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とまり木 常盤木 ごゆるりと

ひねもすのたのた

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もはやお祝いになりもしないとそんな自覚を


おいわいおはなし。
まさかの前後編。
ぎにゅあ。

ああしかもぐちゃぐちゃ。
すみません、後日ちゃんとなおします。
そして明日必ず終わらせます。
わーんわーん計画なしの甲斐性なしー。

続きに、喫茶仕様の、ネピリムのお話(前編)です!

『そう、恋は。恋は……』


 ある朝、目が覚めると突然、世界がきらきら輝いた。
 空気の一粒一粒が、太陽に射抜かれたシャンデリアの欠片のように、満天下へと華々しく乱反射をばら撒いてみせた。けれどそれは、起き抜けのことに彼女が目を見張る間に、すぐさまどんより曇ってしまった。分厚い緞子で、シャンデリアが覆われるようだった。
 天井に向けてぽかんと見開かれた紫苑色の瞳は、この瞬き一つしないうちに姿を変えてしまった世界に対して、向けられている。やがて、その目はしかめられ、彼女は唇を一文字に引き結ぶと、小さな手で布団の縁を引っ掴み頭の上まで引き上げると、ぽっすり自分を包んでしまった。
 窓の外に小鳥が歌う、爽やかな清々しい朝のベッドに、小振りな白いおもちが現れた。
 おもちの中身は、ネピリムという。


 「起きたくないの」と、ベッドに丸まり、顔も見せずにネピリムは言った。小さな声ではあったけれど、その響きには断固としたものが含まれている。
 普段は早起きで、てきぱき身支度を済ませると速やかに階下へ向かう幼い少女が、今朝は温かな布団にこもって出てこない。いつもと違う様子を、不思議に思ったココアのエリィがおもちを軽く揺すりながら問いかけたのに、返ってきた言葉がこれだった。余りにもいきなりのことで、理由などちっとも思い当たらない同室の対存在たちは、揃って首を傾げる。これが男衆ならば、有無を言わさず弁明など無視で、問答無用に布団を引っぱがし、さっさとベッドから叩き出すのだが。相手がいつも優等生なネピリムでは、そうもいかない。
 無言のまま視線だけで心配そうに意見を交わす対存在たちの中から、ゼボイムのエリィがゆっくりとおもちの側へ歩み出た。ぴったり閉ざされているとはいっても、所詮は布団。ゼボイムのエリィは傍らへしゃがみこむと、そっと布団の隙間から手を差し込む。おもちの中身は、侵入者を特に排除しようともしなかった。やがて、真剣な顔で手を動かしていたゼボイムのエリィは、何かを確認したのか顔を緩める。手を引き抜き、薄く笑みを浮かべて「熱はなし」と言いながら立ち上がるさまに、ニサンのエリィが安堵の表情を浮かべた。
 しかしその一方、ならどうして起きないのかしらと、ココアのエリィが訝る。すると朝日の中で、ここまで沈黙を守り続けていたエレハイムが、鷹揚に告げた。
「寝かせておいて、あげましょう」

 そんな鶴の一声ならぬ、原初の一声で、ネピリムの布団籠城は許可される方針でまとまった。燦々と硝子越しに部屋へ差し込む、力強い日差しもなんのその。ネピリムは白いくせにどこか暗い、ちょっと息苦しい場所にこもりきっていた。ただ、部屋に誰もいなくなってから、そろそろと腕だけを出して、枕元の机からお絵描き帳とペンをおもちの内側に引き込んだ。
 目的の得物を手にするや、彼女は幼い子に可能な限り厳めしい顔をして、ペンを走らせる。狭い空間の中で、もぞもぞと動くさまは、外側から見るとおもちがやや震えるように見えるのだろう。そこはかとなく微笑ましい光景やもしれないが、その内側は、それどころではなかった。
 ペンの動きは滑らかではない。勢いよく駆け出したかと思いきや、すぐに止まり、いらいらと足踏みをするや道を外れて失踪してしまう。そのたび、彼女は顔をつらそうに歪めると、唇を噛んでページをちぎり取る。
(ちがう)
 ペンを走らせれば走らせるだけ、迷走してゆく。目指す行き先がめまぐるしく変わるわけでもないのに、たどり着けなくて、追いつけなくて結果ページはちぎられてゆく。次から次へと捨て去られ、堆積してゆく書き損じたちで、おもちの内部は見る間に埋めつくされていった。それでも彼女は、残り枚数を減らしてゆくお絵描き帳と向き合うのをやめない。
 細い指が、ペンを持つ手に、力をこめる。
(こんなんじゃ)
「ネピリム」
 突如、鳴らされた軽快なノックの音と、ココアのエリィの声に、紙と言葉と布団の間にすっかり没頭してしまっていたネピリムが、はっと我に返る。あまりに書くことへ耽りすぎて、部屋のすぐ外へ誰かがやってきたことにも、全く気がつかないでいた。普段ならば、足音に感づく前に気配だけで察することができるというのに。そのことに、彼女自身が声もなく愕然としていると、返事も待たずに相手は扉へ手をかけたらしい。かちゃり、とノブの回る微かな音がする。もしかすると、敢えて、待とうともしなかったのやもしれない。
「入るわよ」
 扉が開き、自身が丸まるベッドまで足音が近づいてきても、ネピリムはいっかな布団から出ようとはしなかった。ただ、ペンを持つ手はそのままに、空いているほうの手で、内側に引き込んだ布団の端を、きゅ、と握り締めた。言葉を交わす気も、顔を出す気も、なかった。今の彼女は、それどころではなかったから。
 そんなネピリムの対応を、ココアのエリィは特に咎めもしない。ベッド脇へ佇むと、上のほうから覗き込んでいるのか、声を落としてくる。
「ねぼすけなおもちさん。朝ご飯はいかが?」
「……いらない」
「だと思ったわ」
 やや芝居がかって問いかけてから、返事を受けて、すぐに態度を緩く改める。むしろ、普段通りに戻る。せっかくやってきたのを跳ねつけられても、気に留めず、そして相手の拒否も、気に留めない。むしろお互い様なのやもしれない。ココアのエリィは、おもちのお皿にあたるネピリムのベッドへ、くつろぐように腰を下ろした。スプリングの軋む音にまぎれて、何かがベッド脇の机に触れる柔らかい音も鳴る。その音と、自分以外の重みに沈むベッドに反応したか、ネピリムはちらりと紫苑の瞳を布団越しにココアのエリィへ向ける。けれど、警戒を抱かせるほどではなく、適切な距離を保って、相手は座っている。ネピリムはのろのろと、視線を手元のペンへ引き戻すも、ペンが走り出す様子はなかった。
 それでも籠城の態勢は崩さないネピリムに対し、ココアのエリィはいつもと同じお喋りを楽しむように、のんびりと口を開くと、ベッド脇の何かから、何かを取り上げた。かた、という陶器の音に、おもちのあんは外で展開されている光景を、木製のお盆からマグカップが持ち上げられているのだと推測した。
「食べたくないでしょうけれど、少しはおなかに入れないとね。飲み物だけでも持ってきたのよ」
「いらないの」
「そう? せっかく、私謹製のココアなのに」
「! ……いら、ない」
「その上マシュマロまで入ってるの」
「い、いら、ない」
「しかも二つも」
「…………」
 言葉巧みにネピリムへ誘いをかけるココアのエリィから、様々な音が聞こえてくる。耳を澄ましているわけではないのに、ネピリムの望みとは裏腹に、彼女はその一つ一つを的確に聞き分けてしまう。
 木のお盆にまた音。今度は引きずるような。恐らく、上に載っているものを動かして、位置を整えたのだろう。このことから、お盆の上にあるものは、一つきりではなかったと判明する。たぶんそこには、ネピリムのものだけでなく、ココアのエリィのマグカップも載っていたに違いない。その中身が弄ばれるように軽く揺らされる。甘い水音が、くらくらするほど芳醇な香りを伴ってマグの縁から溢れ出し、それは布団の隙間からもそろそろと忍び入る。更に金属が陶器と触れ合うやや硬質な音に、銀の匙で中身を掻き混ぜているのだと知れると、ココアに酔わされたマシュマロがほどよくとろけだす気配さえ感じられた。音の全てが、ココアのエリィの言葉を、真実だと裏付ける。
 頑なに殻を閉ざした牡蠣のようなネピリムにも、それは届く。それでも彼女は拒むように、ぎゅっときつく目を瞑り、また布団も握った。
「………………」
 長いような短いような沈黙が続き、やがておもちの内部が、蒸されたように熱を帯びて。
「…………………いる」
 とうとう、丸められたおもちは、口を開いたかまくらとなり、申し訳ばかりに設けられた玄関から、しかつめらしい顔がのぞいた。ただでさえ色素が薄く、触れればとけそうな雪白の頬が、今は鮮やかな林檎色に上気している。その上、普段は真面目を通り越して無表情にさえ近い面に、今はへにゃりと弱った形に眉尻を下げている。そのどこか家出に失敗して戻ってきた子供のようなさまに、思わせぶりな視線でおもちを横目にしていたココアのエリィは、嫣然と微笑み、もう一つのマグを差し出した。
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