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とまり木 常盤木 ごゆるりと

ひねもすのたのた

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まるで自分を相手のぐるぐる円環おいかけっこ


きゃー。前回の日記で二十一個目でしたのに、いまも同じ場所ですよ。
一応、走り終わってはいるのですけれど。まだ手を入れないと。


性懲りもなく、本日も再開習作百話のっけるのですが。
うわあこのペースだと追いついてしまいます。
ストックを。吐息のようにそっとストックをください。
いやくださいでなく自分で作らなければうおおお。
うう、この二十一個目、書きたかった内容ですのに。
動きに乏しいくせ、長くなりすぎています。
どうにも少し、お話に振り回されている気がします。
きちんと制御しなさいとあれほど。

とはいえ、どのお話も、みんな、書くのが楽しみなものです。
ネタが枯渇しないで、続いているから言えることやもですが。
どれもこれも、ああ書きたかったのこれ、と思えるのは幸せなこと。
次に控えているものだって、わたし早くかかりたいのですよ。
これも書きたいことが、あれこれ含まれているのですから!


今回の十二個目は、異様に長い題名でお送りします。
よろしければ、続きからどうぞです。









『真夜中の邂逅とその対処に関するこどもとこぶたの方法序説』

 夜の闇にぱっちりと見開かれた目は、見慣れた姿から九十度ずれた室内を、淡々と見つめる。つまりはベッドへ、直立不動の仰向けではなく横向きに、幼子は寝ている。
 少年は年の割に落ち着いている子供だったため、むしろ「落ち着きすぎている」とさえ言われるほどだったため、眠れぬ夜に恐れを抱くことはなかった。怯えなど欠片も見せず、冷静に状況を分析する。
(外はまっくらでつまり夜。音が何一つきこえない夜というものを僕は初めてけいけんした、ということは、この夜はこれまで僕が知ってきた夜の中で、もっともおそいものだと考えられる)
 まだ小学校にも上がっていない墨人が、一人きりの暗闇をちっとも恐れないのは「くらいのは部屋の電気が消えるのと同じで物の場所が変わるわけではない。よっていつもの部屋と変わらず、ただくらいというだけなので、何も恐がるようそはない」という結論を即座に導き出して把握し、てきぱきと次の分析に取りかかったためだった。
 少年は、ますますもって考える。
(僕がこんな夜までねむれないでいるのは、おひるねが長すぎたからだ。人間がねむれる時間は決まっている。明るいうちに寝すぎたら、暗くなってから寝られないのは、当たり前のことだ)
 ここまで考えて、次々とあぶくじみて浮かんでくる疑問たちを、納得のいく答えと共に叩き潰してゆく。そうして墨人は至極、安らかな気持ちになる。どこか誇らしい気さえして、満足したようにゆっくりと目を瞑る。それから、ちっとも重たくならない瞼をゆるゆる押し上げて、随分と緩やかな瞬きを一度した。
 次に開かれた目の前には、円いこぶたがいた。
「やあ、こんばんは」
 その上、あろうことか、こぶたは口をきいた。


 墨人は無言だった。けれど、考えた。目の前の影へ釘づけになって、限界まで見開いた目をそのままにして、考えた。それはもう、物凄い、大変な勢いで考えた。
(さっき目を開けていた時にぶたはいなかったけれどまばたきをしたらぶたがいた。僕はぶたを持っていないから部屋にぶたはいないなのにぶたはいるつまりおかしい。更にぶたがしゃべったしかしぶたはしゃべらないものだやっぱりおかしい。あいさつをされたらあいさつをするのがれいぎだけれどぶたにもするのか僕は知らないからわからない。――いやそもそもぶたがしゃべるなら中に機械が入っていてそこから音が出ているかのうせいがあるのではないか)
 いつものように、すぐさま綺麗に、答えを数行でまとめることができない。絡まりあった細い刺繍糸のように、くちゃくちゃの団子を作ってしまう自分の考えに苛立ち、墨人は幼い眉間に皺を寄せた。けれど、その年齢に不相応な動作のお陰か、煮詰まりかけた思考の過程で、機械、という案に気づいた。やっと捕まえた手掛かりに思わず飛びつき、更に深く黙考する。
(そうだそのかのうせいはきわめて高い。機械であるならせつめいがつくおもちゃ屋さんでそんなぬいぐるみを見たことがある。つまり僕のけいけんからはんだんしてこれはしゃべっているとさっかくしているだけでありあとあいさつはしなくていい。あいては機械だもの。冷蔵庫にあいさつをするどうりはない)
 それなりに得心のゆくところへ到ったこの意見をもってしても、結局ぶたが部屋にいるという現実の謎は潰せないけれど、ぶたの正体について、考える助けにはなってくれそうだった。
 突然、幼子は掛布団に埋もれていた両手を素早くこぶたへと差し向け、力強く掴んだ。そして、円くて柔らかい、明らかなぬいぐるみの感触など一切気にかけず、何とか内部に指をめりこませようと闇の中で四苦八苦する。内側に機械を抱いているなら、どこかにファスナーがあるはず。そうでなくとも、せめて綿の奥に固い感触を認められればと、墨人は必死だった。そうでもしなければ答えがみつけられない。
 まるでこぶたの中に答えが隠されているのを、掘り出そうとするように。墨人はぎちぎちと皮膚を引きちぎりそうな勢いで、こぶたを引っ張る。
「中には綿くらいしか入ってないよー。たぶん」
 円い輪郭が楕円形になってしまうほど引き伸ばされても、特に痛みを感じてはいないらしく、こぶたはのんびりとした声で話しかけてくる。思わずびくりと体を強張らせて、墨人はこぶたを取り落した。危なげなく布団へと着地したこぶたは、ろくに音も立てない。夜になじんでいるようだ、と墨人は思った。 暗くて色はよく分からないものの、夜がそのまま現われてきたこぶたではないのか、とじわじわ思い始める。ただ、のんびりと転がってきたこぶたがふと指先に触れて、その柔らかさに今更驚き、軽く目を見張った。
 そうして改めて、おそるおそる指を伸ばして、そっと触れなおしてみた。相手は何も言わない。壊れ物を扱うように、優しい手つきで近づき、両手で包む。感触から何か確かめられないかと、好奇心に溢れる指を丁寧に沿わせて動かすものの、やはりそれは、よく分からないものだった。そして墨人は、なぜだかその怪しいこぶたを、そっと胸に寄せた。
 長い、長い無言が夜の中に続いた。
「……ふかかいだ」
「不思議だねえ」
 どこか唇を尖らせるように墨人が呟くと、まるっきり他人事の口調で、不可解な張本人が相槌を打つ。何だか少し腹が立って、それでも嫌な気はしなくて、墨人は胸元に抱いたこぶたへ、軽く顎を乗せた。
「…………ふかふかだ」
 その夜、初めて薄い笑みを口の端に浮かべると、墨人は瞼を下ろした。

 少年が、こぶたから名前を聞いたのは、出会ってから二度目の夜だった。
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