とまり木 常盤木 ごゆるりと
ひねもすのたのた
小さな勝利に馬鹿馬鹿しい快哉すら叫んで
蚊に両膝を刺されました。
膝の形が分からなくなるほど腫れ上がりました。わたしが一体何をした。
しかも現在進行形だったりします。まだ腫れがひきません……。
昔からこういう体質ですが、だとしても両膝に同時攻撃とは初めてです。
かとりぶたくん粛清お願いします。
わたしの血液を狙い、そして得た愚を、己が命をもって知るが良い蚊……!
蚊とわたしの全面抗争は今に始まった話ではありません。
受験生時代に一度きれたことがあります。
かとりぶたくんの煙にちょっと目が痛くなりながら、そのことを思い出しました。
当時受験生なわけですから…まあ、全てにおいてナーバスです。
ただでさえ苛々ぴりぴりしてますのに、そこへ室内の蚊です。
音といい、存在といい、これほど腹立たしいものもありません。
わたしの場合、体質的に刺されるのは確定ですし。
ですから受験生でテンションが多少おかしいこともあり、ある行動に出ました。
蚊との、根競べです。
部屋中の窓や出入り口を全て締め切る→蚊取り線香焚く→充満する煙→その中で勉強→煙に耐え切れなかったほうが負け
わたしがあまりの煙さに勉強を断念して、部屋を退散するか。
蚊が部屋に満ち満ちた煙により、命を落とすか。真剣勝負です。
アホです。
そして当時のテンションおかしいわたしに、
『部屋締め切って煙焚いてしばらく外に出てたら?(簡易バルサン)』
という選択肢はありませんでした。もう色々、それどころじゃなかったのでしょう。
部屋の中が徐々に白く霞み、煙が重なり層としてはっきり目に見えるほど。
白い煙が段々と手に取れそうなほど濃くなってゆくのにつれて。
わたしの両目に襲いくる痛みもその程度を強くしてゆきます。
最初はしぱしぱ、次第にちくちく。
しまいにはとうとう、常時涙が流れるほどに。
そのうち、泣きながら自分が何をしてるのか分からなくなりかけました。
けれでも机に向かってペンを手に、ノートへ立ち向かっていると。
涙と煙でぐちゃぐちゃの眼前に、弱々しくよろけた飛行物体。
思わず気を取られ、きょとんとしながら見つめて。
頼りない軌跡を描く、ふらつきまくった小さな飛行物体。
わたしの視線も同じ航跡を辿った、その果てに。
あえぐように宙を泳いでいたのが高度を下げ、やがて力尽き。
音もなく、わたしのノートの、ど真ん中へ落下。
そこにあるのは、根負けした蚊の、小さな骸。
『勝った』と、涙にまみれながら思いました。
この直後。
凄まじい勢いで部屋中の窓を開放して回ったのは、言うまでもありません。
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