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とまり木 常盤木 ごゆるりと

ひねもすのたのた

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二月大生誕祭第十二夜


拍手のお返事がちっともできてなくてすみません。
実は現在風邪っぴきで、熱でふりゃふりゃなのです。
どうにか予約投稿で息をつないでいます。
後日、きちんとお返事しますので、申し訳ありませんが、ご容赦ください……。

とうとうおしまいが見えてきましたね。
これは、今回のお祭りで、もしかしたら一番時間かけたお話やもしれません。
語ろうとすると、色々もにょもにょしちゃいそうな、ぷくーんですけれど。
その中でも、数少ない、書きたいなあ、と思っていたお話です。
メインはジェミニさんです。ひいきと言われても否定できません。
思いのほか、予想よりも随分長くなってしまったので、二つに分けました。

是非、歌ってほしいと思ったのですよ。


『あなたと誰かのあまい夜を(前編)』(PXZ。バミューダ号にて)


「せっかくミュージカルスターがお揃いなんだ。自慢の喉をやってくれや!」
 なみなみと満たされたジョッキを片手に、すっかりご機嫌なミスター・ダイナマイトのほろ酔いな提案が、甲板に響いた。

 戦いの日々も小休止。目的地へ辿り着くまでは波に揺られて航海するしかない、と判断してからの時間、異世界弾丸ツアー御一行様(ver.2)は豪華客船バミューダ号のあちこちで、おもいおもいに過ごしていた。
 プールで水遊びなどしてはしゃぐ者もいれば、バーを漁る者もおり、また稽古や手合せに臨む者や料理の腕をふるう者もいた。しかしそれらの時間も一段落し、現在殆どのメンバーは甲板に散らばって、チェアに横たわったりその場に腰を下ろしたりしている。
 そんな最中に、ブルーノの呼びかけだった。水を向けられたとうの本人たちより素早い反応を示し、即座に賛成してみせたのは、プールサイドで女性陣に簡単な型を用いたエクササイズ講座を開いていたパイだった。
「そうね! 異世界の女優魂、ぜひ見てみたいわ」
 世界は違えど、同じ生業ということで、興味も人一倍らしい。ブルーノだけでなくパイからも続けて声が上がったことにより、それぞれにのんびりとしていた他の面々も、まとめて視線を歌劇団一行へ向けた。
 簡易テーブルを囲んで談笑していた歌劇団の四人だったが、投げかけられた要望に対して真っ先に反応したのは「分かりました!」と力強く答えると、どこからともなく取り出したマラカスを手に立ち上がろうとしたエリカだった。そんなシスターを、長い旅を共にしている仲間たちは全方位から「いやいやいや」「それはいい」と押しとどめる。
 歌う気まんまんだったのを止められて、エリカが唇を尖らせながら腰を下ろすと、ジェミニがまあまあとミックスジュースを差し出す。そんな巴里と紐育の二人を見守っていたさくらが、ふと尋ねるように大神へ視線を向ける。
「でも……どうしましょう、大神さん?」
「うーん、そうだなあ……」
 このまま何もせずにいて、期待に応えないのも面白くないし、何より女優魂がそれを許さない。しかし問題もある。敢えてそれを口には出さず話題を振ると、今はモギリ服でくつろいでいた大神が、顎に手を添えて考えこむ。詳細を言わずとも理解してくれている支配人の姿に、さくらはこっそり、小さく微笑んだ。
「日々の稽古は大切だしね、皆の喉のことを考えると、ここで歌っておいても良いだろう。ただ、この船には楽器がないからなあ……い、いやリエラくん気持ちだけ受け取っておくよ」
 楽器がない、のくだりで「あの、これ……」とばかり、おずおずラッパを取り出してみせたリエラへ、大神は丁重な謝辞と辞退を返す。すると、何やら考えこんでいたさくらが、ふとあることを閃いた。
「ジェミニ。あの曲はどう? 紐育の、あの曲なら、演奏がなくても歌えるんじゃない?」
 お・め・ざ・め・ヘイ! ができなくて不貞腐れ気味のエリカをなだめていたジェミニが、突然問いかけられて、えっ、と一瞬戸惑いを見せる。その横で、ややご機嫌斜めになりかけていたエリカも、きょとんと目を丸くした。
「さくらさん。あの曲って、どの曲ですか?」
「ほら、前にエリカさんと一緒に、紐育へ行ったでしょう。あの時の舞台で聴いた、スターファイブが五人で歌う、あの曲ですよ」
「ああーっ! あの曲ですね!」
 ついさっきまで不満そうにジュースをすすっていたエリカが、急にぱあっと顔を輝かせた。さくらに指摘され、すぐさま該当の曲を思い出したらしい。他都市の舞台を観劇できた感動や喜び、それに旅の思い出が蘇ったか、二人でわいわいと盛り上がり始める。たまにさくらが遠い目をしていたりするが。
「でっ、でもそんなっ! 帝都や巴里のお二人をさしおいて、ボクが歌うだなんて……」
「いや、いいんじゃないかなジェミニ」
 先輩二人から推薦を受けたとはいえ、まさかの大役にうろたえて遠慮しようとするジェミニを、大神はやんわりと言葉で支えてから、軽く頷く。
「あの曲なら俺も知っているよ。以前にサニー司令から、舞台の映像フィルムが送られてきたからね。司令ご自慢の星組公演、楽しませて貰ったよ」
「良い曲ですよね、帝都にはあまりない作風で」
「ハーモニーがとっても綺麗な、バラードでした!」
「ああ。それに、あの曲ならさくらくんの言う通り、楽器演奏がなくともいけるだろう。今夜みたいな場合には、おあつらえ向きだ」
「た、確かに、あの曲はフィンガークラップさえあれば、なんとかなりますけど……って、いやいや、あれはスターファイブで歌う曲ですから! ボク、一人じゃあ……」
 三人がかりで説得されて、しかもその中には帝都で舞台演出も手がける大神が入っているとなれば、ジェミニも固辞し続けることができなくなってしまう。ぐらりと気持ちが揺れ、そろそろと妥協し始める。そうなれば、もう一押しだった。残る不安を解消させるため、今度はさくらやエリカが「あたしたちもコーラスで入りますよ」「任せてください!」と、じわじわ包囲網を狭めてゆく。

 そうして歌劇団の面々が一つの卓を囲んでわいわい、あわあわと打ち合わせするのを漏れ聞いて、耳慣れない言葉に神夜が小首を傾げる。
「封印牙亜苦楽符?」
「こいつのことさ、プリンセス」
 その疑問をすぐさま解消させるべく、傍らに寄り添うカウボーイが、慣れた手つきで指を鳴らしてみせる。目の前で実演し「ああ!」と相手を笑顔で納得させながら、さりげなく姫の腰にもう片方の手をかけているが、無限の開拓地から遠く離れた異世界では、ハーケンの行いに狙いの定まった流れ弾をお見舞いするであろう舞姫はいない。それゆえ、油断しきって自然と出た行為なのだろうが、零児は後々のことを見越してか、そっと近くのジャーナリストに頼み、内緒で証拠写真を残させた。帰還時にでも、ファントムに持たせておこうという企みらしいが、調子に乗ったハーケンは気づく素振りもない。
 観客席でも、あれこれと事態が進行している間に、演者側の話は一応まとまったらしい。女優陣がまだ声を潜めて音合わせやら何やらの相談をしている間に、大神はゆっくり立ち上がると、両手を広げて一同の視線を集めてから一礼し、朗々とした声を甲板へ通らせる。
「皆様、本日は一晩限りの、三都歌劇団特別公演へお越しくださり、誠にありがとうございます」
 慣れた調子で上演前の挨拶が始まるのに、レイレイは本物のお芝居が始まるみたい、と素直に感心する。同じ卓を囲んでいるモリガンが、背の高いグラスに差されたストローを指先でもてあそびながら、支配人の板についた口上を褒めると、隣の春麗が支配人は普通劇場案内はしないと思うわ、と冷静に指摘する。
 ダークストーカーズや刑事が論評している間にも、大神は緩やかな口調で、更に続ける。
「公演前に、お客様へお願いがございます」
 大盤振る舞いに高く盛られた油揚げパフェを、どこから突き崩すか匙を迷わせていた小牟が、ほほぅ前説じゃな、と訳知り顔でにまりと笑う。
「この後、お送りするのは紐育歌劇団星組による歌唱ですが、今回は特別公演のため、演奏は……」
 言葉を半ばで置くと、大神はゆっくり、右手の指を、ぱちんと鳴らす。そして幾つかの拍を取ってから、二回、三回、と音を重ねる。
「フィンガークラップのみ、と、なっております。最初に俺がこの間隔で鳴らしますので、お手隙の方は、どうぞご参加ください。その際は、なにとぞ同じ間隔でお願いします」
 観客参加型だと判明し、はしゃいだコブンらが自分たちも指を鳴らしたいと主に訴えるが、構造上の問題で不可能だと告げられる。改造すれば可能ではあるとトロンは言い添えるが、同時にパーツがないことも明らかにし、今回は諦めるよう慰めると、コブンはくすんと涙目ですすり上げた。
「また。曲の途中で、フィンガークラップを停止させる箇所が二つありますが、そこへ入る前には俺が合図をします。同じように、再開する際も合図を送りますので、どうかご注意をお願いします」
 ここまで説明が終わったところで、打ち合わせをしていたさくらから、大神へ向けて手が上げられる。どうやら、女優陣の準備も整ったらしい。大神が視線だけで頷いて返すと、最後にもう一度声を張り、奥からゆっくりと歩み出た人物へ手を差し向ける。
「大変お待たせいたしました。皆様最後までごゆっくり、お楽しみください。それでは、どうぞ!」
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