ことばリハビリ

先日の台風が凄かったのです。
その名の通り、殊、『風』が。


今のご時世なら、不謹慎と言われてしまうやもですけれど……。
あの風が。暴風、強風、颶風に突風。
意志を持つように狂乱する風のさまが、嬉しくてなりませんでした。
ので。
思わず、感想文など書いてしまいました。
何してるのでしょうねこのひと。
ただ、上記のように、不謹慎と思われる方がいらっしゃるやもなので。
念のため、続きに格納しておきました。
よしないことを、つらつらと。書きつけただけのリハビリなもの。
お嫌な方はお手数ですが、回れ右をお願いします。

雨もなく。ただ灰色の雲の下。
吹きつけるというより乱舞する。
前から駆け抜けて三つ編みを跳ね上げたかと思えば、返す刃で枝を折り取る。
べしゃりと地面に落着したそれを、今度は無数の木の葉と共に渦巻かせる。
梢から引き離され、その上コンクリートを引きずり回され。
枝に、安堵の時はなかなか訪れません。
仕方がないので、ひょいと拾い上げて、木の根元まで連れて行きましたが。
あの様子ではすぐに風の追撃を受けるでしょうし、時間の問題やもです。
しかも、枝を拾ったのは、ただの親切心ではないのです。
枝の青葉が、あまりにつやつやとしていて、触れたくてならなかったのです。
若い小さな実をたんとつけて、振ればしゃらしゃら涼やかに鳴りそうなほど。
軽く握り締めた、もぎ取られた細い枝から押し寄せる、緑の気配。
ああもう。嬉しくって、嬉しくって、胸が躍って。
あぷあぷと溺れるように呼吸をすれば、肺の奥まで曇天が染み渡りそう。
快くって目眩がします。

鈍色模様の夕暮れに、足取り軽くご機嫌で。
さっきまで帰途をせっついてきた風が、今度はすぐさま押し留めようとする。
ぐるぐる、巡る。忙しない、せっかちな風の渦巻き。
掻き乱される髪も構わないで、その触れられそうな風の束を楽しんでいました。
すると。
さっきの枝とはまた違う、更に濃厚な緑の香気に足を止めました。
香気と呼ぶには、あまりに精の強い。森の中でしとど滴るような。
どういうことかしらと周囲を見回しましたら、すぐに正体が知れました。
ちょうど前を通りかかった、氏神さまのお宮。
その境内でなく、周囲にそっと繁っている、森とは遠い、まばらな林で。
大木が一本、根から覆っていました。
誰かが見たら、わたしはさぞ、ぱあっと顔を輝かせていたでしょう。
駆け寄り、足場となる倒れた石碑にひょいっと飛び乗ると。
林立する石柱に囲まれた木のさまが、実によく見えました。
先程の枝の比ではない、わたしの手首ほどもある枝は既に処理済みでした。
近所には人家も、人通りもある道なため、綺麗に切り落とされています。
即座に動かすことのできない幹はそのままに、枝は全て短くまとめられ。
掘り起こされたばかりの土を枕に、立派な根っこがごっそり現れていました。
よくよく近づいてみれば、倒れた際に石柱へぶつかりでもしたのでしょう。
幹が途中でぱっくり裂けて、粗い樹皮の奥から、真っ白な芯が見えていました。
その裂け方の、見事なこと。
職人さんが樹皮だけを剥いだように、芯の表面は滑らかで、建材のよう。
おそるおそる指を伸ばして触れましたら、ほんのり、しっとり濡れていました。
雨ではない、瑞々しさでした。

本来ならば、濡れた土のふくふくと豊かな香りが満ちていそうなものですが。
こんなに風が狂奔していては、そこに留まることもできません。
すぐに緑と一緒に掻き混ぜられて、渾然一体と化してしまう。
かきまぜる。かきまざる。
何て混沌として豊穣で満ち足りていて曇天で水で踊り狂っているのか。
全てを乱暴に空へ巻き上げてしまいそうな、この、加減知らずの青嵐。
こんなにも、お供したくなってしまうほど心浮く風は、久方振りでした。
何て愛しい。





ここまで駄文にお付き合いくださり、ありがとうございます。
――ところで。
以上の文章には、一つ、致命的な欠点があります。
……い、いえ、欠点はそりゃたんとありますが。特にひどいの。
それは一体、何でしょう？
答え合わせは、また後日にでも。