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とまり木 常盤木 ごゆるりと

ひねもすのたのた

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お誕生日、おめでとうございます


最早、多くは語りますまい。
ゼノギアス。十一回目のお誕生日、おめでとう。


お祝いにも満たないでしょうけれど、短いお話一つを続きにちょろりと。
……本当は続編ぽいの(むしろオチ)があったりですが、今回は除外です。
内容がある意味大変なことになったので、バレンタインにでも。
多分、バレンタインじゃないと、ゆるされそうにないので……(笑)

例によって題名がまだあやふやなままです。
全体含めて、後日きちんと手を入れなおしますね。
中途半端なお祝いの品で申し訳ありません。
けれど、二時間仕事の割には、がんばったと思いたいのです。

お誕生日、おめでとう。
あなたに携わったすべての方が、幸福でありますように。


『10≧1? 10≒1?(十一番目へ至る道)』

 数え切れない。数え足りない。けれど、それでも数えたいと望むなら。

「アベル。どうしたの?」
 『牧羊者』たちの住まう砂漠の宮殿で、自室の床にちょこんと座り込んでいる幼子に、エレハイムは首を傾げながら歩み寄った。常ならば、彼女の姿を見るや否や、全身で喜びを露わにして駆けつけてくるというのに、今はどうにも様子が違う。子供に可能な限りしかつめらしい顔をして、広げた両の手の平と対峙したまま、床に足を投げ出している。声をかけられて初めて彼女が側にいることに気付いたらしく、はっとしてアベルは顔を上げた。
 そして、彼女の姿を視界に入れた途端、子供はいつものように屈託のない笑顔をぱあっと輝かせる。
「エレハイム!」
「まるで、手の平とにらめっこでもしていたみたい」
 ゆっくり彼の傍らまでやってくると、膝をついて、にこりと微笑みかける。彼女の言う通り、エレハイムが声をかけるまで、アベルはまさにそうとしか見えない様子だった。幼い眉間に皺まで寄せて、むむむと口をへの字にして、己の手の平をしげしげと眺めていた。それがエレハイムには、息詰まるにらめっこ合戦、と捉えられたらしい。
 柔らかく微笑みながらもたらされた彼女の指摘に、幼子はにっこり咲き零れるように笑み返すと、ずずいと向かい合う彼女のほうへ身を乗り出す。どうやら、お話したくてお話したくて仕方のないことがあるらしい。
「あのね!僕、『うれしいこと』を数えてたんだ」
「『うれしいこと』?」
「うん!」
 幼子の短い言葉から、どうにも要領を得ることができず、エレハイムはおうむ返しにする。けれどアベルは今にもはちきれてしまいそうなくらい、元気一杯に頷いてみせる。その拍子に、きちんと首筋でまとめられた漆黒の髪が、尻尾のように大きく揺れた。
「今日は、朝からいっぱい嬉しいことがあったんだ!ふわふわやさしい夢で目が覚めてね、お勉強の時間にはカインに褒められたんだよ。おやつは僕のだいすきなざくろだったし、あとあと、廊下を歩いてたら、お庭に小さい花が咲いてたの、一番にみつけちゃった!」
 息せき切って、次から次へと指折り数えながら、幼子は『うれしいこと』を列挙してゆく。法院の面々が耳にしようものなら、鼻で笑うのが目に見えていたが、彼女にはそんなことなどどうでも良かった。この小さな幼子が、きらきらと目を輝かせながら見つけ出したもの。まるで世界のひみつを探し当てたたように、頬を紅潮させて教えてくれるものが、快く思えないわけがなかった。
 この感覚を、カインなら分かってくれるかしら?とおぼろげに思いながら、彼女は口の端を緩める。
「本当に、いっぱいね」
「うん!……でもね、それで困ってるんだ」
「え?」
 紫苑の瞳を緩やかにたわめ、幼子と『うれしいもの』の感覚を分かとうとすると、急に彼が難しい顔をする。またもしかつめらしい顔に逆戻りすると、向かい合うふたりの間に、いっぱいに伸ばした十本の指を広げてみせる。まだ彼女よりも小さい手は、おろしたてのようにぴかぴかで、使い込まれたさまを示すものといえば、絵筆を持つちいちゃなたこが申し訳ばかりにくっついているだけだった。
 幼子は、とんでもない難問に立ちはだかられたように、むつかしい顔をする。
「『うれしいこと』が、いっぱいありすぎて。指が足りなくなっちゃったんだ」
「まあ」
 困りごとの内容を明かされて、彼女は驚いた声を出すが、その口角は止めようもなく上がり始めていた。
 色んなことを勉強中の幼子は、絵にその才能を遺憾なく発揮してはいたものの、数字がまだまだ苦手だった。確実に数を数えるには、己の指を折る作業が不可欠で、十を越えてしまうとこんぐらがる可能性が非常に高くなる。
 噴き出したいような、抱き締めたいような、よく分からない感覚をエレハイムが抱いているとは露知らず、アベルは両手を見つめたまま、サンダルをつっかけた足をゆらゆら揺らす。
「足の指まで足せば、だいじょうぶなんだろうけれど……そっちは折るのが難しいし。十個でまとめちゃえばいいのかな」
「そうね。『うれしいこと』を十個分、ぎゅっとまとめて一つにできたら良さそうだわ」
「ぎゅっと……?」
 嫣然と微笑みながら何気なくエレハイムの放った言葉に、きょとんとアベルが目を丸くする。しばらく瞳をぱちくり見開いて、しんしんと深い黒曜石の奥で、何かを懸命に考え巡らせると――やがて、ぴん!と光が煌いた。それは、さながら超新星。
 幼子は開いた両手を急に伸ばすと、目の前の彼女へ、幼い腕の叶う限りに『ぎゅっと』抱きついた。

 突然のことに、声もなくただ硬直してしまっているエレハイムへ、彼女の腰にきゅう、とくっついたままアベルがにっこりと見上げてくる。
「これで、おっきい『うれしいこと』が一個になるよ!」
「……どうし、て?」
「ちっさい『うれしいこと』十個と、エレハイムに一回ぎゅっとすることは、おんなじだから」
「私に、一回ぎゅっとすることは、おっきい『うれしいこと』なの……?」
「うん!!」
 欠片の曇りもなく微笑む幼子は、『ぎゅってすると、ぎゅってまとまるんだ』と更に説明をするものの、彼女の耳には殆ど入っていなかった。以前にも感じた、幼子との接触におぼえる陶然とした感覚。まるで背骨が甘くとろけてしまいそうな、恍惚と言っても良い感覚が、津波のように彼女を襲っていた。そして、めくるめく甘さだけでなく、ふいに泣きたくなるものも込み上げる。
(ああ)
 彼女は天井を仰ぎ、こらえかねたように短く息を吸うと、震える指を、そっと、幼子の背に伸ばした。
(『愛しい』)
 ずっとずっと分からないでいた感覚の、真の名前とその意味を、彼女はようやく理解した。


 さあ。おしまい?いえいえ、まだまだ。
 繰り返される邂逅は、いまよりこれより、はじまりはじまり。
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