今日この頃。


とうとう、一番厚手のコートを出してきました……。
そしてお布団には遂に電気毛布が出陣しました。
寝床に関してはもうこれで防寒最強装備です。
冬なんて。ああ冬なんて。
日は短くなるわ寒いわそして寒いわ。
あっ、でも雪までいっちゃうと逆に好感度が上がります。
珍しくてテンションあがって寒くなくなる瀬戸内民です。
あとは……そうですね、お鍋とジャンドゥーヤとこたつもありますし。
まあ今日はこのくらいでかんべんしといたろうという心境です。
でもさむいです。

気温が下がるとあと何が困るって、キィ打つ時ですね。
手が冷えて冷えて、かじかむ指でタイプミスの目立つこと。
そういや以前、あまりの寒さに耐えかねて手袋装備しました。
お察しの通り凄まじい打ちにくさで、即座に脱ぎ捨てましたが。
うっすーい手袋なら良いのやもしれませんね。
ただそうなると防寒の役に立たないのでは疑惑で本末転倒に。
取り敢えず今日は首元が冷えてならないのでマフラー装備です。
ええこの日記を書いている現在もです。
いやその…もう春まで鎖骨は出さないと誓ったのですが……。
着ていた服のお首、確かに長いものの、少したわんでいて。
ちょっとだけ鎖骨らへんが出てしまうのです。よって冷える。
対策としてマフラー巻いてみましたら、あったかくてもう。
傍目には壮絶にアホに見えるということは自覚しています。
ぬくい…マフラーちょうぬくい……エアコンという選択肢はありません。
だってこんな季節からエアコンつけちゃうと後が怖いです。
その調子で、どうやって二月とかを乗り越えるの……。


ひたすら寒さにぐちぐち言いつつも、お話はのっけます。
二十一個目です!
前の十個の反省からか、急に題名が短くなりました。極端。
ほんと上手に題名をつけられる方って尊敬します。
――今日のお話は、ちょっとだけ、実話。









『あのあお』

 最初は大きな巻き寿司に見える。けれどすぐ、どちらかといえば大蛇に呑まれた人間と思える。そうして結局、実際は不貞腐れて布団にくるまり細長い先端から顔を覗かせている幼子の姿だと分かる。
 敷布団の上でうつぶせになっている、ちくわ状の少女へ、ころりとぶーちゃんIIは近づいた。
「……ましゅうこを見たの」
 真正面にやってきたこぶたが問いかけるより先に、桃代は呟いた。布団の端から頭と手だけを出し、二つの握り締められた拳の上に顎を乗せたまま、シーツの表面に這わせていた視線をぶーちゃんIIへのそりと上げる。
「ましゅうこ。知ってる?」
「確か、北のほうにある湖だよね。寒いところの」
 特に悩むこともなくすんなりと答えるぶーちゃんIIに、問いかけた桃代のほうが、やや驚いたように目を見開く。告げられた内容に加えて、これっぽっちの渋滞もなく返されたその早さも、少女には意外なものだったらしい。感心した様子で、溜め息まじりに漏らす。
「ぶーちゃんIIは、物知りなんだ」
「知り合いの子に聞いたことがあるだけだよ」
「けんそんね」
「いやいや」
 控えめな熱を帯びた尊敬の眼差しをぶーちゃんIIに向けるも、とうのこぶたは否定しながら左右にころころと体を揺らす。それが照れの表現らしいと桃代が知るのは、もう少し後になってからだった。
 自分が語りたいものについて、存分に語りあえる相手を得ることは、桃代にとって非常に喜ばしいことだった。けれど少女は同時に、自身が直面している問題を改めて突きつけられた気もして、顔を曇らせる。その暗雲は表だけでなく胸の内にもたちこめているらしく、不穏な色をした重苦しさに引きずられて、また桃代の視線はシーツに落とされた。
 手に取れない、あやふやな澱みを少しずつ桃代は吐き出そうとする。


「―…テレビでね、ましゅうこを見たの」
「うん」
「あたし、初めて見た。凄くびっくりした」
 緩く返される相槌に促される形で、桃代は語り始める。けれど当初、滑らかに流れ出したと思われた声は、すぐに滞ってしまう。話したくない、ということではなく、むしろ話したくなりすぎて桃代は密かに困っているくらいだった。
 言いたいことは沢山ある、だからそれらを正確に伝えたい。そのために幼い少女は、自分が使える語彙の範囲で、可能な限り適切な言葉を選び抜こうと苦心していた。喉の奥に低い唸り声を押しこめながら、しばらく難しい顔で眉間に皺まで寄せて考えこみ、そうして桃代はようやく言葉を捕まえた。
「あんまり、凄まじい色で」
 寝転がったまま、ぶーちゃんIIを見上げる。
「あおくて、あおい、もので」
 細かく声を区切り、そろそろと慎重に一言一言を選ぶさまは、踏み出す道を誤らないよう伸ばした爪先で地面を探りながら摺り足で進んでいるようだった。
 直接に目撃したわけではなく、テレビを介してとはいえ、桃代は世にも稀な不思議の湖、その神々しいまでの偉容に初めて接した。あまりの姿に思わず絶句し、全身を駆け抜けた衝撃とこみあげる昂揚を思い出すだけで、桃代は今でも頬が熱くなるくらいだった。脳裏に押し寄せる圧倒的な青さに襲われ、目の前がちかちかするほどの興奮へ再び身を任せる前に、少女は青菜に塩とばかりうなだれてしまう。
「言葉が、追いつかなかった。こんなこと初めてだった。言いたいのに、伝えたいのに」
 湖だけでなく、自身の心についての経緯も、的確に表そうと桃代は迷いながら布団の中で身じろぎする。
「あたしの持ってる言葉じゃあ、全部を表現できなくて。しかも、すぐにはできなくって。一部を表すのだって、とても時間が要りそうだった。だから考えた。どうしたらこの湖を、きちんと言葉にできるか、って。そしたら……」
 時折つっかえながらも進みだした歩みが一度、ひゅう、と息を吸いこむ音でまた途絶える。それと同時に桃代は全身から力を抜き、くずおれるようにこうべを垂れると、完全に突っ伏した。
「お父さんが、『きれいだな』なんて言って。あたし、物凄く、怒っちゃったの」
「――うん」
 顔面を息苦しく覆う布団よりも柔らかな声が、少女を包んだ。

 話の先や詳細を気忙しく聞きだそうとするのではなく、ただ淡々と耳を傾け続けるぶーちゃんIIの声こそが、最良の道標だったのやもしれない。小さなこぶたの小さな返事に導かれ、桃代はさっき綿の海に沈めたばかりの顔をはじかれたような勢いで起こすと、明らかな怒りで見る見る赤く染まってゆく頬もそのままに、荒々しく口火を切った。
「単純すぎるでしょ!? 『きれい』って何『きれい』って! あ、あんなにも言葉の追っつかない、ありえないほどすぅ…すうこう? な、ものを、そんなてきとーな言葉で表現しようとするだなんて、信じられない!」
 語るほどに、抑えこんでいた感情がぐらぐらと煮えたぎってきたのか、いかにも激した様子で桃代は眉を吊り上げる。言葉を区切るたびに、自分の拳を布団に叩きつけては小刻みな合いの手にする。
「別にあたし怒ってないよ!? ただね、あんなつまんない言葉でくくられちゃって一度とはいえ平凡な形にはめられちゃうことが、あたしより何よりましゅうこに対して失礼だって言ってんの!!」
 布団の巻き寿司から、いつの間にか胸の辺りまで這い出した体勢で、桃代は湯をくぐった海老のような顔色で叫んだ。溜めこんでいた不満を矢継ぎ早にぶちまけ、頭に血がのぼりすぎたのか、肩で軽く息さえしている。
 これだけ存分に言い募れば、さぞかし清々しくなるものだろうに、歯切れ良く言葉を締めくくった途端に桃代はまたも顔全体でシーツに口づける。憤激の燃料が底を払ってしまったのか、いかにも力尽きた、とばかりのさまだった。
 崩れ落ちたまま、ぴくりとも動かない桃代の更に側へ、ぶーちゃんIIは小さく転がり近づく。その気配を察したのか、唇を布団にほぼ塞がれたままの状態で、桃代は不明瞭な声をごにょごにょとくぐもらせる。
「……あたしが言うのに、びっくりして、謝ってた。お父さん」
「うん」
 数時間前の光景が瞼の裏へ鮮やかに蘇りすぎて、その際立った彩りに、桃代はかえって自分がどんよりと濁ってゆく気がした。
 秘めた快い熱狂で仰ぎ見ていた崇高なものを、汚されたように思ってしまった。必死に相応しい言葉を探し、綺麗に飾ろうとしていた前で、ありふれた言葉がべちゃりと無遠慮に貼りつけられた。桃代の目に、むしろ耳に、その行為は破壊的なものとして受け止められた。
 怒りと悲しみがないまぜになって、半べそをかきながら声を荒げる自分へ、珍しく驚きの表情をあらわに目を丸くしていた父。布団の上でぶーちゃんIIにしてみせたような、ある程度きちんと筋の通った説明を、父にはできていないという自覚が桃代にはある。あの時の自分は様々な感情が荒れ狂いながら混線しすぎて、途中からは本人も何を言っているか分からなくなる始末だった。だから父が投げつけられたものは、ただの怒鳴り声だと思っている。
 癇癪を起こして喚き散らし、戸惑った様子の父を、わけも分からないまま謝らせた。まるで子供だ、と、子供は己を恥じた。

「きみは言葉を、とても大切にするよね」
 遂に口を噤んでしまい、自力で布団を掘って埋まろうとするように額をぐりぐりとシーツへ押しつける桃代へ、ぶーちゃんIIは静かに語りかける。彼の声にそっと制されたように、桃代はその煩悶と苦悩の滲み出る動きを止めた。
「形が音にせよ、文字にせよ、言葉は何かを伝えるものだから。きみは他の誰かへ伝えることに対して、物凄く誠実なんだと、ぼくは思う」
 娘でも父でもない視点から、ぶーちゃんIIはこぶたの意見を粛々と述べる。黄色い彼が促したわけでもないのに、桃代は赤くこすれたあとの残る顔をのろのろと起こす。布団から見上げるこぶたの、黒く深いビーズの瞳と、目が合った。
 よろめきながら、言葉が歩き出す。
「……言葉を、大切に使ってないのが、嫌」
「うん」
「むしろ、大嫌い」
「うん」
「でも、そんなこと言ってるあたしが言葉を酷く使って、お父さんを傷つけたのが、もっと嫌い……!」
 息苦しそうに顔を歪め、今にも泣き出しそうになるのをへの字にした口でこらえ、細く声を絞り出す。けれど、いくら押しとどめようとしても、見る見るうちに潤んでくる視界はどうしようもない。とうとう唇を噛んでまで嗚咽を呑みこもうとする桃代のもとへ、ぶーちゃんIIは軽やかに転がり寄り、何気なく少女と額を合わせた。
 ふわ、と訪れた柔らかい感触に、零れかけた涙が、なぜだかせき止められる。優しい手の代わりに円い体全部で、よしよしと撫でられたようだった。
「言葉で表すのが、苦手な人もいるんだ」
 これ以上ないほどの至近距離で、諭すようにぶーちゃんIIは低く囁く。
「それが分かっただけでも、良いと思うな」
 責めもせず、なじりもせず、ぶーちゃんIIは朗らかにただ笑う。引き締めようとするあまり、強張りかけていた口の端を震わせながらほどくと、桃代は身を守っていた布団を蹴り飛ばし、両腕を使って目いっぱい眼前のこぶたを抱き締めた。


 幾度も鼻をすすり上げながら、太巻きから抜け出した桃代は横たわったまま、長い間ずっと天井を見上げていた。その傍らには、かつて海苔の役目を果たしていた掛け布団が、責務から解き放たれて力なく放り出されている。
 仰向けになっている間、ぶーちゃんIIへ黙々と頬ずりを続けていた桃代が、ひとまず満ち足りたのかゆっくりと口を開く。
「……謝る」
 腕の中にあるぶーちゃんIIへ視線を落とし、不満ではなく気まずさのために唇をむっつりと引き結ぶ。目元がうっすら赤いのは、手の甲で乱暴に拭ったためだけではないようだった。非常に言いにくそうにしながらも、訥々と、少女は覚悟を固める。
「きちんと、説明して、怒ったのをお父さんに謝る」
「うん」
 言葉は相手をねじ伏せるための武器ではなく、伝えて考えを分かちあうための媒体だと桃代は思っている。だから間違った使い方をしてしまった言葉を、元の形に戻すために努力をしなければならない。決意を伝えた桃代へ返されたいつもと変わらない相槌が、今はどこか、笑みを含んで少女には聞こえた。抱えられたまま、こぶたは満足げに、ふるふると頷く。
「言葉を大切にするのなら、それこそ伝えなきゃ、だもんね。良いんじゃないかな」
「でしょ」
 胸の内で考えていたままのことを、ぶーちゃんIIも口にする。すっかり見抜かれていることを感じながら、それが快くもあり、桃代は小さくはにかみながら応じた。
 起き上がり、抱き締め続けていたこぶたを優しく寝床へ下ろすと、居住まいを正す。そうして、ぶーちゃんIIへ正座で向きあい、桃代は静かに深呼吸をする。どんな順序で、どんな表現で、さっき自分のやらかした行いを説明するのか作戦を立てているらしい。
 やがて策が固まったのか、少女はこぶたを見下ろした。
「じゃあ、行ってくる」
「いってらっしゃい」
 やや緊張した声と面持ちで布団から立ち上がり、ふすまの取っ手に指をかけたところで、何となく桃代は振り返ってみた。すると、こぶたは依然そこにいて、真っ直ぐに少女を見守っている。自分が見ていようがいまいが、ぶーちゃんIIは常にあるのだと改めて実感し、桃代はそっと背中を押された気がした。変わらずいつでも支えられているような、たまらない安心感に包まれて桃代は踵を返し、自分で火種を撒いた戦場へ赴こうとする。
 そんな時に。ふと、ある疑問が頭を掠めた。
(―…言葉で表すのが苦手な人は、一体どうやって伝えるの?)
 すらりと音を立ててふすまが引かれた。
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