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とまり木 常盤木 ごゆるりと

ひねもすのたのた

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数年越しの夜のつづき


じょいやさー。習作再構築も、二十一個目に入りました。
一応目標は四日で一本なのですが、なんで三日でいけてるの……?


あまり気負いすぎてはいけないと、思っているのですけれど。
無理をしすぎて、後で息が上がってはいけませんしね。
そう。ウサギよりも亀の心意気で。
目標は四日で一本でも、まあ、早くできてしまうのならやむなし。
ただし三日で一本を、絶対の条件にはしません。
そもそもこれ実現しちゃったら月産十本になりますからね!?
本来の遅筆っぷりを思うと狂気の沙汰レベルです。
しかもわたしそのうち、二次創作もしたくなるでしょうし。
四日で一本。それでよし。月産七~八本で優秀ですよ……。
このペースがいつまで続くことやら。
ひとまずあと十本くらいはネタには困っていませんので。
今から怯えておくべきは、後半へ進むにつれのネタ枯渇でしょうか。
でもまあ、それは百本書くと決めた時から覚悟していましたし。
今のところ欲しい方向性のがあったら、少し考えこんで。
すると割りと早めにぽんやり出てきてくれるので、ありがたいです。
けれど現在のペースは、書くほうが速くなっておりますので。
気を緩めず、先回りして設計図引いておいたほうが良さそうです。
……まあ現時点で設計図二十三個目までしかできてませんが!
ぎゃー。いそげー。

と、まあ。そんなこんなでして。
再構築した習作百話、再開にございます。
前回の設定をゆるーくご記憶のまま、読んで頂けると幸いです。
主な変更点としましては。
前回で十名いた人物を、八名に統合。吸収されています。
それに伴い名前の変更や削除が発生しています。
あと人物に名前なしのイレギュラー回が何度か含まれています。
そちらはだいたい単発扱いで、ほぼ繋がりはありません。
でもまあ、基本的に一話完結ですので。
のんびり一回一回、楽しんで頂ければと思います。

眠れぬ夜の。こども、こぶたのお話。
久方振りの十一話。どうぞです。









『眠れぬ夜は悪いことばかり考える』

 重い。
 体でなく、胸が、重い。

 内側に暗雲がたちこめるどころではなく、コールタールの壁が牢獄じみてそびえ立つよう。しかもそれは腹立たしいほど丹念に、とても丁寧な仕事で、分厚く塗り重ねられている。
 胸の内も、視界も、思考も、夜さえも。今の娘にとって、全てが艶のないタールの色だった。床の中でじりじりする間に、世界そのものさえ黒く閉ざされているのでは、と錯覚してしまうほどに。
(眠れぬ夜は、悪いことばかり考える)
 そこにだけ重力が過剰にかかって感じられる胸を下に、うつぶせになっていた娘は、まとわりつく息苦しさから逃れるように横向きへ体勢を変えた。しかし、なおも追いすがる不可視の粘っこいものと縁を切ることはできず、結局眠りの国に見放された娘は溜め息を飲みこみ眉間に深い皺を刻んだ。
 娘は、眠れぬ夜の理由を知っている。知っているからこそ、がむしゃらに抗うこともなく、受け入れようとする。

 失策を犯した。間違えてしまった。その原因は自身にあると、はっきりしている。他の誰にも咎はないし、責の所在は一点集中しているし、転嫁するなどもってのほか。生じた結果も何もかも、一人で背負いこまなければならない。望ましくない事態を引き起こした張本人として、当然のことだと娘は冷静に受け入れていた。
 ただ。そう頭ではっきり理解してはいても、抱き留めきれない感情は、どうしても持て余しいっそ零し、溢れさせてしまうもので。孤高に立ち向かおうとする娘の意志に反して、それらは内側にぐねぐねと、たちの悪いとぐろを巻く。狭い胸の天井から滴り落ちる重たいタールの雫に、息も詰まりそうになる。娘は無意識に、は、と水面から顔を出すように一つ、嘆息に似た呼吸をした。
(―…眠れぬ夜は、悪いことばかり、考える)
 身を沈める冷たい布の海で、娘はもがく。
 同じ言葉を呪文じみて繰り返すことで、思考の筋道を単純にし、「つまりは自分が悪い」と割り切ろうとする。ただそれは、つづら折りの回り道を真っ直ぐに整備し直すと言うよりも、辿り着いた迷路の突き当りで腰を据えようとしている、と言ったほうが真実に近い。出口は遠く、むしろあるかどうかさえ分からない。そして疲れ果てた末に、もういっそこの行き止まりで身を落ち着けてしまおうという魂胆だった。
(眠れぬ夜は、悪いこと、ばかり、考える……)
 自身へひたすら言い聞かせる袋小路でのまじないは、その裏に、唱えることで睡魔をも呼び寄せたいという僅かな願いも含まれているようだった。

 全ては自分一人が悪いもので、責任を負わなければならないもので、だから一人で乗り越えなければならない。断頭台の席は一人用なのだから。淡々と考え続けて、やっと辿り着いたこの答えで間違いはないと思うのに、なぜだか胸苦しさは増すばかりだった。眠りも遠ざかる一方で、睡魔の尻尾さえ寄りつこうとはしない。
 ふと、階段を下りるようだ、と娘は思った。向かう先に終わりの見えない、ただ不穏な暗がりだけが沈殿している階段で、立ち尽くそうとするだるい足を叱咤し、下り続けようとするような。
 迷路からは脱したものの、果てのないことには変わりがなかった。しかも娘の背には、その細い肩へめりこむほどの重苦しい荷が負わされている。知らず知らずに顔をうつむかせ、自身の爪先ばかり見つめながら歩を進めるとしても、それはむしろごく自然なことだった。
 一歩一歩が、酷く気怠い。やっとのことで足を踏み出しても、そのたびごとに重荷はますますかさを増してゆく。
(眠れぬ夜は、悪いこと、ばかり、考え、る)

 周囲の評価は。今後の展望は。机を並べる人々の視線は。そうしてそこから生じるものは、低い囁き、無数の陰口……?

 考えれば考えるほど、浮かんでくるのは胸の内に溢れるタールと同じ、光の射さない色をした言葉ばかり。例え一つ振り払えたとしても、次から次に、細胞分裂でも繰り返すように増殖を重ねてゆく。ああ、荷物が一段ごとに膨張してゆくのはこういう道理か、と娘は特に感慨もなく納得し、乾いた唇を歪んだ形に噛み締めた。
 こんな夜に限って体温のちっともうつってくれないシーツを、伸ばした足でまた乱し、安眠の地を求めて祈るように寝返りを打つ。
(眠れぬ、夜は――)
 背中に、何かが、触れた。

 肩をびくりとさせ、仰向こうとした体を途中で止める。そうでないと、背後にいる何かを潰してしまいかねない、と娘は本能的に思った。そして呼吸一つもしないうちに、『何か』が『誰か』であると、悟る。
 音も気配もなく、突然にそれは現われた。ぎちぎちと粘性の物体で張り合わされたようだった瞼が、素早く察した正体への驚きにやんわりと緩む。咄嗟に浮かんだものは、警戒よりも純粋な驚きだった。やがて一拍遅れてから花開くように湧き出したのは、圧倒的な慕わしさだった。
 円い形をしたものが、転がるような動き。背中へ寄り添う、寝間着越しでも分かる、柔らかな感触。歪んでいた口元が今度はへの字になるものの、その唇を動かす原動力は、先とは全く異なるものだった。

 娘は、だらりと体の力を抜いた。全く気づいていなかったが、床に入ってからずっと、全身をぎこちなく強張らせていたらしい。この夜初めて、押し潰されていない肺で息をできた気がした。後ろの誰かへ凭れかかるでなく、ただ安心しきって背を預ける。声を発さずとも、言葉を交わさずとも、そしてその姿を目にせずとも、こんな夜にやってくる旧くて円い友への信頼は絶大なものだった。
 緊張がほどけると同時に、瞼や胸の裏側に展開されていた世界が、くるん、と鮮やかに引っ繰り返る。
 タールのカーテンに、どうにか指をかけられそうな、ごく僅かな切れ目を見つけた。重苦しい下り階段が軽やかな昇り階段へ向きを変える。行く手に佇んでいた澱みは雷雲じみたその姿を徐々に晴らし始め、日が射しこむのは時間の問題に思われた。
 最初と、状況は何一つ変わっていない。しかし娘は次々に考える。明日になったら、助言を求めよう。頭を下げ、誠心誠意謝罪し、助けを乞おう。一人でできないことは、一人でできないのだから。
(眠れぬ夜は悪いことばかり考える)
 呪いの言葉がほろほろとほどけてゆく。娘の唇と共に。背中の存在に支えられて、娘は夢へ片足を踏み入れながら、ふわりと微笑む。
(けれど――)
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