とまり木 常盤木 ごゆるりと
ひねもすのたのた
『衣摺れからめて攻城戦』
初ぷくーん話をこっそりアップです。
題名はまだちょっと納得いっていないのですけれど。
なのにアップしてしまうという。
……すみません、ここ数日、何だか変に物憂くて。
物憂くて物憂くて仕方がなくて。
投げやりなわけでもないのですが、ついあげてしまいました。
特にひどいネタバレはない……はず。
OPさえご覧になっていらっしゃれば、大丈夫かと。
真面目なお話ではありません。単なる短いネタ話。
気になっていたことを、つらつら書いただけなのです。
メインは鉄拳ペアです! あとは+諸々。
よろしければ、続きからどうぞです。
『衣摺れからめて攻城戦』
「仁は、何か巻かなきゃいけないと思う!」
向かい合うと、突然熱い口調でそう言い切ったシャオユウにも、彼は眉一つ動かさなかった。短い期間とはいえ、同じ屋根の下で暮らした家族同然の少女は、ことあるごとに、あれやこれやと仁に対して口を出してくる。巻きこむまいとしているのに首を突っこんで、今回はとうとう、未知なる交差領域ワールドツアーまで同行させる羽目になってしまった。
はあ、と内心で溜め息を吐くが、それを表に出すとますます唇を尖らせるのが目に見えている。なので彼は静かに呼気を飲みこみ、早く問答を終わらせようと、できる限り短い言葉で応じた。
「……何の話だ」
「OPの話!!」
仁がちらと寄越した視線をがっちり捉え、シャオユウは元気に笑顔で断言した。
あまりにも予想の斜め上すぎた返答に、さしもの若き頭首も咄嗟に返す言葉を失うと、シャオユウはその隙を見逃さず、説明の時間として存分に有効活用を始める。
「ほらOPでさ、格ゲー主人公勢揃いの場面あるでしょ。あそこで鉢巻きしてないのって、仁だけだよ! せっかく格ゲーファン夢の揃い踏みなのに、一人だけ和を乱しちゃってるんだから。だめだよ、仁」
「…………」
「でもね、仁が嫌だって言うなら、私も無理に鉢巻きはさせないよ。それならリボンにするから。できたら赤いのがいいな!」
「待て、シャオ。その発想はどこからきた」
ようやく心身の平静を取り戻した仁が、これは指摘せずにはいられなかったか、更に悪化した要望について出所を求める。しかし、この所ずっと寡黙で通している仁が、素に近い言葉を発した時点でシャオユウはきらりと目を輝かせた。ここまでの反応は、全て織りこみ済みだったらしい。堅固な城の門が開かれた。こっそり笑みを深めると、少女は胸を張って意気揚々と話を進める。
「OPの頭からの流れだよ。主人公組の二人が出て、それから味方勢のターンで、トップバッターが仁たち格ゲー主人公なんだから。ここまでに出てくる全員が、リボンか鉢巻きしてるのに、シャオ気づいちゃった! 小吾郎さんだって、実は大きいリボンしてるんだもん。似合いすぎて一瞬分かんなかったくらいだよ。ともあれ、それじゃあ途中で流れを止めるのはよくないよねーって思うのは、当然じゃない」
「おい。俺たちと主人公組の間に、敵幹部のターンがあるのを忘れているぞ」
「敵はノーカウント!」
至極真っ当な突っこみは、気力十全の勢いで、清々しく却下された。何だこの横暴は、と仁が胸の内で呟く間にも、準備万端だったらしいシャオユウは奥へ向かって大きな声で呼びかける。すると、ただでさえ大人数な異世界弾丸ツアーご一行(ver.2)、すぐさまわいわいと賑やかに人数が揃いだす。
シャオユウの呼びかけに応じて、手に手に品を、口々に説明を携えて、やってきた。外堀は、とっくに埋められていたらしい。
「あたしの替えでよければ、赤いリボンお貸ししますよ」
「私のリボンも赤ですけれど、さくらさんの方が色が濃いのですね」
「やっぱり明るい色がいいのかな…私の黒だから……」
「私も黒よ。細いリボンも可愛いわね……」
「色の種類ならいっぱいあるワケ、皆アタシの袖の中見てみるー?」
「申し訳ありません、マスター。お花なら差し上げられるのですが」
「鉢巻きか捩じり鉢巻きか、好きなものを選ぶがいい」
「親分さんの鉢巻き良いですね! あ、髪飾りとかんざし、どっちにします?」
「リボン装備はファイナルなファンタジーの基本じゃ! ぬしも半分ファンタジーみたいなもんじゃろ」
戦乙女たちのリボン談義に花が咲き、最早布でも何でもないものを持ち寄る切断ガールにお姫様、まだ救いになりそうな悪を断つ剣の提案もあれど、駄狐が横から茶々を入れる。そこへ更に、リボンを持っていない面々も賑やかさに引かれて集まりだし、巴里と紐育の二人がリボンを自分も欲しいと言い出すと、どんなものが似合うかという議論に火が点いた。それはすぐにあちこちへ飛び火し、いつの間にかメンバー全員にリボンをつけようとする女性陣の作戦に発展すると、男性陣が徹底的な抵抗で迎え撃つ。その光景が克明にレポートされ、カメラのフラッシュが目に痛いほど焚かれる。
やがて矛先が元の仁へと戻り、「そんなにリボンを嫌がるワガママな仁には、ねねこの帽子を貸してあげるのだ!」と遂に頭装備なら何でも良さそうな流れになりかけるが、「ジュリのが良いんじゃないかしら。形状的にも」という夢魔の一言で全員の目が覚めた。しかし、持ち主から剥ぎ取ろうとじりじり距離を詰めたり、手練れの連中が包囲網を展開し装着予定者を拘束しようと試みるも、双方の全身全霊をかけた拒否により頓挫する。
最終的に、「……装備品なら」と悪化する事態に歯止めをかけるべく、最大限の譲歩を仁が切り出して、場は一転して大団円を迎えた。よく分からない拍手が自然と湧き起こり、なぜか「よよよいよよよいよよよいよい」で一本締めが行われた頃には、既にこの不毛な会話が幕を上げて数時間が経過していた。
翌日から、仁の手首に巻かれた少し長いダルクス布のリボンがグローブの下からこっそり覗き、その先が控えめに翻っているのを、シャオユウは隣で満面の笑みを浮かべながら嬉しそうに眺めていた。
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